04 再会と勧誘
それから、数時間後――『KAMERIA』の一行はそれぞれの戦利品を手に、帰路を辿ることになった。
和緒は予定通り、バスドラのペダルを購入した。
町田アンナは小ぶりのエフェクターボードを手にさげている。その内側に収納されているのは、巡り巡ってスタンダードなラットのエフェクターであった。
そして、めぐるが購入したのは――マレッコ・ヘヴィ・インダストリー なる海外ブランドの、B・アスマスターなるエフェクターである。
他なる店舗で他なるエフェクターを試しまくり、空間系やモジュレーション系のエフェクターに関してはひとまず保留という結論に至り、今度は町田アンナたちにも同行を願って再度の試奏に取り組んだ結果、めぐるはこちらのエフェクターを購入することになってしまったわけであった。
「町田さんは何十台ものエフェクターを試したあげくにけっきょくノーマルのラットで、プレーリードッグは予定になかった歪みのエフェクターか。なんていうか、買い物ひとつで人間性ってもんが出るもんだねぇ」
「まー、いいじゃん! 一番ジューヨーなのは、かっちょいー音を出せるかどうかなんだからさ! そーゆー意味では、ウチもめぐるもバッチリっしょ!」
町田アンナは、ほくほく顔である。なおかつ、彼女のそういう物言いが、煩悶に煩悶を重ねていためぐるの背中に最後のひと押しをもたらしたのだ。さらに言うならば、彼女はめぐると同じぐらい、B・アスマスターの音色を気に入ったようであった。
ちなみに町田アンナがぶら下げているエフェクターボードは、目にも鮮やかなオレンジ色である。たいていのエフェクターボードは黒いものであるが、彼女は前々からこちらのエフェクターボードに目をつけていたのだそうだ。
「和緒も理想のペダルと巡りあえて、もう言うことなしだねー! あー、早くスタジオに入りたいなー! めぐるも指だけじゃなくって、全身がウズいちゃうっしょー?」
「は、はい。そうですね」
言うまでもなく、めぐるはベースを弾きたい衝動をこらえるのに必死であった。今日は朝からベースに触れていないし、スタジオではさまざまなエフェクターを鳴らすことができるのだ。スタジオに予約を入れた三時間だけでこの熱情を鎮火させることができるのか、まったく心もとないところであった。
そうして行き道と同じように五十分ほどをかけてJRの千葉駅に到着したならば、ロッカーに預けていた機材を引っ張りだして、いざスタジオへと向かう。
やがて待望のスタジオに到着すると――そこには、思いがけない面々が居並んでいた。
「あれー? ブイハチのみんなじゃん! そっちも練習だったのー?」
「うん。ちょっとみんなに相談があってさぁ。せっかくだから、同じ時間帯にスタジオを予約したんだよぉ」
待合スペースのテーブル席に座していた浅川亜季が、のんびりとした笑顔を返してくる。にこにこと笑うハルも仏頂面のフユも、バンド合宿以来――ちょうど一週間ぶりの再会であった。
「相談って? 電話とかじゃ済まないような話なのー?」
「うん。みんなで一緒に語るなら、やっぱり顔をあわせるのが手っ取り早いからさぁ。まあそんなに悪い話ではないと思うんで、気楽に聞いてよぉ」
そんな風に言ってから、浅川亜季はくすくすと笑い声をこぼした。
「ところでめぐるっちは、なんでそんなに縮こまってるのかなぁ? まさか、一週間やそこらであたしらの顔を忘れちゃったぁ?」
「い、いえ。決してそういうわけではないのですけれど……」
めぐるはほとんど反射的に、和緒の背中に隠れてしまっていたのだ。
和緒は右肩に背負ったペダルのケースがずり落ちないように気をつけながら、めぐるの頭を小突いてきた。
「たぶんそれは、今日のショッピングで生まれた気後れでしょうね。尊敬するブイハチのみなさんに呆れられるんじゃないかって、戦々恐々なんだと思いますよ」
「か、かずちゃん。それは自分で、きちんと説明するから……」
「だったらまず、あたしを盾にしなさんな」
こちらのやりとりに「ふーん?」と小首を傾げたのはハルであった。
「今日のお茶の水遠征で、何かあったの? ていうか、和緒ちゃんは予定通りペダルを買ったんだね!」
「はい。けっきょくスタンダードなモデルに落ち着きました。無個性なあたしには、こういうのがお似合いですね」
「あはは! クセの強さだけが個性じゃないからね! 何度も何度も言ってるけど、和緒ちゃんは十分に個性的だと思うよー!」
「アンナっちも、お似合いのボードをさげてるねぇ。ってことは、いい出会いがあったのかなぁ?」
「うん! けっきょく、ノーマルのラットにしちゃった! 合宿でびびんときたインスピレーションに間違いはなかったってことだねー!」
他なる面々は、和気あいあいと語らっている。
そんな中、フユの切れ長の目に見据えられためぐるは、いっそう縮こまることになった。
「……で? あんたも楽器屋の袋をさげてるみたいだけど、けっきょく何を買ったわけ?」
「そ、それがその……けっきょくコーラスやリバーブはピンとこなくて……」
「ピンとこなくて?」
「…………オクターブファズっていうエフェクターを買っちゃいました」
めぐるが予想していた通り、フユは呆れ返った顔をした。
「あんた……このスタジオで、ラットやソウルフードの使い心地を確かめるって話じゃなかったっけ?」
「は、はい。仰る通りです……」
「それも済んでない内に、また新しい歪みのエフェクターを買ってきたっての?」
「は、はい……どうも申し訳ありません……」
フユは深々と溜息をついてから、あらためてめぐるの顔をにらみつけてきた。
「それであんたは、そんな風に縮こまってたってわけ? あんたが何のエフェクターを買おうと、私が謝られる筋合いはないよ。」
「は、はい……でも、フユさんにたくさんエフェクターをお借りしておきながら、また歪みのエフェクターを買っちゃって……まずはお借りしていたエフェクターを自分で買いそろえて、フユさんにお返しするべきなのに……」
めぐるがそのように言葉を重ねると、フユは口をへの字にしてしまった。
そして、にんまりと笑った浅川亜季が首をのばしてくる。
「せっかく貸したエフェクターを一週間やそこらで返されたら、そっちのほうが味気ないなぁ。自分のエフェクターをめぐるっちに使ってもらえるのは、むしろ嬉しいぐらいだよぉ。……って、フユはそんな風に考えてるんじゃないかなぁ」
「だ、誰もそんなこと考えちゃいないよ!」
と、フユは顔を赤くして、悪戯なメンバーの頭を引っぱたいた。
「……それで? あんたはどこのオクターブファズに手を出したの? やっぱ、MXRあたり? それともまた、ギター用のやつ?」
「あ、いえ……B・アスマスターっていう機種なんですけど……」
「B・アスマスター? 聞き覚えがないね」
フユが眉をひそめると、和緒がすかさず口をはさんだ。
「ブラスマスターっていう古いエフェクターのコピーモデルらしいですよ。本家はずいぶん由緒正しいエフェクターなんだって、店員さんが力説してました」
「ブラスマスター? あのコピーモデルに手を出したっての?」
フユは再び、呆れた顔をした。
「ってことは、あのマレッコのクローンモデルあたりか……ああ、だから『B・アスマスター』ね。私はてっきり、ベースマスターって読むのかと思ってたよ」
「やっぱり、有名なエフェクターなんですよね?」
「そりゃあ本家のブラスマスターは、ベースの歪みの元祖って言われてるからね。あちこちのビルダーがクローンモデルを手掛けるぐらいの、名機だよ。マレッコのやつだったら、その中でも定番だろうけど……しかし、あんな凶悪なエフェクターに手を出すとはねぇ」
「ほうほう。めぐるっちがまた凶悪な本性を剥き出しにしたのかなぁ?」
浅川亜季がチェシャ猫のような笑顔を近づけると、フユは手の甲でじゃけんに押しのけた。
「あんたの大好きな『OZ』の大御所も、本家のやつを使ってるよ。それなら、凶悪さも伝わるでしょ」
「うわぁ、あの音かぁ。それは凶悪さの極致だねぇ。まったくめぐるっちは、あたしらを退屈させないなぁ」
浅川亜季は年老いた猫のような笑顔に切り替えて、めぐるを見つめてくる。めぐるは恐縮しつつ、ついでに赤面することになってしまった。
「あ、それで、あの……実は、フユさんにお渡ししたいものがあるのですけれど……」
赤面ついでに、めぐるはギグバッグの収納ケースからもうひとつの戦利品を引っ張り出すことにした。
そちらも楽器店の店名がプリントされたビニール袋である。フユは眉をひそめつつ、そのビニール袋とめぐるの赤い顔を見比べた。
「何さ、それは? あんたに買い物を頼んだ覚えはないんだけど?」
「は、はい。これは、その……たくさんのエフェクターとボードをお借りしたお礼です」
フユは切れ長の目を大きく見開きつつ、言葉を失ってしまった。
そのフユらしからぬリアクションに、めぐるはいっそう慌ててしまう。
「あ、そ、そんな大したものではないんです。中身は、その……ただのクリーニングキットですから……」
ベースのボディを磨くためのクロスとポリッシュ、それに指板をメンテナンスするためのオレンジオイル――めぐるはこの日に備えて、フユが使用しているそれらの消耗品のブランドを浅川亜季からリサーチしていたのだった。
「フ、フユさんはたくさんのベースをお持ちだから、こういう消耗品ならご迷惑にならないかと思って……こ、こんなていどでご恩は返せないと思いますけど……ど、どうか受け取っていただけますか?」
「あははぁ。感激のあまり、フリーズしちゃったねぇ。めぐるっちが気の毒だから、何かリアクションしてあげればぁ?」
浅川亜季が笑いをふくんだ声をあげると、フユは我に返った様子でその頭をぺしぺしと引っぱたいた。
「あ、あんたはいちいちうるさいんだよ! そのにやけ顔を引っ込めないと、ただじゃおかないよ!」
「痛い痛い。八つ当たりは、勘弁してよぉ。本当は、めぐるっちの頭をなでなでしてあげたいぐらいの心境なんでしょぉ?」
「あんた! 本当に息の根を止めてあげようか!」
フユが真っ赤になりながら浅川亜季の首をしめようとしたので、ハルが「まあまあ!」と取りなすことになった。
「スタジオの時間も迫ってるんだから、じゃれあうのはそこまでにしておこうよ! めぐるちゃんも、ほんとにありがとねー! フユちゃんの分まで、あたしがお礼を言わせてもらうから!」
「あ、あんたもうるさいよ! 私はまだ受け取るなんて言ってないからね!」
「それじゃあ、そのまま突き返しちゃうの? それはあまりに、めぐるちゃんが気の毒だなー」
フユはぐっと言葉を詰まらせて、めぐるのほうを下からすくいあげるようににらみつけてきた。まだその頬がいくぶん赤らんでいるので、ちょっと普段とは異なる雰囲気である。
「……高校生なんかに余計な金を使わせるのは、年長者としての沽券に関わるんだよ。今後はもう、余計な気を使うんじゃないよ?」
「は、はい。どうもすみません」
それでようやくお礼の品を受け取ってもらえたので、めぐるはほっと安堵の息をついた。
フユはテーブルに頬杖をついて、そっぽを向いてしまう。浅川亜季はまだにまにまと笑っていたが、その口が場を騒がせる前にハルが慌ただしく声をあげた。
「それじゃあ、みんなも座ってくれる? できればスタジオに入る前に、話を済ませておきたいからさ」
「はいはーい! でも、そんなあらたまって、なんの相談なのかなー?」
そうして『KAMERIA』の一行も、ようやく着席することになった。
すると、ハルがこほんと咳払いをしてから説明を開始する。
「実はね、あたしたちは毎年二月にイベントを主催してるんだよ。って言っても、まだ結成して二年半だから、次回でやっと三回目なんだけどさ。あたしらは二月に『V8チェンソー』を結成したから、その記念日にイベントを開くことにしたの」
「おー、バンドの周年イベントってこと? いいねいいね! どんなイベントなのー?」
「そんな大した内容ではないんだよ。ただライブハウスを貸し切りにして、お気に入りのバンドに出演してもらうの。そのイベントに、『KAMERIA』もお誘いしたいんだけど――」
「でも、あんたたちには実績がないからね」
と、フユがぶっきらぼうに言葉をはさんだ。
「あんたたちはこれで三回のライブを経験したことになるけど、どれも持ち時間は十分で二曲しか披露していない。三十分のステージを満足にこなせるかどうか、なんの保証もないわけさ」
「なるほどー! でも、来年の二月だったら、さすがにどうにかできると思うよー! まだ五ヶ月ぐらいはあるわけだもんねー!」
「それでもあんたたちがへぼいステージを見せたら、私たちが恥をかくことになるんだよ」
フユの言葉に、今度は浅川亜季が「いやいや」と口を出す。
「ゲストで呼んだバンドがへぼくったって、こっちにとっては笑い話さぁ。でも、かわいいかわいい『KAMERIA』のみんなが笑い物になるのは、あたしたちも耐えられないからねぇ」
「それに、初めてのフルステージが知り合いのイベントっていうのも、何だか普通じゃないでしょ? 『KAMERIA』のみんなには、王道のルートでバンド活動を体験してもらいたいんだよねー!」
と、最後には社交家のハルがまとめる。
「それで、ここからが相談なんだけどさ。『KAMERIA』は、通常ブッキングでライブをやる予定はないの?」
「うん。いま決まってるのは、文化祭ぐらいだねー。何せウチらは、合宿でしこたま課題を抱え込んじゃったからさ!」
「そうだよね。それでももし年内にライブをやってくれるなら、その出来栄えを確認した上で、こっちのイベントにお誘いするかどうか検討させてもらいたいんだけど……どうだろう?」
そんな風に語りながら、ハルはほんの少しだけ眉を下げた。
「あたしらは『KAMERIA』が大好きだし、こんな試すような真似はしたくないんだけどさ。ただ、うちらのイベントにはけっこう有名なインディーズのバンドとかにも声をかけてるから……そっちの目なんかも気にしないわけにはいかないんだよね」
「ふん。二回連続で期待を裏切ったら、これまでの信頼関係も木っ端微塵だしね」
フユの発言に、町田アンナは「二回連続?」と首を傾げる。
すると、和緒が「ああ」と気のない声をあげた。
「例の土田さんってお人が脱退したのは、今年の初めだったんですよね。で、予定してたライブなんかも、のきなみバックレたってお話でしたっけ」
「そーなの! うちらはナッちゃんがぬけてからひと月ぐらいで、周年イベントを迎えることになっちゃったんだよー! 言うまでもなく、あの日はさんざんなステージだったんだー!」
当時のことを思い出したかのように、ハルは頭を抱え込んでしまう。浅川亜季はひとりでのほほんと笑っていたが、フユなどは究極的な仏頂面だ。めぐるは心から、『V8チェンソー』のメンバーに同情し――それで自分まで胸が痛くなってしまった。
「だからね、次は何としてでも、イベントを成功させないといけないの! 言ってることが支離滅裂かもしれないけど、そのために『KAMERIA』の力をお借りしたいんだよー!」
「まったくもって、仰せの通りですね。こちらはキャリア数ヶ月の、いたいけな女子高生バンドなんですよ? 『V8チェンソー』主催のイベントっていうだけで恐れ多いのに、そちらが恐縮するぐらい立派なバンドを集めるイベントなんて、ちと荷が重すぎませんか?」
「でも、『KAMERIA』にはそれだけの爆発力があるからねぇ」
チェシャ猫と年老いた猫の中間ぐらいの笑顔で、浅川亜季はそう言った。
「『KAMERIA』がそのポテンシャルを余すところなく発揮できれば、どんな大御所バンドでも目を剥くことになると思うよぉ。何せ『KAMERIA』ってのは、初期衝動の塊みたいなバンドだし……その勢いが、ライブを重ねるごとに上昇してるみたいに感じられるんだよねぇ」
「初期衝動が回を重ねるごとに上昇するって、言葉として矛盾していませんか?」
「そう。そういう意味でも、『KAMERIA』ってのはちょっと普通じゃないんだと思うよぉ。だからあたしたちは、こんなにハートをつかまれちゃうのさぁ」
浅川亜季にそこまで言ってもらえて、めぐるは胸が熱くなってしまった。
しかし、和緒のクールなポーカーフェイスは揺るがない。
「お話の内容は、理解しました。でもたしか、ライブハウスのブッキングって、けっこう早めに予約する必要があるんですよね?」
「そうなの! 二、三ヶ月はゆとりをもっておかないと、希望の日取りでブッキングを入れることはできないからさ! つまりあたしたちも十一月か十二月ぐらいには出演をお願いするバンドに声かけしないといけないから、その前に『KAMERIA』のライブを観ておきたいんだよー!」
ハルはいつになく真剣な面持ちで、ぐっと身を乗り出した。
「勝手なお願いだってことはわかってるし、ほんとは『KAMERIA』のみんなをせかしたりはしたくないの! でもどうしても、『KAMERIA』をイベントに誘いたくってさ! ワガママだらけなのは百も承知で、お願いします! できれば十一月、遅くても十二月ぐらいまでに、通常ブッキングでライブをやってもらえない?」
すると、町田アンナも鳶色の瞳を輝かせながら、同じぐらい前のめりになった。
「ブイハチのみんなにそうまで言われたら、こっちまで血圧があがってきちゃうね! ウチは大賛成だけど、みんなはどうだろー?」
「うん。私も『V8チェンソー』のみなさんには、少しでも恩返しできたらと思うよ」
まずは栗原理乃が凛々しい面持ちで、そのように応じた。
和緒は相変わらずの調子で、肩をすくめる。
「どうせいつかはライブハウスで普通のライブをやりたいっていう話になるんだろうから、それが年内でも来年でも大きな差はないように思うね。それであれこれお世話になった方々への恩返しになるってんなら、あんまり頑強に反対はできないかな」
実に人を食った物言いであるが、和緒のこういう性格にはバンド合宿で免疫がついたのだろう。もっとも厳しい一面を持つフユでも、気分を害した様子はなかった。
ということで、一同の視線はめぐるに集中する。『V8チェンソー』ばかりでなく『KAMERIA』のメンバーにまでじっと見つめられて、めぐるは泡を食うことになった。
「わ、わたしはその……自分にそんな大役が務まるのかどうか、まったく心もとないのですけれど……『V8チェンソー』の方々にそんな期待をかけていただけるのは……すごくプレッシャーで……」
「…………」
「…………」
「…………」
「……す、すごくプレッシャーですけど……す、すごく嬉しいです」
ハルは自分の胸もとに手をやりながら大きく息をつき、フユはくたびれきった面持ちで天を仰ぐ。そして、浅川亜季はくつくつと咽喉で笑った。
「めぐるっちって、つくづく焦らし上手だねぇ。まあ、バンド合宿の恩恵で、そののんびりとしたペースにも慣れてきたけどさぁ」
「そ、そうですか。恐縮です」
やはり誰よりも人格に難のあるめぐるは、誰よりも大きなお世話をかけているようであった。
ともあれ――そうして『KAMERIA』は、文化祭の後にも大きなイベントを迎えることが決定されたのだった。




