第100話 奥さん?
「お待たせしました。錬金術関係のお仕事をしたいということですね」
受付嬢が手紙を置き、顔を上げた。
「ああ。各地を回りながら開店資金集めをしているんだ」
「そういうことなら短期の仕事が良さそうですね」
「そうなる。鉱物関係が良いと思うんだが、何かないだろうか?」
楽で儲かるやつが良い。
「そうですね……この国では確かに鉱物関係の依頼が良いと思います。失礼ですが、鉱物関係の錬成の技能はどれほどでしょう。一言で錬金術師と言っても専門分野がありますし、どの程度のものかを知りたいのです。できない仕事をしても仕方がありませんし、稼ぐためには適正なレベルで行うのが一番でしょう」
確かにその通りだが……
「俺に専門なんてない」
全部だ、全部。
3人しかいない部署で部長が何もしないから全部、俺とエルシィがやっていたのだ。
「先輩は超が付くほどに優秀なんですよー」
「エルシィさんもですけどね」
エルシィは錬成が早いうえに正確だからな。
「なるほど。そういうことでしたら選択肢が多いですね……すみませんが、まとめてみますので少しお時間をいただけないでしょうか」
「わかった。どのみち、今日はもう仕事をする気がないし、明日は王都を観光しようと思っている」
さすがに観光くらいはしたい。
エルシィとウェンディも楽しみにしているし。
「わかりました。それでは明後日にまた来てください。それまでにまとめておきます」
「助かる」
「いえ、人手不足ですのでこちらこそ助かります」
「ああ。じゃあ、明後日な」
俺達は用事が済んだのでギルドを出る。
「綺麗な人でしたねー」
エルシィが声をかけてくる。
「有能そうではあったな。いや、王都のギルド職員だし、実際にそうなんだろうな」
別にクラーラをバカにしているわけではない。
「そうですかー」
「大丈夫ですよ。レスターさんはまったく心が動いていません。やはりエルシィさんみたいな笑顔100パーセントの可愛らしい女性が好みなんですよ」
「やっぱりそっかー」
はいはい。
どうでもいいが、人の心を読むんじゃない。
「フリオ、宿屋と家まで案内してくれ」
「ええ。こちらです」
俺達はギルドを離れ、王都の街中を歩いていく。
「なあ、メインズ神殿はどこにあるんだ?」
歩いていてわかるが、この町はかなり大きいと思う。
「北の方ですね。城なども北の方にありますよ」
「ふーん……」
俺達が話をしながら歩いていくと、人通りが減り、住宅街にやってくる。
そして、大通りを途中で曲がり、そのまま進んでいくと、フリオが2階建てのアパートの前で立ち止まった。
「ここが我が家ですね」
「アパートか?」
「ええ。ちょっと待ってくださいね……」
フリオは1階のとある部屋の扉をノックする。
「私です。フリオです」
自分の部屋じゃないのか?
他人行儀だなと思っていると、扉が開き、中から長い金髪をした若い女性が出てきた。
女性はかなり可愛らしい顔をしており、20歳前後に見える。
服装は地味だが、どことなく上品に思えた。
「フリオ…………どなた?」
笑顔でフリオを出迎えた女性だったが、俺とエルシィを見て、怪訝そうな表情になった。
「この人達はペインの町から荷物を運ぶ依頼を受けてくれた旅のご夫婦です。錬金術師らしいですよ」
「まあ……大変失礼しました。私はフリオの妻でオフェリアと申します。依頼を受けてくださり、ありがとうございます。また、我が国においでいただいたことも併せて感謝いたします」
オフェリアがそう言ってにっこりと微笑んだ。
「いえ……」
「どうしました?」
「あ、いや、フリオが結婚していたことにびっくりしてな……」
先に言えよ。
「そうですか? フリオ、説明ぐらいしたらいいのに」
「すみません……あ、レスターさん、荷物を玄関に置いてくださいますか?」
なんで奥さんに敬語なんだろ?
「ん? あ、そうだな。じゃあ、出そう」
「オフェリア、すみませんが、奥へ」
「ええ」
オフェリアが奥に引っ込んだので玄関に入る。
玄関から部屋が見えるのだが、物が異様に少ないように見える。
「引っ越しするのか?」
「ええ。そうなんですよ」
「ふーん……」
まあいいやと思い、魔法のカバンから木箱を取り出し、玄関に置いていく。
そして、3つの木箱を重ねるように出すと、外に出た。
「いやー、助かりましたよ」
「仕事だからな。案内してくれているからこちらも助かっている」
ついでだし。
「御二方は旅と言っていましたが、旅行か何かで?」
外に出てきたオフェリアが聞いてくる。
「新婚旅行なんですよー」
エルシィが答えた。
「まあ……! それは素晴らしいですね! それで王都に?」
「はい。明日から観光です」
「それはそれは……もし、よろしければ案内しましょうか?」
ん?
「オフェリア、それは……」
旦那の方が止めてきた。
「いいじゃないの。せっかく他国から来てくださったのだから」
「それはまあ……」
力関係が明確な夫婦だな。
「そういうわけです……えーっと?」
あ、名乗ってなかったな。
「俺はレスターだ」
「エルシィでーす」
「ウェンディでーす」
エルシィの腕の中にいるウェンディも手を上げて名乗った。
「まあ! しゃべるお人形さんですね! 私はオフェリアと言います。よろしくね」
オフェリアはウェンディの柔らかお手手を握り、握手をする。
「そいつは人形のように見えるが、使い魔でな。それよりもオフェリア、案内をしてもらっていいのか?」
気が引けるんだが……
「もちろんですよ。ぜひ案内させてください」
圧がすごいな……
「エルシィ、どうする?」
エルシィに相談する。
「いいんじゃないですかね? せっかくですし、ご厚意に甘えましょうよ」
エルシィがそう言うなら……
「オフェリア、じゃあ、お願いしてもいいか?」
「もちろんです。いつでもいいのでこちらにいらしてください。私は暇しているので」
ふーん……
「フリオ、悪いな。奥さんを借りる」
「いえ……では、宿屋の方に案内しましょう」
「頼むわ」
俺達はこの場をあとにし、来た道を引き返していった。
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