第124話 高貴
「結構、疲れますね……」
「ああ。エルディアの町を思い出すな……」
馬車を使わないであろう使用人達は大変だ。
俺達がなんとか登り終えると、鉄格子の柵に囲まれたお屋敷の前にやってきた。
木製の門は閉じられており、その門の前には槍を持った兵士が立っている。
「見ない顔だが、何者だ?」
門番が怪訝な顔で聞いてきた。
「ちょ、ちょっと待って……」
「ハァ……ハァ……」
俺達は息を整える。
「ここに来る客は大抵、息が上がっているが、それにしても君達は体力がないな……」
門番が呆れた。
「デスクワークなもので……ふぅ……すみません」
「あー、疲れたー」
ホントだわ。
「それで? 何か用かね? ここはマルドナド伯爵のお屋敷だぞ。観光客が来るようなところではない」
門番が苦笑いを浮かべながら聞いてくる。
「俺達は旅の錬金術師だ。ギルドに仕事がないかと聞いたらここを勧められてな。なんでもアデリナ様がネックレスの修理を頼みたいとか……」
「あー、君達は錬金術師か。ちょっと待っててくれ。お嬢様に確認してくる」
「わかった」
頷くと、門番が門を開け、中に入っていった。
「やっぱり坂道はないな」
「ですねー。でも、眺めは良いですよ。ほら、あそこが駅です」
エルシィが後ろを向いたので俺も振り向く。
すると、町だけでなく、この辺一帯を見渡すことができた。
「おー、すごいな。駅も線路も見える。赤い屋根の宿屋も見えるな」
「ここから見ても目立ちますねー」
ぽつんと赤があるからな。
「風も気持ちいいな」
「ええ」
俺達が景色を眺めながら待っていると、後ろで門が開く音がしたので振り向く。
「待たせたな。お嬢様がお会いになられるそうだ。優しいお人だし、多少の無礼には目をつぶってくださるが、失礼のないように」
「わかった。案内は?」
「門をくぐってそのまま進めば屋敷の前にメイドがいる。その者についていってくれ。俺はここを離れるわけにはいかない」
ボケか?
さっきまでおもいっきり離れてただろ。
「わかった。じゃあ、行ってくる」
「ありがとうございまーす」
エルシィが礼を言うと、門番が門を開いてくれたので敷地の中に入る。
そして、そのまま屋敷に向かって歩いていると、屋敷の前にメイド服を着た金髪の女性が立っていた。
「あー……メイドをしているって言ってたな」
「オフェリアさんですねー」
そのメイドは王都で俺達を案内してくれたオフェリアだった。
「ようこそいらっしゃいました」
オフェリアが微笑む。
「無事に着いたんだな」
「ええ。引っ越しを終えました。今はこちらで働かせてもらっています」
ふーん……
「話をしたいが、後にしよう。アデリナ様の依頼の件で来た」
「承知しております。では、こちらにどうぞ」
オフェリアに促され、屋敷の中に入る。
屋敷の中はさすがは領主の屋敷だけあって、調度品なんかも並んでおり、昔テレビで見たヨーロッパの貴族の屋敷そのものだった。
よく考えたら貴族の屋敷に入るのは初めてだということに気が付いた。
エルシィと共に調度品を見渡していると、オフェリアが正面の階段を昇っていったので俺達も続く。
そして、廊下を歩いていくと、奥にある扉の前で立ち止まった。
すると、オフェリアが扉をノックする。
「アデリナ様、錬金術師のハートフィールドご夫妻をお連れしました」
ハートフィールドか……
『ありがとうございます。入ってください』
中から女性の声が聞こえると、オフェリアが扉を開け、部屋に入った。
俺達も続いて部屋に入ると、豪華な丸テーブルにつく黒髪の若い女性がおり、優雅にお茶を飲んでいる。
そして、その斜め後ろには剣を持った騎士が立っていた。
「フリオ、か……」
その騎士はどう見ても俺達が知っている人物だった。
軍服にも似た紳士服を着ており、帯剣している。
もちろん、貴族令嬢の後ろに立ち、帯剣している男が商人なわけがない。
「あちゃー。予感的中」
エルシィが目を押さえる。
「予感じゃないがな」
わかっていたことだ。
「お初にお目にかかります。私がこの町の領主を務めるマルドナド伯爵の娘であるアデリナです」
黒髪の女性が立ち上がり、自己紹介をしてきた。
「どうも。旅の錬金術師のレスターだ」
「エルシィでーす」
「ようこそおいでくださいました。立ち話もなんですし、どうぞお座りください」
アデリナが勧めてきたのでエルシィと並んで席につく。
すると、オフェリアもエルシィとアデリナの間に座った。
これにより、フリオがアデリナとオフェリアの間に立っていることになる。
「ふっ、メイドが席につくとは斬新だな」
「そういうこともありますよ」
オフェリアは微笑むと、テーブルに置かれた飲みかけのカップを取り、優雅に口をつけた。
「御二人はあまり驚かれていないようですね。さっきの反応的にもわかっていた様子でした」
アデリナが首を傾げる。
「悪いが、フリオが商人なのもオフェリアが庶民なのも無理があるぞ。俺達は貴族ばかりの魔法学校、職場にいたんだ」
「どう見ても騎士様でしたし、貴族令嬢でしたよー」
なー?
「そうですか……言われていますよ?」
アデリナが苦笑いを浮かべながらフリオを見た。
「申し訳ございません。私の不徳の致すところです」
不徳も不徳。
商人らしさがまるでなかったし、何よりもペインで魚の運搬を頼まれたが、あの木箱から魚の匂いが一切しなかったぞ。
「ふっ……オフェリア?」
フリオの言葉に笑ったアデリナが今度はオフェリアを見る。
「私は完璧だと思ったんですけどね」
どこがだよ……
「庶民にはまるで見えんぞ」
「そうですか。貴族の血は隠せませんでしたか……」
ホント、隠せていない。
「貴族じゃないだろ」
「……と言いますと?」
「もっと上。王族だな」
「ほう……?」
オフェリアが笑みを消し、カップをテーブルに置いた。
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