第024話 可愛い
「あのー、ちょっと良いですかぁ?」
エルシィが得意の親父転がしの甘い声を出しながらおじさん店員に声をかけた。
俺は近くで商品を見ているふりをしながら2人のやりとりを様子見だ。
「ん? どうしました?」
店員は新聞を畳み、応対する。
「ここってポーションを扱ってますよね?」
「もちろんですよ。薬屋なんでね。何か入用ですか?」
「あ、いや、買い取りをやってないかなーっと思いましてぇ……」
エルシィはそう言って、昨日作ったポーションを1つだけカウンターに置いた。
「ほう? 錬金術師ですか?」
店員がポーションを手に取りながら聞く。
「ええ。旅行中なんですけどちょっとお小遣いに余裕を持たせようかなーって」
「なるほど。少々、お待ちを……」
店員はポーションをじーっと見て確認をする。
「Bランクはあると思うんですけどぉ……」
昨夜、おしゃべりをしながらぱぱっと作ったものだが、エルシィはそれくらいできる錬金術師なのだ。
まあ、コネで入った貴族連中とは違い、本物の宮廷錬金術師だから当たり前だけど。
「うむ……これは見事です。確かにBランクはあります。さぞ腕のある錬金術師なんでしょうね」
店員の目の色が変わった。
「……おじさんの心に欲望の色が付きました。もちろん、えっちな意味じゃないです」
ウェンディが小声で教えてくれる。
それを聞いて一瞬、止めようかと思ったが、こういうのが得意なエルシィに任せることにした。
「ゲイツでお店をやってるんですよー」
「なるほど。ちなみにですが、売りたいポーションはこれだけ?」
「あ、もう1つあります」
エルシィがポーションをもう1つ取り出して、カウンターに置く。
すると、店員が秒でそれを手に取り、じーっと見始めた。
「……おじさんの心に欲望の色が濃くなりました。そろそろ過保護な旦那様の出番かと」
わかっている。
「買い取ってくれますかぁ……?」
「もちろんですよ。1つ1万ゼルで買い取らせていただきます」
「やったぁ」
エルシィがぴょんとジャンプして喜ぶ。
「……わざとらしい」
何だ、今の?
「……今のはないですよね。おじさんは喜んでいるようですけど」
確かに店員はちょっとにやついていた。
「じゃあ、これね」
店員が1万ゼル札を2枚取り出し、カウンターに置いた。
「ありがとうございまーす」
「それでちょっとご相談があるのですが、お時間はありますか?」
「んー? 何ですー?」
もういいな。
これ以上、ここにいるべきではない。
「エルシィ、用が済んだら帰るぞ」
エルシィにあえてぶっきらぼうに不機嫌そうな感じで声をかけ、出入り口の方に向かう。
「あっ……すみませーん。夫がああ言ってますので。待ってくださいよぉー」
エルシィはすぐに追いついてくると、俺の腕を組んで寄りかかってきた。
そして、そのまま店の外に出ると、来た道を引き返していく。
「嫉妬深い旦那さんっぽくて良かったですよ」
ウェンディが褒めてきた。
「亭主関白っぽくしたんだが?」
「いやー、可愛い奥さんに悪い虫が付かないように目を光らせている感じでしたよ」
「先輩、私のこと好きだからなー。さっきのどうでした? 可愛かったでしょ」
うーん……
「ちょっとわざとらしすぎんか? ウェンディが白い目で見ていたぞ」
しらーって感じだった。
「あれくらいがちょうどいいんですよ。愛嬌ですよ、愛嬌」
「だってよ」
ウェンディに振る。
「私のように凛々しい女性の方が良いと思いますけどね」
人形が何言ってんだ?
媚びの塊だろ。
あと絶対にお前は凛々しくない。
「元のお前ってどんな感じだ?」
「こんな感じです」
ウェンディが両腕を上げ下げする。
やっぱり凛々しさはない。
「つぶらな瞳だな」
「そうですかね?」
こいつ、何歳なんだろう?
天使だから年齢という概念がないのかもしれないが、幼いような気がする。
「先輩、それよりもさっきの店のことをどう思いました?」
エルシィが本題に入った。
「お前が言うように供給が需要に追い付いていない感じだな。あの質の割にかなり高いポーションはそういうことだろう」
「やっぱりそうですよね。さっきの店員さんは私にポーションを作ってくれって頼むつもりだったんですかね?」
絶対にそれだ。
「そうだろうな。お前がBランクのポーションを作れる錬金術師とわかったら目の色を変えたし、ウェンディもあの店員の心に欲望の色が付いたって言っていた」
「間違いないです」
ウェンディが腕を上げて同意する。
「儲けるチャンスとでも思ったんでしょうね。まあ、それは私達もですが……」
ポーションが1万ゼルで売れるっていうのは大きい。
80個作れば飛空艇に乗れるほどの金だ。
「金儲けはしたいが、さすがに王都はマズい」
「ですよね。大量のポーションを卸せばそれだけ噂になりますし、しかも、それが外国から来た仲良し新婚夫婦です。このことがイラドの密偵の耳に入ったらピンチです」
仲良し新婚夫婦は置いておくが、イラドの人間だったら俺達って勘付くだろうからな。
「でも、お金儲けのチャンスですよ? アトリエを開く資金になりますし、失った飛空艇代を取り戻すチャンスです」
ウェンディの言うことも一理ある。
俺達は有能な錬金術師であり、ポーションなんていくらでも作れる。
そして、この国はそれが高値で売れるのだ。
このチャンスを逃がすような人間は大成しない。
あ、いや、大成しなくてもいいんだけど。
「いかんな。まだ昔の癖が残っている」
「どうしました?」
エルシィが聞いてくる。
「今のこの状況を好機と考えてしまっている。多少のリスクを冒してもいくべきだとな」
「うーん……まあ、私でもこの状況は魅力に感じますよ。それにこの状況を放っておけるほど貯金に余裕があるわけでもありません。ここはこのチャンスを生かすことを前提にリスクを減らす方向で考えてはどうですか?」
多少、リターンが減ってもリスクを減らす方向か……
「ちょっと喫茶店でも行こうぜ」
「そうしましょう」
「ケーキ、食べましょー」
俺達は近くにある喫茶店に入り、相談することにした。
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