第101話 失礼な!
元の大通りまで戻ってくると、左に曲がり、さらに進んでいく。
「フリオ、可愛らしい奥さんだったな」
エルシィ、痛い。
叩くな。
「ありがとうございます。私にはもったいない妻ですよ」
うーん……
「他所の夫婦間に立ち入るつもりはないんだが、なんで敬語なんだ?」
違和感がすごい。
「結婚する前の立場と言いますか、何と言いますか……」
んー?
「レスターさん、困らせてはいけませんよ。そもそもあなた方も人のことを言えないご夫婦です」
あ、そういえば、エルシィが敬語だ。
ずっと先輩、後輩だったから気にしなかったが、確かにそうだわ。
「すまん。人のことを言えなかったわ。しかし、品のある奥さんだったな」
「貴族のメイドをしているんですよ。その関係でしょうね」
へー……貴族かー。
「なんか悪いな……案内を頼むことになってしまった」
「いえ……昔から言い出したら聞かない人でしたからね。せっかくなので王都を楽しんでくださいよ。私は引っ越しの準備なんかがあるのでご一緒できませんが」
引っ越しねー……
俺達がそのまま歩いていくと、ちらほらと宿屋が見えてきた。
「この辺りが宿屋が集まっている区域か?」
「ええ。この先に西門があるのですが、そこから各主要な都市に行けるんですよ。主に商人が利用しますね」
へー……
「それでお前もこの辺りに部屋を借りているわけか」
「そんなところですね……あ、あそこが花月亭です」
フリオが指差した先には2階建ての宿屋が見え、【花月亭】と書かれた看板が立てかけられていた。
「新しめだな」
汚れ一つない綺麗な白の壁だし、全体的に新築っぽい。
「老舗の宿屋ですけど、最近、改築したんですよ」
「へー……良さそうだな」
「だと思いますよ。それでは私はこの辺りで……レスターさん、エルシィさん、ウェンディさん、大変お世話になりました」
フリオが姿勢良く頭を下げてくる。
「こちらも世話になった。あと、奥さんには明日も世話になる。知らない国に来た俺達には大変助かることだし、感謝する」
「いえいえ。こちらこそありがとうございました。明日は観光を楽しんでください。それでは……」
フリオはそう言って頭を下げると、来た道を引き返していった。
「丁寧な奴だな」
「騎士様みたいですね」
そういうお国柄なのかもな。
「ああいうのがいいか?」
俺には無理だ。
「私は先輩みたいな引っ張ってくれる人が良いなー。先輩はオフェリアさんみたいな人が良いですか?」
エルシィがじーっと見てくる。
ウェンディの答えを間違えるなよっていう声が聞こえてくるような気がした。
「興味ないな。俺はお前以上を知らないし、知る必要もない」
「やっぱりかー。先輩は仕方がないなー」
何が仕方がないんだろう?
「お似合いですよ……それよりもいつまでも天下の往来にいるわけにはいきませんし、宿屋に入りましょう」
確かにそうだな。
俺達はウェンディに促され、宿屋に入る。
宿屋の中も綺麗な新しめの内装であり、シンプルながらも清潔感があり、高級そうに感じた。
「いらっしゃいませー」
奥の受付にいる俺達と同じくらいの年齢の女性が声をかけてくる。
「こんにちはー。泊まりたいんですけど、空いてますかー?」
エルシィがご機嫌な笑顔で答えた。
「2人部屋でよろしいですか? 2階のお部屋になりますけど」
「お願いしまーす」
「では、1万5千ゼルになります。あ、朝夕の食事は別途です。そこの食堂に行って料金を払えば食べられますので」
「込みじゃないんですか?」
確かに今までは込みの宿屋がほとんどだった。
「あー、ウチはあまり利用されないんで別にしたんですよ。別にウチの料理が不味いわけじゃないんですが、ここから西門の方に行くと、繁華街というか料理店が並んでましてね。そっちの方がどうしてもお酒や料理が豊富なんでお客さんがそっちに流れていくんですよ」
そういうことか。
確かにそう聞くと、せっかくだからそっちに行ってみたいと思ってしまう。
「なるほどー。わかりました。夕食はこれから考えますが、多分、朝食はお願いすると思います」
「まいどー。あ、部屋で飲む場合は言ってくださいね。誰かしらがここにいると思いますんで」
「わかりましたー。じゃあ、1万5千ゼルです」
エルシィが財布を取り出し、宿代を支払う。
「どうもー。じゃあ、これが鍵になります。お部屋は7号室ですのでごゆっくりどうぞ」
店員が鍵をくれたので奥にある階段に向かった。
そして、2階に上がり、7号室の扉を見つけると、エルシィが鍵を開け、中に入ったので俺も続く。
部屋はツインベッドが左右対称に並び、窓辺には色とりどりの花が飾られた小さな丸テーブルがあった。
壁や家具を見てもやはり新しめであり、ちょっとした高級感がある。
「良い部屋ですね」
「そうだな。やはりギルドにおすすめを聞くのが正解なんだろう」
ペインの町の【海のひと時】も良かった。
「ですね。あ、お茶淹れますんで座ってください」
エルシィがそう言って、壁際にある棚に向かったのでウェンディと共にテーブルにつく。
「綺麗なお花ですね。花月亭ってこういうことかもしれません」
テーブルの上にいるウェンディが花を見ながら頷いた。
「花は好きか?」
「綺麗じゃないですか。レスターさんはお嫌いですか?」
「そういうわけじゃない。ただ、職業病かな? 品質やどんな薬が作れるかなって思ってしまう」
品質は良いし、この花なら香水や良い染料ができると思う。
「うーん、愛がない……エルシィさんもです?」
「私はちゃんと花を愛でる感性は持ってるよー。ただ、鮮度を維持するためにどんな薬を使えばいいかは考えるかなー」
美しさの維持か。
女性らしい発想だな。
俺の頭にはなかった。
「嫌な夫婦……」
うっさい。
お前だって食べられるかどうかって思っているだろ。
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