第019話 今後は?
「さすがにちょっと冷えましたね。酔いも冷めちゃいました」
宿屋の部屋に戻ると、ウェンディを抱えているエルシィが火が点いていない暖炉の前にあるテーブルにつく。
「まだ飲むか?」
「飲みまーす」
「良いですねー。今日は楽しむ日です」
ウェンディが言うようにこれまでの逃亡があったから今日は目一杯楽しんでほしい。
「じゃあ、悪いが、下でワインをもらってきてくれるか? 俺は暖炉に火を点ける」
「わかりましたー」
エルシィが敬礼をし、部屋から出ていったので暖炉に火を点けた。
すると、温かい火が点き、薪がぱちぱちと音を立てていく。
そして、すぐにエルシィがワインを持ってきて戻ってきたので3人で乾杯をし、2次会を始めた。
「今日は本当に良い日ですね。楽しいし、旦那さんが優しかったです」
エルシィが満面の笑みでワインを飲む。
「俺はいつも優しいわ」
「そうでしたね。この町はどうでした?」
この町か……
「良いところだと思う。綺麗な街並みだし、飯も美味い。それに何より、悪い雰囲気がなかった」
「歩いている人達も笑顔でしたし、治安も良さそうでしたよね。永住の地にどうですか? もちろん、ほとぼりが冷めた後の話です」
今はまだイラドの刺客なんかを警戒しないといけないからな。
「逆にお前はどう思った?」
「すごく良いと思います。ただ、難しいでしょうね」
「そうだな。すごい家賃だった」
観光していると、アパートなんかも仲介をしている不動産屋があったので覗いてみたのだ。
俺達が住んでいたイラドの王都より高かった。
「ええ。これだけ良い町ですし、何よりも観光地の王都ですからね」
「ここで店を開こうとすると、とんでもない金額がかかりそうだな」
「でしょうねー。まあ、候補地の一つくらいにしましょうよ。他にも町はいっぱいありますし、世界は広いです」
確かにな。
焦ることでもない。
「もう少し、世界を見て回るか……エルシィ、飲んでいるところ悪いが、ポーションを2、3個作ってくれないか?」
俺はエリクサーになってしまうから作れない。
「いいですけど、何に使うんです?」
「俺達はこれから資金を集めないといけない。俺達ができることは錬金術だ」
「作って売るわけですか。確かに私達は錬金術師ですもんね」
普通に働いていたら店を出すのに何十年もかかってしまう。
「そういうことだ。明日は市場や店を回ってどんなものかを調べようと思う」
「それで基礎中の基礎であり、一番需要があるポーションなわけですね。わかりました。すぐに作ります」
エルシィはカバンから薬草とコップを取り出し、テーブルの上にある水差しでコップに水を注いだ。
そして、手際よく錬成していく。
「さすがだな。上手だ」
さすがは宮廷錬金術師。
「慣れたものですし、先輩に鍛えられましたから。あと部長」
「部長なー……」
俺達が作ったポーションをどこぞに売ってたな……
「あの人、どうなったんですかね?」
「さあ? あまり興味がないな」
「まあ、そうですね」
特に良い思い出もない。
「無能の小物のことは忘れよう。というか、刺客のことは警戒しないといけないが、もうイラドはどうでもいいだろう」
「そうですね。未来に進みましょう」
エルシィは頷くと、カバンの中から宮廷錬金術師の資格証を取り出した。
「もうそれもいらんな」
俺も資格証を取り出す。
「これをもらった時はすごく嬉しかったんですけどね。でもまあ、最後の最後で活躍してくれました」
俺を密輸する時な。
それがあったから空港の審査をスルーできた。
「ウェンディ、エリクサーを作れる能力をくれてありがとうよ。ピンチにはなったが、イラドから出て、あそこにずっといてはいけなかったんだっていうことに気付けた」
あの国はダメだわ。
「そうですか? なら良かったです」
ウェンディがほっとした表情になった。
「よし、イラドの宮廷錬金術師のエルシィ・ヘミンズリーはもう死にました。今日から旅の錬金術師のエルシィ・ハートフィールドです」
エルシィ・ハートフィールドさんはそう言って資格証を暖炉の中に投げた。
すると、資格証はすぐに燃え上がり、灰に変わる。
「そうだな。俺もアトリエを開きたい旅の錬金術師だ」
そう言って、資格証を暖炉に投げた。
もちろん、資格証は燃料として燃えていく。
「御二人の覚悟、この天使ウェンディが見届けましたよ。御二人の未来に幸福が訪れるように祈り、手助けをいたしましょう」
天使ちゃん人形がうんうんと頷いている。
「ウェンディちゃん、ありがと。先輩、市場調査をした後はどうします? 王都を離れますか?」
「そのつもりだ。この国で他に行きたいところはあるか? 永住の地探しだし、行きたいところがあればそこでいい」
とにかく、まず王都から離れることだ。
そのあとはゆっくりでいい。
「そうですねー……ミックの町なんか良いんじゃないですかね? ここ以上に歴史ある町で旅行を穏やかにしたいならおすすめって旅行雑誌に書いてありました」
穏やかというワードは良いな。
「場所は?」
「ここから南ですね。王都からそこまで離れてないですし、列車が通っているので2時間ちょっとで着くそうです」
近いな。
それに列車ならそんなに金はかからない。
「良いかもしれんな。そこに行ってみるか」
「そうしましょう。ウェンディちゃんもいい?」
「もちろんです。どこでもついていきます。どーんとお任せください」
ウェンディが拳で自らの胸を叩いた。
頼もしいような、そうじゃないような……
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