第018話 ふいんき◎
ワインと共にウェンディが選んだ料理を頼むと、すぐにワインがやってきたので乾杯をし、川の方を眺めながら飲む。
「すごいな、ここ」
「何気にこういうところは初めてですよね」
確かにそうだな。
「あれ? 来たことないんですか? イラドもかなり発展しているように見えましたし、こういう感じのロマンチックなお店も多そうですけど」
ワイングラスを抱えているウェンディが首を傾げながら聞いてくる。
「イラドにもあるぞ。ピアノとかが流れている上品な店や眺めや雰囲気の良い店」
「私達は行けなかったですけどねー」
「あ、貴族の方しか入れない感じですか?」
ウェンディが察した。
「まあな。俺達は庶民だし」
「まーた、それですか……それでも庶民用の飲食店とかあるでしょ」
「差がすごくてな……あれなら家で飲み食いした方が良い」
あと治安が良くないし。
「私達は庶民だけど、給料だけは上級だったからね。先輩と一緒にご飯を食べることも多かったけど、基本的にはどちらかの家で食べてばかりだったよ」
「完全にご夫婦ですね」
「完全ではないけどね。でも、やっぱりこうやって他所の国に来ると、ウチの国ってヤバいんだなーと思えちゃうよ」
まあな……
国力はあるし、豊かな国なんだが、ちょっと歪なのだ。
「出て良かったじゃないですか。お、料理が来ましたよ」
ウェンディが言うようにウェイトレスが料理を持ってきてくれ、テーブルに並べていく。
メニューはソーセージ、キノコが入ったサラダ、チーズがかかった丸いパンだった。
「美味しそうですねー」
ウェンディが嬉しそうにフォークとナイフを持つ。
「食べるか」
「そうですね」
俺達はまず、キノコのサラダを取り分けて食べる。
「おー、キノコの旨味がすごいです!」
「美味いですー!」
「やっぱりドレッシングが全然違うな……」
これは美味いわ。
どんどん食べられる。
「お次はソーセージです……ほら、美味しい! 天使の目は誤魔化せませんよ!」
「肉々しいのにさわやかな感じがします! 香草ですかね?」
2人がソーセージを食べて絶賛したので俺も食べてみる。
「美味いな……」
ワインにすごく合うわ。
ソーセージなんてどれも一緒だろと思っていたが、大違いだ。
「最後のパンは何ですかね?」
「え? ウェンディちゃんが選んだんでしょ?」
あまりにも嬉しそうに選んでいたので俺達は空気を読んで任せていたのだ。
「おすすめって書いてあったんで。まあ、食べてみましょう」
ウェンディが10センチくらいの丸いパンを食べだしたので俺達も食べてみる。
「むむっ! チーズがかかったパンの中にひき肉が! やりますね!」
「美味しいね……先輩、私達の国がメシマズ国家と呼ばれるのも納得な気がしてきました」
「そうだな。イラドで食べたことがない」
うん、美味い……
この差は何だろう?
しかも、俺達庶民だけが不味いものを食べているということもない。
貴族も利用する魔法学校の食堂でも卒業パーティーでも俺達が食べているものと同じような感じだったし。
俺達はその後も会話や風景を楽しみながらワインや食事を続けていく。
「綺麗ですね」
夕日が沈み、夜になっても周囲の建物からの明かりが川を照らし、煌びやかだった。
「確かにな」
「天上からは見られない光景です。やはり地上に降り、自分の目で見ないといけませんね」
ずっと見ていられる気がしたし、これは確かにムードが出るわ。
「ちょっと冷えてきたな」
「そうですね。まだ夜は冷える時期ですし、そろそろ帰りましょうか」
俺達は1階に降り、会計をすると、店を出る。
「いやー、美味しかったですねー。それにやはり川が良かったです」
ウェンディは大満足だったようだ。
「良かったな。じゃあ、宿屋に帰るか」
「あ、先輩、もうちょっとだけ付き合ってください」
「ん? もう1軒行くのか?」
別にいいが、そんなにお酒が好きだったっけ?
「いえ、イルミネーションが綺麗な通りがあるんですよ」
あー、ロマンチックで有名な通りがあるって言っていたな。
「せっかくだし、行ってみるか?」
「はい」
俺達はエルシィの案内で繁華街を歩いていく。
夜になるとさらに人が増えていくのだが、治安が悪い感じではないし、普通に賑わっているだけだった。
そして、そのまま歩いていき、建物を右に曲がると、川に反射した光とは比べ物にならない数の光が見えた。
「おー……」
「すごいな……」
「綺麗ですね」
そこは木々に囲まれた通りだったが、通り沿いに並んだ木々がキラキラと光り輝いている。
外気は少し冷えているのに温かくて幻想的な光が心を温かくしてくれるような風景だった。
「人が多いですけど、見事にカップルだらけですね」
ウェンディが言うように多くの人がイルミネーションを眺めながら歩いているが、すべて若い男女だった。
「まあ、ここはな……たとえ、家に帰るための近道だったとしても通りたくない」
きついし、なんか空気を壊しそうで周りの人に悪い。
「私達もカップルですよー。というか、新婚です」
エルシィが満面の笑みを浮かべながら腕を組んできた。
「そうだったな。まあ、お前となら大丈夫だわ」
部長とは嫌。
ウェンディは……悪いけど、2人だけだったらもっと嫌だ。
「じゃあ、ちょっと歩きましょうか」
「そうだな」
俺達は周りのカップルと同じようにイルミネーションを眺めながら通りを歩いていく。
そして、十分に堪能すると、宿屋に戻った。
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