第121話 ルビアへ
朝起きると、隣のベッドでエルシィとウェンディが気持ちよさそうに寝ている。
「起きろー。9時に出るんだろ?」
「眠いですー……」
「私もー……」
2人は布団を被ってしまった。
「起きろっての。お前らが9時って言ったんだろ」
『ウェンディちゃんが言ったー……』
『エルシィさんが言ったー……』
どっちもだよ。
「いいから起きろっての。列車の中で寝てもいいから」
「はーい……」
エルシィが布団から出てくると、ウェンディを抱えて起き上がる。
「人形なのになんでこんなに眠いんですかね?」
「さあ?」
そもそも天使って寝るのか?
「顔洗ってこい」
「はーい」
俺達は順番に顔を洗うと、着替えて1階の食堂で朝食を食べる。
そして、部屋に戻り、準備をすると、1階に降り、受付で数日間の礼を言い、宿屋を出た。
「さて、駅に行くか」
「ルビア行きの駅は北ですねー」
「れっつごー」
俺達は大通りを歩いていき、中央の広場までやってきた。
そこから右に向かい、北の大通りを歩く。
「平和ですねー。ここにイラドの密偵っているんですかね?」
「いるとは思うが、多分、こういうところはイラドから派遣された人間ではなく、現地の人間だろう。協力者ってやつだ」
多分、そう。
「私達のことは聞いているんですかね?」
「多分、聞いているとは思うが、それだけではな……下手に声をかけたり、探ったりして目立つようなことになったら本業に差し支えるからマズいだろう」
この世界には写真がない。
だから俺やエルシィの特徴を聞いていたとしても俺達を見て、すぐに結びつくのは難しい。
ましてや、エルシィはウェンディという人形を抱えているからそっちが目立つ。
「でしたら問題は次のランスですね」
ランスは密偵の数も多いだろうし、ランス自体がイラド側だからな。
「ランスでは王都に寄らない。あくまでも地方の町を巡って、次の町に行く感じだな」
「それが良いでしょうね。ランス、ゲイツは王都に行かない方が良いでしょう」
観光名所に行けないのは残念だが、まあ、どっちみち、王都で店を開くつもりはないから良いだろう。
「観光地は王都だけじゃないさ」
「そうですね。ランスのオーレーには大きな湖があるらしいですよ。一緒にボートに乗りましょー」
「ボートに乗りたいです!」
ウェンディもボートに乗りたいらしい。
ウェンディは飛べるのに列車や船といい、馬といい、乗り物が好きだな。
「じゃあ、そうするか」
俺達が話をしながら歩いていくと、北のメインズ神殿の前の広場までやってきた。
「駅は左の方ですね」
北の駅は城とは逆の北西の方にあるのだ。
「時間は……8時30分か。ちょうどいいな」
俺達は左の方に歩いていき、駅に入る。
そして、受付で切符を買い、構内を抜けて駅のホームにやってくると、すでに列車が待っていたので乗り込む。
今回は1時間で着くということなので個室ではなく、普通のボックス席を取った。
「まだかなー?」
席につくと、ウェンディがいつもように窓に張り付く。
「もうちょっとで出発だな」
俺達がそのまま待っていると、列車が動き出す。
そして、すぐに駅を抜けると、平原を進んでいく。
「北の方も平原ですけど、岩がごつごつしてますね」
ウェンディが言うように車窓から見えるのは南と同じような平原だが、そこら中に岩があった。
「北は岩盤の地層なんだろうな。奥に山が見えるだろ?」
「はるか先に山脈が見えますね」
ここからでもかなり高い山々が見えている。
「地理的に例のセール鉱山はあそこにある」
この国最大の鉱山らしいが、ここから見てもかなり大きい山だし、鉱石がいっぱい採れそうだ。
「遠いですね……王都から列車で2日もかかるわけです」
それでいて、1時間で見終わるがっかり観光名所。
「あの山脈の向こうがルドガーだ。そして、あの西の山脈はそのまま北まで続いていて、その先がランスだな。大山脈らしいぞ」
旅行雑誌に簡単な地図が載っているのだ。
「へー……ランスと言うと、私達が最初に行った国ですね。あのレスターさんを密輸したやつです」
嫌なことを思い出させるな……
「確かにそうだが、あれはレムの町な。レムはイラド側だからランスの北西の町だ。俺達はランスの南に行くからかなり離れている」
「なるほど、なるほど。しかし、あんな高い山を列車で登るんですか?」
「いや、ルドガーに行くには南から迂回していく。ランスは途中まで登って、そこからトンネルだな」
そう書いてある。
「トンネル! 見たいです!」
真っ暗で何も見えないと思うぞ。
俺達が風景を眺めながら待っていると、あっという間に1時間が経過し、列車のスピードが落ち始めた。
「もう着きましたかねー?」
エルシィが聞いてくる。
「列車は早くて良いな」
「ですねー。ウェンディちゃん、降りるよ」
エルシィが窓に張り付いているウェンディを抱えた。
すると、ちょうどよく列車が止まる。
「降りるか」
「ええ」
俺達は立ち上がると、列車を出る。
駅のホームは王都の駅と比べると、人が少なく、どこか寂しく感じた。
しかし、静かで心地の良い寂しさだ。
「田舎っぽいな」
「先輩が好きそうな感じですね」
「確かにな」
俺達は改札を抜けると、駅を出た。
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