第112話 観光終了
鉱物を買った俺達はその後も市を軽く見ていく。
そして、市のエリアを抜けると、神殿の前にやってきた。
「これがメインズ神殿か……」
高くそびえる石柱と荘厳な雰囲気に包まれた神殿は静謐と神聖さを湛えている。
「神殿ってことは神を祀る施設だよね? ウェンディちゃん、どう?」
エルシィが天使のウェンディに聞く。
「こう言っては何ですが、人間が勝手に作ったものですよ。別次元に生きる我々とはまったく関係ないです。ただ、こういうのはとても大事であり、安易に否定していいものでもありません。人は救いを求めるものですからこういった偶像は必要不可欠です」
ウェンディってたまに大人になるな。
「まあ、入ってみようじゃないか。そういうことは関係なく、歴史ある施設だし、観光だ」
俺達はそのまま歩いていき、神殿の中に入る。
「ほー……」
「綺麗ですねー」
神殿の内部は高い天井と石造りの柱が並び、ステンドグラスから差し込む光が神聖な空気を漂わせている。
まさしく、幻想的であり、多くの人が静かに見ていた。
俺達も周りの人に倣い、特にしゃべらずに中を見ていく。
「ウェンディ、神様って女神様なのか?」
フロアの奥にある女神像を見ながら聞く。
「うーん、何と言いましょうか……そもそも肉体がないですから性別という概念がないんです。まあ、女神様で良いんじゃないですかね?」
まあ、ウェンディも女の子っぽいけど、具体的な性別はなさそうだからな。
人形だし。
「羽が生えてるの?」
今度はエルシィが聞く。
「それもどうでしょう? あ、私は生えてますよ」
飛んでるもんな。
実はふよふよと飛んでいる時に動いている羽が可愛かったりする。
その後もステンドグラスを眺めたり、宗教絵なんかを見たりしながらフロアを回っていく。
そして、30分くらいで見終わり、外に出た。
「すごかったな」
「ええ。でも、奥には入れませんでしたね」
入れたのは最初のフロアだけであとは立ち入り禁止の看板と共に騎士が立っていた。
「仕方がないだろうな。これからどうする?」
「もうちょっと市を見ても良いですか?」
「ああ。じゃあ、見てみるか」
俺達はさっきとは違う通りにある市を見ていく。
その際にエルシィも鉱石を買っており、とりあえず、見ないようにしておいた。
そして、ある程度、見終えると、芝生の中に入って敷物を敷き、休憩する。
「良い天気ですねー」
エルシィに言われて、空を見上げると、青空と雲が綺麗だった。
「そうだな。和やかで良い感じだ。イラドにいた時はこうして空を見上げることもなかったな」
「ですねー。お金を貯めて、良いところが見つかったら休日にこうしてゆっくりしたいです」
良いな。
そういう生活こそが心を豊かにさせてくれると思う。
「このまま夕食までゆっくりして、食べてから帰るか」
「ええ。そうしましょー」
「たまには日向ぼっこもいいものですしね」
俺達は空を見たり、本を読んだりしながら過ごしていく。
たまに市を見たりもしたが、基本的には外で寝転がり、前世を含めてもしたことがない休日の時間の潰し方だったと思う。
そして、日が暮れ始めたので屋台で適当な肉料理や酒を買い、芝生の上の敷物の上で食べる。
「賑やかさが変わりましたね」
徐々に家族の休日から夜の喧騒に変わりつつあった。
「夜は屋台街になって飲みの場になるわけだからな。それでもやはり嫌な騒ぎ方じゃない」
お年寄りもいるし、中には子連れもいる。
「良いところですね」
「そうだな。さすがにここで店を出せないが、良い町だと思う」
「絶対に地価は高いでしょうね」
間違いなくな。
俺達は軽く酒を飲みながら夕食を食べる。
日が完全に落ちると、星空が綺麗で良かった。
「さて、そろそろ帰るか」
食事も終わったし、さすがにこの時間になると、騒がしくなってきた。
「はい。少し冷えてきましたし、部屋でゆっくりしましょう」
「ああ。風呂に入りたい」
俺達は立ち上がると、敷物をしまい、この場をあとにする。
そして、大通りを歩いていき、中央の広場まで戻ってくる。
「あー、ここの夜はこんな感じなんですね……」
中央の広場は街灯がそこまでなく、薄暗い。
そんな中、ベンチに多くの人が座っているのだが、ぱっと見ても2人ペアだった。
「空だな……」
見上げると、満天の星が広がっていた。
メインズ神殿周辺よりも街灯が少ないため、星空がより綺麗に見えるのだ。
「綺麗ですねー。ここの夜はそういうスポットなんでしょうね。まあ、寒いし、帰りましょうか」
エルシィがそう言いつつ、腕を組んでくる。
「そうだな」
「先輩、あったかーい」
お前も温かいわ。
俺達は東の大通りの方に行くと、そのまま進んでいき、宿屋に帰った。
そして、順番に風呂に入ると、受付で頼んだワインを3人で飲む。
「いつまでそれなんだ?」
エルシィは風呂に入った後だというのにまだポニテだった。
「先輩がお好きなのかなーっと」
「まあ、嫌いじゃないがな……エルシィは動物が好きか?」
「種類によりますね。犬猫は好きですけど、ネズミは嫌いです」
普通だな。
この世界ではネズミがめちゃくちゃ嫌われている。
理由は病原菌や大事な食料を食い荒らしたりするから。
この世界にハムスターみたいな可愛いのはいないのだ。
「俺は動物に対して、特に何かを思うことはなかった。でも、ちょっと改めたな。サカリアスは可愛かった」
「先輩、サカリアスちゃんがリンゴを食べている時、嬉しそうでしたもんね」
良いもんだ。
「そうだな。色々なことが知れる旅だ」
知らない自分の一面すらも。
「良かったじゃないですか。私も先輩がポニテが好きとは思いませんでしたよー」
「そうか?」
「昔、伸ばした方が良いですかって聞いたら肩ぐらいまでが良いって言ってたじゃないですか」
学生時代のエルシィの髪はもう少し長かった。
確か、肩下くらいまでだった。
でも、そういう話をした次の日には今くらいの長さに切ってきた。
実は錬金術の作業中に邪魔になるんじゃないかと思ったからそう言ったんだが、それは墓まで持っていくことにしている。
「まあ、今ぐらいで良いな」
「ですよねー。可愛い?」
「可愛い、可愛い」
そう答えてエルシィの左手を握る。
「今日は積極的ですねー。ポニテ効果かな?」
「楽しかったからな」
指のサイズは5号ってところか……
「そんなに乗馬が良かったんですね。本当に馬でも飼います?」
「いやー、それはさすがにいいわ。大変そうだし」
「それもそうですねー…………いや、ウェンディちゃん、しゃべっていいよ」
ウェンディはテーブルの上に座っているのだが、ずーっと人形のふりをしていて、しゃべらないし、動かない。
「そうですか? 空気を読んだんですけど」
「逆にまったく動かなくなると怖いよ……」
たまに目だけが動くしな。
さっきも俺達の手元をチラッと見ていた。
普通に怖い。
「まあ、御二人は気にしませんか……それよりも明日は冒険者ギルドですか?」
ウェンディがふよふよと俺達の目の前に浮きながら聞いてくる。
「そうだな。明日の朝、ギルドに行って、仕事内容の確認だ。それからここで仕事をするか他所に行くかを決める。どちらにせよ、2、3日で王都は出ることになるだろう」
王都はあまり長居すべきではない。
「なるほど。では、そんな感じで。私は先に眠りますんでいい時間に起こしてください。おやすみなさーい」
ウェンディはそのままベッドの方に行くと、いつものようにど真ん中で眠りだす。
「私達もこれを飲んだら寝ましょうか」
「そうだな」
俺達はワインを飲みながらベッドの方をじーっと見る。
すると、ウェンディがちょこっと薄目を開けたので目が合った。
「あっ……すかー、すかー」
「何だ、あの寝たふりは……」
「どの辺が天使なんでしょうね」
俺達は苦笑いを浮かべながらもワインを飲み、就寝した。
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