第116話 んー?
ロロン夫妻にウェンディのことを説明し、錬成作業に戻る。
そして、どんどんと錬成していくと、昼になった。
「レスターさん、お昼はどうされますか?」
バシリオさんが聞いてくる。
「昼か……ちょうど錬成を始めたばかりなんだよな」
10分待つか。
「先輩、私がちょうど終わったところなんで何か買ってきますよ」
エルシィがそう言って立ち上がった。
「この通りをちょっと行ったら美味しいパン屋がありますよ」
ダナさんがエルシィに教える。
「おー、良いですね。じゃあ、行ってきます」
「私も行きます」
ウェンディがふよふよと浮き、エルシィの腕の中に納まった。
「気を付けてな」
「大丈夫ですよ。先輩は何のパンが良いですか?」
「任せる」
食の好みが似ているし、エルシィが選べばハズレはないだろう。
「じゃあ、行ってきまーす」
「パン屋は初めてですから楽しみです」
ウェンディがいるからいっぱい買いそうだなと思いながら見送ると、2人で店から出ていった。
「バシリオさん達は昼食をどうするんだ?」
「私達は弁当を持ってきてます。家は別にあるんですよ」
奥に扉があるが、住居スペースではなく、倉庫か何かか。
「なあ、この店は指輪のデザインなんかもしているのか?」
「もちろんですよ。そういうのは妻が専門です」
ダナさんか。
錬成中の鉱石を持ったまま立ち上がると、受付にいるダナさんのもとに向かう。
「ちょっといいか?」
「どうしました?」
作業をしていたダナさんが顔を上げた。
「実はエルシィに指輪を贈るんだが、どういう模様が良いか相談に乗ってほしいんだ。女性に贈るものなんか作ったことがない」
「奥様に? ウチはそういう仕事もやってますので作りましょうか?」
というか、この人の専門がそれだろう。
だから相談したんだ。
「いや、俺は錬金術師だし、自分でできる。自分が作ったものを贈りたいんだ」
「まあ……! それは素敵ですね! 奥様も喜ぶと思います。指輪はどういったものですか?」
ダナさんが楽しそうに笑うと、なんかバシリオさんが気まずそうな顔になった。
多分、自分が作ったものを贈ったことがないな。
「素材はプラチナだが、普段使いできるように宝石なんかを装飾しないシンプルなものにしようと思っている」
「良いと思います。プラチナは色褪せない強い絆、永遠の恋の約束という意味があります。奥様への贈り物としてはぴったりですね」
あのー……旦那さんの手が止まっちゃいましたけど……
「それで模様はどうだろう? そのまま何の模様のない指輪に錬成するのは味気ないと思うんだが……」
「そうですね……花の模様を施すのはどうでしょう?」
花?
「花が良いのか?」
「奥様は可愛らしい御方ですし、笑顔が特徴だと思います。それに似合うのはやはり花でしょう。こちらのルミアブルムはどうでしょう? 遠い東の国に咲く美しい白銀の花です。永遠の愛を捧げるという意味を持つプロポーズの時に使われる花ですね。奥様の髪色にも合いますし、ぴったりだと思います」
ダナが紙に描かれた花の模様を見せながら勧めてくる。
小さな花弁が柔らかく広がっており、可愛いらしい花だ。
「すまん。この紙をもらえるか? 金は払う」
「いえいえ、ただのスケッチですし、差し上げますよ。でも、贈る時はちゃんとレスターさんが奥様の指に指輪をはめるんですよ。これはルールです。マナーです。法律です」
テンション高いな、この人……
そして、逆にテンションが下がっていく旦那さん……
ついには機械を盾にし、隠れだした。
「助かる。あまりものを贈らない人間でな……」
前世を含めて、恋人どころか友人もいなかったのが最近までの俺だ。
「奥様にも?」
「あいつ、俺のことを先輩と呼ぶだろ。先輩後輩の期間が長かったんだ」
というか、今もそんな感じな気がする。
「でしたら良い機会かもしれませんね。ちゃんと奥様を愛しているんだという意思表示のためにも指輪を贈るのはとても良いことだと思います」
「そうか……わかった」
愛ってなんだろう……
俺は内心、悩みながらも作業デスクに戻り、イラストを眺めながら錬成作業をする。
そして、錬成を終えると、イラストをカバンにしまい、2人が帰ってくるのを待った。
少しすると、紙袋を抱えたエルシィとウェンディが戻ってくる。
「お待たせしましたー。ウェンディちゃんがあれも欲しい、これも欲しいって言うもんで」
「パン屋ってすごいですね。あれも一種のアトリエです」
パン職人だからな。
「何買ったんだ?」
隣に座ったエルシィに聞く。
「先輩はー……ハムと卵が好きだからこれです!」
エルシィが紙袋の中からハムエッグサンドを取り出し、渡してくれる。
「悪いな」
確かに好きだよ。
まあ、嫌いな奴がいるのかっていうくらいの王道だ。
「いえいえー。はい、ウェンディちゃん、クリームパンだよ」
「おー、やはり美味しそうです」
ウェンディがパンを受け取り、抱える。
「私はー……ビーフコロッケパン!」
そっちが良いな……
「美味そうだな」
「そう言うと思ってー、もう1個買ってあります!」
エルシィが紙袋からもう1個のコロッケパンをじゃじゃーんと取り出した。
「おー……悪いな」
「先輩ならきっと興味を持つって思いましたよー。ツーカーです。愛ですね、愛」
なるほど。
これが愛か。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




