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ライク・ア・ローリング・ガール  作者: EDA
-Disc 3-

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05 リハーサル

 来場してから九十分ほどの時間、めぐるたちは四組のバンドのリハーサルを見届けることになった。

 その間にセッティング表を完成させて、スタッフに提出している。あとは客席でひたすら運指のウォームアップに励みながら、リハーサルの見学だ。


 本日の出演バンドは、いずれも演奏が巧みであった。誰もが『KAMERIA』よりも長いキャリアを積んだ年長者であり、もっとも若い二番手のバンドでさえ、軽音楽サークルに所属する大学生であったのだ。そして、当然のようにすべてのバンドがオリジナル曲を携えており、コピーバンドは存在しなかった。


「ジェイさんも、それなりのバンドを集めてくれたみたいだねぇ。まあ、それだけ『KAMERIA』が期待されてるってことだよぉ」


 二日前、めぐるが新しい弦を買うために『リペアショップ・ベンジー』を訪れた折、浅川亜季はチェシャ猫のように笑いながらそのように語っていた。

 まあきっと、結成半年のバンドなどは、どこに行っても一番の未熟者であるのだろう。そういう意味では、周りのバンドがどれだけ実力者ぞろいであろうとも、めぐるたちがプレッシャーを抱え込む理由はなかった。


 めぐるたちは、今の自分たちの持つ力を振り絞るのみである。

 そんな思いを胸に抱きながら、『KAMERIA』のメンバーは初めてのリハーサルに挑むことになったわけであった。


「それじゃあ『KAMERIA』さん、準備をお願いします」


 若いスタッフの呼びかけに従って、めぐるたちはステージを目指した。

 チューニングを済ませたベースはスタンドに立てかけて、エフェクターボードの蓋を開く。二本のシールドを繋いで、パッチケーブルやエフェクターのツマミに異常がないことを確認したならば、ついに音出しだ。


 アンプは野外フェスと同じく、巨大な冷蔵庫のごときアンペグとなる。あの日にも、こちらのアンプが野外ステージに持ち出されたのだろうと思われた。

 めぐるがそちらの調節をしている間に、町田アンナは早くもギターを鳴らしている。和緒はまだスタッフの手を借りて余分なタムを外しているさなかであり、栗原理乃はこちらでレンタルしたスタンドに電子ピアノを設置してもらっていた。


 栗原理乃は、すでにリィ様の姿である。

 客席にはリハーサルを終えた他のバンドのメンバーがぽつぽつと居残っていたため、早々に変身することになったのだ。それにまた、リハーサルを「練習」ではなく「本番の準備」と認識するならば、どちらにせよ変身の必要が生じるのかもしれなかった。


 そうして栗原理乃がリィ様の姿となったためか、客席の人々はいっそう好奇心をかきたてられたようである。くどいようだが、めぐるを除くメンバーはいずれも容姿が整っていたため、どこに行っても注目を集めやすいのだった。


 アイスブルーのウィッグとフリルの黒い目隠しを装着した栗原理乃は、機材の設置にいそしむスタッフの姿を他人事のように見守っている。その冷たい無機的なたたずまいが、めぐるをひそかに昂揚させた。めぐるにとっての『リィ様』というのは『KAMERIA』のシンボルであるのと同時に、荒々しい演奏を冷然と受け止めてくれる頼もしき主人公であったのだった。


『……それじゃあ、準備はよろしいでしょうか?』


 しばらくして、メンバー一同がとりあえずの音出しを完了させると、モニタースピーカーからPAスタッフの声が響きわたった。

 その人物は、客席をはさんだ対面のPAブースに陣取っている。そちらでミキサー卓を操作して、中音や外音の調整をするのだ。


『……まず、ドラムのキックをお願いします』


 そちらの指示に従って、和緒はバスドラを打ち鳴らした。

 ちょうど一秒に一回ぐらいのペースで、重々しい音色が響きわたる。ドラムの音は、こうして個別に調整されていくのだ。


 バスドラの次はスネア、スネアの次はフロアタム、ロータム、ハイタム――さらには、ハイハット、クラッシュシンバル、ライドシンバルと続けられていく。やはりドラムも叩く人間によって鳴りが異なるため、バンドごとに調整が必要なわけであった。


 そうしてひと通りの調整が完了したならば、『ドラム全体をお願いします』と告げられてくる。

 これまでのバンドを見習って、和緒はごくシンプルな8ビートを披露した。継ぎ目にシンバルやタムの音も鳴らされて、めぐるにとってはこれだけでうっとりするぐらいの心地好さである。


『はい、けっこうです。……では、ベースをお願いします』


 和緒のドラムに聞き惚れていためぐるは「は、はい!」と上ずった声で答えてから、まずはクリーンの音を鳴らした。

 あまり性急にはフレーズを動かさず、それでも4弦から1弦、ローポジションからハイポジションまでまんべんなく音を鳴らす。これも、これまでのバンドを見習ってのことであった。


『はい、けっこうです。……他の音色おんしょくがあったら、お願いします』


「は、はい。歪みの音が、いくつかあります」


 歪みは深くかけられている順番に鳴らすべしと、町田アンナから教わっていた。

 であれば、まずはB・アスマスターとソウルフードおよびラットのブレンドである。もっとも極悪なのはこの音色であるし、音量も一番であるはずであった。


 その次は、B・アスマスターとビッグマフを切り替える。

 さらに、B・アスマスターとソウルフードだけをオンにした音と、ラットとソウルフードだけをオンにした音も披露する。プリアンプであるトーンハンマーに内蔵されている歪みの機能は上手く扱う目処が立っていなかったため、現時点ではこれがめぐるの使用する音色のすべてであった。


 しかしまた、本日の出場バンドの中に、歪みだけで四種もの音色を使いわけるバンドは存在しなかった。もっとも激しい曲調であった『ザ・コーア』というバンドでも歪みは二種であり、『マンイーター』は一種のみ、残る二バンドに至ってはそもそも音色を使いわけていなかったのだ。


(やっぱり、歪みだけでこんなにたくさんのエフェクターを使おうとするベーシストっていうのは、少数派なんだろうな……)


 さらに言うならば、本日の出演バンドのベーシストの中でもっとも巨大なエフェクターボードを携えているのは、めぐるとなる。『マンイーター』などは空間系やフィルター系の音色も使い分けていたが、それでもめぐるがフユから借り受けたエフェクターボードよりはワンサイズ小ぶりであったのだった。


 もっとも未熟なめぐるがもっともたくさんのエフェクターを使用しているというのは、何だか気恥ずかしい心地である。

 しかしそれでも、めぐるが理想の音を追い求めるにはこれだけの機材が必要であるのだ。客席ホールにたたずむ人々の視線に耐えながら、めぐるはせいいっぱい胸を張って四種の音を鳴らすしかなかった。


「お、音色は、以上です」


『はい、お疲れ様でした。……では、ギター側のマイクをお願いします』


 PAスタッフの声は、いっさい感情が感じられない。まあ、あちらは業務を果たしているのみであるし、愛想を振りまく必要もないのだろう。それに、五つものバンドの面倒を見るというのは、想像するだに大変な職務であった。


 町田アンナはマイクのチェックを終えたのち、めぐると同じ手順ですべての音色を披露する。最後は、栗原理乃のマイクと電子ピアノだ。

 それでようやく、個別の調整は完了である。

 ここからは、いよいよ楽曲のお披露目であった。


『一曲目からやったほうがいいですかー? それとも、ベースがクリーンの曲からやったほうがいいですかー?』


 町田アンナがマイクを通してそのように呼びかけると、『お好きにどうぞ』という無機的な声が返されてくる。


『それじゃあベースがクリーンの、五曲目からいきまーす! ワンコーラスで、いったん止めるんで!』


 頼もしき町田アンナがそのように宣言して、『転がる少女のように』のイントロをかき鳴らした。

 所定のタイミングで、他のメンバーも音を鳴らす。八月以降は野外フェスと文化祭という広いステージばかりであったためか、モニターの音を調節しなくてもそれなりに満足できる音量バランスであった。


(やっぱりスタジオとかに比べると、ちょっとだけ物足りないけど……でも、初めてのライブのときとは比べ物にならないや。それだけギターやドラムの音が大きくなったってことなのかな)


 和緒のドラムも町田アンナのギターも栗原理乃のピアノも、心地好くめぐるの心身を揺さぶってくれる。そこに歌声が追加されれば、なおさらの心地好さであった。

 Bメロで町田アンナが歌う順番になっても、その印象は変わらない。彼女はそれほど特異な声質ではなかったものの、どうやら声量は人並み以上であるようなのだ。その元気な歌声も、決して演奏に埋もれることはなかった。


 サビでは、二人のハーモニーが奏でられる。

 その心地好さも、これまで通り――いや、ライブハウスでも野外ステージでも歌の返りはきわめてクリアーであるため、部室やスタジオ以上の心地好さであった。


 しかし、そんな心地好さにひたれるのも束の間で、あっという間に試奏は終わってしまう。町田アンナが最初に告げた「ワンコーラス」というのは、Aメロからサビまで一番だけを演奏する、という意味であったのだ。


『……中音は、どうでしょうか?』


『うんうん! いい感じだと思いまーす! みんなは、どうだろー?』


 めぐるを含めて、全員がオッケーの合図を送ることになった。


『それじゃー次は、一曲目をワンコーラスね!』


 言いざまに、町田アンナがAのコードをかき鳴らす。

 そこにめぐるもAのパワーコードを重ねてから、頭の中でメトロノームを鳴らし、普段よりは早いタイミングで『小さな窓』のイントロを披露してみせた。


 こちらは、ビッグマフを使用した歪みの音である。

 そうして他なる楽器の音色が重ねられると――ギターとドラムの音量が、ほんの少しだけ物足りなかった。


(あ、やっぱり歪みを使うと、他の音が足りなくなっちゃうんだ)


 めぐるがそのように考えたとき、町田アンナが『ストーップ!』と演奏の手を止めた。


『ギターに、ドラムの三点をお願いしまーす! みんなは、だいじょーぶ?』


 和緒と栗原理乃は無言でうなずきを返したので、めぐるは慌てて声をあげることになった。


「こ、こっちはドラムとギターをお願いします」


『ベースのほうは、ドラムとギターをお願いしまーす! それでもういっぺん、やってみまーす!』


 そうして再び『小さな窓』を演奏すると、わずかな物足りなさが霧散した。

 めぐるはほっと息をつき、思うさま弦に指先を叩きつける。毎回ライブの二日前に弦交換をしているため、ベースの音色も心地好いばかりであった。


 その後には『転がる少女のように』でもバランスが崩れていないかを確認したのち、『青い夜と月のしずく』と『あまやどり』もワンコーラスずつ確認する。それで、リハーサルの持ち時間はタイムアップであった。


「さすがに全曲は無理だったかー! ま、センハナはチイマドとかアオツキとかとおんなじような音作りだから、問題ないっしょ!」


 町田アンナはそのように言っていたし、めぐるとしても異存はない。なんとかリハーサルを無事にやりとげることができて、めぐるはずいぶんくたびれ果ててしまった。


「あ、アンプはボリュームだけ落として、電源を切っておいてください。どうもお疲れ様でした」


 と、セッティング担当のスタッフがそのように呼びかけてくる。『KAMERIA』はトップバッターであるため、機材を片付ける必要がないのだ。これこそが、逆リハのメリットなのだろうと思われた。


 めぐるたちが客席に下りると、黒い幕がしゅるしゅると閉ざされていく。生命の次に大事な機材をステージに置き去りにするというのは、いささかならず不安なところであったが――たとえ楽屋に片付けたところで、めぐるの心境に変わりはないだろう。めぐるとしては、無事な姿で再会できるように全力で祈るしかなかった。


「じゃ、他の荷物を片付けないとねー! いやー、いよいよワクワクしてきちゃったなー!」


 エフェクターボードの蓋だけを抱えた町田アンナは、跳ねるような足取りで客席の壁際に向かっていく。ギグバッグや手荷物などは、そこに集めておいたのだ。

 すると、その進路に複数の人影が立ちはだかった。二番目の出順となる、軽音楽サークルの大学生たちである。


「お疲れ様。想像以上にヘヴィなサウンドで、びっくりしちゃったよ。みんな、本当に高校生なの?」


 たしかヴォーカルの担当であった細面の若者が、にこにこと笑いかけてくる。めぐるたちが彼らの素性を聞き及んでいるように、あちらも『KAMERIA』の評判を聞き及んでいるのだろう。


「歌も演奏も、レベル高いよね。これまでは、野外フェスとかにしか出てなかったんでしょ? そうとは思えない迫力だったよ」


「ありがとー! そっちのバンドも、上手だったねー!」


 町田アンナは、いつもの調子で笑顔を返す。

 和緒とリィ様の扮装をした栗原理乃がポーカーフェイスであるのも、いつも通りであることに違いはなかったが――ただ、和緒は普段以上に冷ややかな面持ちであった。


「俺たちはサークルで集まったメンバーだけど、このバンドで上を目指すつもりなんだよね。……よかったら、外で一緒に食事でもしない?」


「あー、ウチらはトップバッターだから、食事は出番の後にするつもりなんだよねー!」


「そっか。じゃあ、お茶でもどう? もちろん、こっちが奢るからさ」


 なんだかこれは、ナンパか何かのような様相である。めぐるはこれまでの二年半ほどで、和緒がこういう手合いに接近されるさまを何度となく目にしたことがあった。


(そうか。だからかずちゃんは、こんな顔をしてるんだ。あんまり余所のバンドの人たちに素っ気なくするのはまずいかもしれないし……どうしたらいいんだろう)


 そうしてめぐるがひとりでまごまごしていると、別なる人影が近づいてきた。

 金色のスパイラルヘアーを頭の天辺で結いあげた、小柄な女性――『マンイーター』のベーシストである。きょろんと大きい黒目がちの目が、大学生の若者たちに棘のある視線を送った。


「あのさ、あたしもこいつらに話があるんだよね。ナンパだったら、余所でやってくれない?」


「え? 別にナンパしてるわけじゃ……」


「そんな下心まるだしの目つきで、なに言ってんのさ。いいからとっとと消えろって言ってるんだよ」


 そちらの女性の眉間に深い皺が刻まれると、うなり声をあげる柴犬のような面相に成り果てた。

 若者たちは苦笑を浮かべながら、遠ざかっていく。その後ろ姿を険悪な眼差しで見送ってから、その女性はめぐるたちに向きなおってきた。


 丈の短いレザーのジャケットに、派手なプリントのTシャツ、黒地のショートパンツと網タイツとロングブーツ――フユと似ているのは髪型だけで、体格もずいぶんちまちましている。こんなに険しい顔つきをしていなければ、ずいぶん可愛らしく見えそうな娘さんであった。


「リハの演奏は、聴かせてもらったよ。……確かに、高校一年生とは思えないようなプレイだったね」


「ありがとー! そっちも、かっちょよかったよー!」


 町田アンナは、何事もなかったかのように笑顔を返す。


「それに、あの人らを追っ払ってくれて、ありがとねー! 理乃と一緒にいると、あーゆー連中を引き寄せちゃうんだよねー!」


「アンナさん。理乃は現在、休眠中です」


「あー、そっかそっか! でも、リィ様だっておんなじぐらい美人だし、和緒やめぐるまでそろっちゃったら余計にオトコをひきつけちゃうよねー!」


「わ、わたしは関係ありません。それより、町田さんのほうが……」


「ウチなんて、オトコと変わんないじゃん! つくづく『KAMERIA』って、ウチ以外はビジュアルにも恵まれてるよねー!」


 町田アンナがけらけら笑うと、金髪の女性がずいっと身を乗り出してきた。小柄な彼女は、めぐると町田アンナの中間ぐらいの背丈のようである。


「こっちをシカトして、盛り上がらないでくれる? あんたたち、『V8チェンソー』のみなさんに取り入ってるみたいだけど……いったい、どういうつもりなの?」


「どーゆーつもりって? ウチらはただ仲良くさせてもらってるだけだけど?」


「……ただ仲良くしてるだけで、どうして合宿にご一緒したり、同じステージに立ったりしてるのさ?」


 そのように語る女性の目に、めらめらと炎がたちのぼるかのようである。

 町田アンナは、「んー?」と小首を傾げた。


「どうしてって言われても、困っちゃうけど! ウチらはただ、お誘いに乗っただけだよー!」


「だから、どうしてあんたたちがそんなお誘いを受けるのかって聞いてるんだよ!」


 その女性がついに怒声を響かせたとき、また別なる人影が駆けつけてきた。『マンイーター』のギタリストとドラマーである。


「ちょっとちょっと! レンレン、何を騒いでるのさ!」


「ずっと大人しくしてたから、油断しちゃったなぁ。まったく、ブイハチがからむと目の色が変わっちゃうんだから」


 ひょろりと背が高くて茶色のショートヘアーをしたギタリストは慌てた顔をしており、ずんぐりとした体型でニット帽をかぶったドラマーは呆れた顔をしている。金髪のベーシストを含めて、全員が二十歳前後の年齢に見えた。


「お騒がせしちゃって、ごめんね。このコ、ブイハチのフリークだからさ。あなたたちの噂をあちこちで耳にして、なんか対抗心を燃やしちゃったみたいなの」


「だって、おかしいじゃん! どんなに腕がよくったって、高校生だよ? 『V8チェンソー』のみなさんは、もっとすごいバンドともおつきあいがあるんだからね!」


 金髪のベーシストは、顔を真っ赤にして怒っている。

 それを見下ろしながら、和緒は初めて「ふむ」と発言した。


「あなたたちがブイハチの影響を受けてるらしいっていう噂は小耳にはさんでいましたけど、そんな熱狂的なフリークだったんですね。それは存じませんでした」


「レンレンはシャイだから、あんまり公言してなかったんだよ。こんな話がフユさんの耳に入ったら、びっくりしちゃうだろうねぇ」


 ニット帽のドラマーがしみじみとつぶやくと、金髪のベーシストはたちまち取り乱した。


「あ、あんたたち! あたしのことをフユさんにバラしたら、ただじゃおかないからね!」


「ふむふむ。そういう奥ゆかしいところも、少しフユさんに似ておられるようですね」


「あ、あのクールなフユさんが、こんな騒いだりするもんか! おかしなことばっかり言わないでよ!」


 そのようにキャンキャン騒ぐ姿は、やはりどこか柴犬めいていた。

 それを「どうどう」となだめながら、ショートヘアーのギタリストがめぐるたちに笑いかけてくる。


「とにかく、ごめんね。これも何かの縁だから、仲良くしてくれたら嬉しいな」


「こちらこそー! ウチらもブイハチが大好きだし、『マンイーター』もかっちょいいと思ったよー!」


 町田アンナはおひさまのように笑いながら、そのように言い放った。


「ウチは町田アンナで、こっちはリィ様! あと、ベースのめぐると、ドラムの和緒ねー!」


「あたしはギターの坂田美月、ドラムは亀本菜々子。こっちのレンレンは、柴川蓮しばかわ れんだよ。今日は最後までよろしくね、『KAMERIA』のみなさん」


 坂田美月と亀本菜々子は、とても善良そうな顔で笑っている。

 ただひとり、柴川蓮だけは怒れる柴犬のごとき形相であったが――なんとなく、めぐるは最初から彼女のことを好ましく思っていた。


(フユさんほどじゃないけど、この人もすごくベースが上手いし……それに、フユさんのファンっていうのも、なんだか嬉しいな)


 そうして『KAMERIA』の一行は、また新たなバンドの面々と交流を結びながら、本番の開始を待つことになったのだった。

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