第020話 b(゜Д゜)グッジョブ!!
「よし、じゃあ、そんな感じだな。エルシィ、まだ飲むかもしれないが、先に風呂に入ってこいよ」
暖炉が温かいとはいえ、冷えただろうし。
「そうします」
エルシィは立ち上がると、風呂場の方に向かう。
「あのー、レスターさん。ちょっと確認なんですけど、エルシィさんとご結婚されたんですか?」
エルシィ・ハートフィールドだからな……
「設定だと思うが……」
「そう思います?」
うーん……
「なあ、お前って女子だろ?」
「女子? 天使なんでそう呼んでいいのかはわかりませんが、まあ、女の子でいいです」
天使で人形だが、リアクションが乙女っぽいので女子としよう。
「アトリエを開きたいから国を出て、ついてきてくれって言われたらどう思う?」
「一緒にお店を開くっていうことはそういうことでは? 私は横で聞いててそう思いましたもん。というか、そもそもなんですけど、恋人なんですよね?」
恋人……
「んー? 違うような?」
「え? そうなんですか? 熟年夫婦みたいな距離間なのに?」
熟年夫婦って……
「そういう空気になったことないぞ」
「は? さっき思いっきりそういう空気だったじゃないですか。というか、エルシィさんは100パーセントその気だと思いますけど……」
そ、そうか……
「俺はこれまでそんな感じで特定の誰かと親しくなったことがないからな……」
前世も今世も独身だったし、彼女もいなかった。
なんなら友人と呼べる存在もいなかった。
「なるほど。距離感がわからないのはそのせいですね。エルシィさんのことはお嫌いですか?」
「そんなことない。素直で真面目だし、明るい子じゃないか」
「見た目はどうですか?」
見た目?
「小柄で可愛らしい子だと思うぞ。ちょっと心配になるくらいだ。だから同じ部署になるように進言したし、家も治安の良い所に住まわせた」
「ふむふむ。レスターさんはなかなかに独占欲の強い方ですね」
そうか?
「ただの心配だぞ。ダメだったか?」
「あ、いえ、お気になさらずに。そういう束縛を嫌がる方もいますが、エルシィさんはそちらの方を喜ぶ方なので問題ないです」
そうなのか?
「まあ、面倒は見てやったな」
勉強も錬金術も見たし、就職先の相談にも乗った。
「なるほど。カウンセリング結果が出ましたね」
カウンセリングだったのか……
「結果は?」
「今現在の御二人と結婚後の生活に差はないでしょう。完全にご夫婦ですね」
ウェンディが人形の柔らかい手で音の出ない拍手をする。
「それがカウンセリングか? というか、夫婦か、これ?」
「だって何にも変わらないじゃないですか」
「いや、あるだろ。俺だって男女間に色々あることは知ってるぞ」
小学生じゃないんだ。
「エルシィさんがお嫌なんですか? さっき小柄ながらも女性らしい身体つきで可愛らしい笑顔が好みって言ってたじゃないですか。抱いちゃえよ。奥さんとお子さんと一緒に家族経営のアトリエで平穏で幸福な人生を歩んじゃえよ」
ウェンディが肩に止まり、柔らかい肘で頬をつついてきた。
「見た目についてはそこまで言ってないが……それにエルシィの意思もあるだろう」
「そこは気にしなくていいです。エルシィさんは絶対に首を横に振りませんから」
なんでだよ……
「エルシィを何だと思ってんだ?」
「あなたはこれまでにそれだけの信頼と信用を勝ち取ったということです。逆に言うと、この状況で将来、アトリエを開いたとしましょう。そして、それをエルシィさんも手伝うわけです。しかし、ある日、あなたはどこぞの馬の骨と良い仲になり、結婚を決意します。どうですか? これまで散々、エルシィさんの人生を決めてきたくせにそこまで付き合わせたエルシィさんに何て言葉をかけるんですか? あなたこそ、エルシィさんを何だと思っているんです?」
馬の骨という言葉はどうかと思うが、ちょっと嫌な気持ちになったな……
「そうか……」
ウェンディの完全にご夫婦ですねっていう言葉の意味がちょっとわかった。
俺はずっとあいつの人生を勝手に決めてしまっていたんだ。
もちろん、良かれと思ってのことだが、ずっと引っ張ってきたんだ……
そして、国まで捨てさせてしまった。
「エルシィさんの心にあるのは『何があってもあなたがなんとかしてくれるだろう』です。あなたは頭も良く、とても優秀ですし、これまでもそうやってエルシィさんを助けてきたわけです。しかし、一方でそれは悪い言い方をすれば依存です。そうしたのはあなたですのでちゃんと責任を取りましょう。それにあなただって、結婚願望は持ってたじゃないですか。自分を好いてくれる優良物件が目の前にいるのですから何も悩むことはありません。さあ、天使の前で告白なさい。エルシィの人生に責任を持ちます。はい、復唱」
ウェンディが俺の目の前に浮き、両手を広げる。
「エルシィの人生に責任を持ちます……」
「よろしい。この大天使ウェンディが神に代わってその誓いを聞きました。あなた方の人生に祝福があらんことを……」
あれ? 誓ったの?
エルシィがこの場にいないのに?
「え? いいの?」
「いいんです。さあ、飲んで、飲んで」
ウェンディがグラスにワインを注いでくれたので一口飲む。
「せんぱーい、お先にお風呂をもらいましたよー。先輩もどうぞー」
風呂場の方からご機嫌なエルシィがホクホク顔で出てきた。
「ああ……そうだな」
いいのかなーと思いつつも風呂に入り、その後もワインを飲みながらゆっくり過ごしていった。
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