第027話 天使ちゃんのアトリエ
列車が動き出し、地平線まで見える平原や森なんかが窓から見えている。
ウェンディは窓に張り付いてそれをずっと眺めていた。
「先輩、ミックに着いたらどうします?」
ボックス席の正面に座っているエルシィが聞いてくる。
「着くのは時間的に4時過ぎか……町を見て回るより、宿探しだな」
「イレナさんのところに行きますか? ほら、紹介してくれるって言ってたじゃないですか」
確かに宿屋や飯屋を紹介してくれるって言ってたな。
「旅行雑誌に何か載ってるか?」
「そういうのは王都しか載ってないですね」
まあ、そうだろうな。
王都で買った旅行雑誌だし、メインは王都だ。
「じゃあ、行ってみるか。知らない土地だし、いきなり宿屋に行って、変なところに泊まりたくない」
ぼったくりならまだしも外観は綺麗で内装がひどかったりすると嫌だし。
「ですよね。では、着いたらイレナさんの店に行ってみましょう。問題は例の仕事を受けるかですね」
確かにな。
「俺は仕事内容次第だが、受けてもいいと思っている。儲けのチャンスだ」
この旅は永住の地探し兼世界を見て回るのが目的だが、もう1つ大事なのがアトリエを開くための資金集めだ。
儲けのチャンスがあるなら逃したくない。
「じゃあ、まずは話を聞いてみましょうか」
「そうするか。話の内容次第では断ろう。儲けのチャンスでもリスクを減らす。これでいいな?」
「はい。それが一番です」
俺達は方針を決めると、ウェンディと共に窓の外を眺める。
何もない自然の景色だが、心が落ち着く気がしてくる良い景色だ。
「なんか久しぶりに海が見たくなってきたな」
イラドの王都は内陸にあるため、川はあるが、海なんか見えない。
前世ではテレビも含め、あれだけ見た海を今の人生では一度も見たことがないのだ。
「海を見たことあるんですか?」
窓の外を眺めていたエルシィが聞いてくる。
「あー、ほら、前世のことだ。小さな島国で海が身近だったんだよ」
「あ、なるほど、海は良いですね。私は見たことがないので一度は見てみたいです」
「私も見たいです」
ウェンディもこちらを振り向き、同意する。
「見に行っても良いかもな」
「行きましょうよー」
「そうですよ」
2人は乗り気だ。
「まあ、考えてみるか。行ってみたいところはたくさんあるだろ」
「それもそうですねー」
「私、山にも行きたいんですよ」
俺達は景色を眺めつつ、そういう話をしながら到着を待った。
そして、4時過ぎにミックの駅に着いたので列車から降りる。
「着きましたねー」
「そうだな」
「随分と人が減った気がしますね」
ウェンディが言うように王都の駅と比べると数人しかいないし、駅の規模自体も小さかった。
「地方はこんなものだろう。それほど大きい町っていうわけじゃないらしいしな」
イラドも王都や一部の町はかなり発展しているが、地方に行けば一気に田舎になる。
「とりあえず、出てみましょう」
「そうだな」
俺達は改札を抜け、駅を出た。
すると、木々や草花の緑に溢れる町並みが広がっていた。
建物も何階建てもあるような感じではなく、昔ながらの平屋や2階建ての家ばかりだ。
「ほー……確かに落ち着けそうな雰囲気ですね」
「そうだね。ゆっくり過ごすのには良さそう」
「ゆっくり? きゃ?」
「こらー」
2人がなんかよくわからないやり取りをしている。
「イレナの店はどこだろうか?」
「えーっと、先輩、名刺をもらえます?」
「ほら」
エルシィに名刺を渡す。
「ありがとうございます……すみませーん」
すると、エルシィはその名刺を持って、歩いているおばさんのもとに向かった。
「俺、アトリエを開きたいって言ったが、エルシィがいないとすぐに潰れる気がしてきたな」
よく考えたら個人店で大事なのはああいう愛想と積極性な気がしてきた。
これまでは言われたものを作るのが仕事だったが、個人店だと営業もあるし、縦だけじゃなく、横の付き合いもあるだろう。
「大丈夫ですよ。一緒にいれば良いんですから。あなた方はお互いの欠点を補い、長所を伸ばせる良いコンビだと思います」
そうかねー?
「せんぱーい、聞いてきましたよ。町の北の方にあるらしいです」
エルシィが戻ってきた。
「じゃあ、行ってみるか」
「ええ」
俺達は北の方に歩いていく。
ミックの町中を歩いていくと、やはり昔ながら町並みであり、のどかな感じがした。
歩いている人々も笑顔だし、広場では子供達が遊んでおり、平和な空気が流れている。
「なるほど……こうして歩いているだけで過ごしやすそうだなって思えるな」
「静かで良い町ですね。治安も良さそうです」
「やはり王都なんかの大きい町よりこういうのどかな町の方が住むには良いかもな。これまでの生活とは違い、ゆっくりできそうだ」
「もう……!」
何故かエルシィが腕を叩いてきた。
「なんで叩かれたんだ?」
「何でもないでーす。それよりも先輩、イレナさんのお店はあそこですね」
エルシィが前方に見えている青い屋根の建物を指差す。
「あそこか」
イレナの店は王都で見た薬屋と同じくらいのコンビニサイズの大きさであり、地方の個人店と考えればそこそこ立派だった。
「私達もあんな感じでアトリエを開きたいですね」
「内装や外観は任せるわ」
俺、センスないもん。
「お任せください。人形が店番をしている店って評判になれますよ」
確かにそれはすごい評判だな。
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