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ライク・ア・ローリング・ガール  作者: EDA
-Disc 4-

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141/327

-Track4- 01 開場

 いよいよ開場の時間が迫ってきたため、めぐるたちはギグバッグなどの手荷物を片付けるために楽屋を目指すことになった。


 そうして楽屋に足を踏み入れるなり、めぐるは仰天してしまう。そこにはめぐるがかつて目にしたこともないような、巨大な楽器のケースが鎮座ましましていたのだ。


 形状は、ギターやベースによく似ている。もっとも近いのは浅川亜季のレスポールで、左右対称の平たいひょうたんのような形状だ。

 ただしサイズは、比較にもならない。ずんぐりとしたボディだけでもめぐるの肩ぐらいまで届き、ヘッドの天辺は百八十センチはあろうかという高みにまで達していた。


「ああ、それがキュウベイさんのベースだよ。使ってる機材からして、なかなかのもんでしょ?」


 和緒の皮肉っぽい声で、めぐるは我に返ることになった。


「こ、これってベースなの? こんなに大きなベースは見たこともないんだけど……」


「エレキベースじゃなくて、ウッドベース。アップライトベースだとかコントラバスだとかいう呼び名もあるみたいだけど、あたしにもよくわからんよ」


 コントラバスなら、かろうじてめぐるの知識にも存在する。それはクラシックなどで使用される、巨大な弦楽器であるはずであった。


「……『リトル・ミス・プリッシー』の御方は、コントラバスを使用しておられるのですか。ロックバンドでも、そのようなことがありえるのですね」


 リィ様の姿をした栗原理乃が冷ややかな声をあげると、町田アンナも感心しきった面持ちで巨大なケースを眺めながら「うんうん!」とうなずいた。


「ウッドベースなら、ロカビリーとかのバンドで使われてるはずだね! でもウチも、実物を目にしたのは初めてだなー!」


「たぶんだけど、リトプリのお人は真っ当な使い方をしてないんじゃないかな。あたしはすっかり、ウッドベースの間違ったイメージを植えつけられた気分だよ」


『KAMERIA』の中ではただひとり、和緒だけが『リトル・ミス・プリッシー』のライブ映像を事前に確認していたのだ。

 そして和緒はキュウベイの演奏に度肝を抜かれると同時に、めぐるのツボにハマるかどうかはわからないと言いたてていたものであったが――めぐるもようやく、その言葉の意味を理解することができた。これほどまでにサイズの異なる楽器では、同じベースと認識できるかどうかも定かではなかったのだ。


「間近で見ると、本当に馬鹿でかいよね。あんただったら、ケースの中に入れるんじゃない? いっちょチャレンジしてみようか」


「か、勝手にさわったら怒られちゃうよ。……あ、うん。冗談なのは、わかってるけどさ」


 そうしてめぐるは和緒に頭を小突かれながら、ようやく楽屋の奥へと歩を進めることになった。

 本日も、楽屋はきわめて雑然としている。五つのバンドが機材を持ち込むだけで、楽屋というのは混沌とするのだ。ただ、その中にフユのベースのハードケースと巨大なエフェクターボードを発見しためぐるは、思わず胸をときめかせてしまった。


(今日は本当に、『V8チェンソー』と同じステージに立つんだ)


 もちろん『V8チェンソー』とはすでに何度か同じイベントでご一緒しているし、八月末の野外フェスではセッションの共演まで果たしている。しかしやっぱり、『V8チェンソー』が主催するイベントに出場できるというのは、感慨深くてならなかった。


(きっと他のバンドは、『V8チェンソー』に負けないぐらい凄いんだろうけど……わたしたちは、わたしたちなりに頑張ろう)


 めぐるは空いていたスペースにギグバッグを押し込み、もともと脱いでいたダッフルコートをハンガーに掛けさせていただく。そうして頼もしきメンバーたちとともに楽屋を出ていこうとすると、『リトル・ミス・プリッシー』の面々がどやどやと乗り込んできた。


「ああ、お疲れさん。そっちん準備を始めるまで、くつろがせてもろてええかな?」


 パーカッションのノバが丸っこい顔に愛嬌のある笑みをたたえつつ、そのように呼びかけてくる。めぐるがまごまごしていると、町田アンナが「どーぞどーぞ!」と元気に答えた。


「ウチらもお客さんの相手をしなきゃいけないんで、準備を始めるのは十五分前ぐらいかなー! ただ、リィ様は居残らせてもらいますねー!」


 町田アンナの視線を追ったノバは、「うん?」と短い首を傾げた。ひとり楽屋の奥のほうに居残った栗原理乃は、本日も壁と向かい合っていたのだ。


「あん子は、なんしとるん?」


「精神統一! たぶんですけど!」


「ああそう。精神統一は、大事やんね」


 ノバは、にこりと微笑んだ。どうもこの寡黙なメンバーの中で、彼女が一身に社交の役目を担っているようである。

 他なるメンバーたちは、けだるい足取りで楽屋に踏み入ってくる。キュウベイがチハラの肩に手をかけているのは、濃いサングラスで視界がきかないためなのだろうか。そうして三名はそれぞれ上着も脱がないまま、どさりとソファに腰を落とした。


 あらためて、めぐると和緒と町田アンナは楽屋を出る。

 するとそちらでも、常とは異なる作業が為されていた。客席ホールに下りる階段の前に長テーブルが出されて、そこにCDやらTシャツやらが並べられていたのだ。その作業に従事しているのは、長袖Tシャツの上に半袖のTシャツを重ね着にした若い女性と――そして、ゴージャスなメイド服のごとき衣装を纏った、見知らぬ娘さんであった。


「あれあれー? あなたもヴァルプルのメンバーさん?」


 町田アンナがきょとんとした顔で呼びかけると、その娘さんは「いえいえ」と愛想よく微笑んだ。


「わたしは、ヴァルプルのスタッフです。本当はまりりんさんのお店のスタッフなんですけど、今日は売り子として駆り出されました」


「まりりんさんのお店?」


「はい。ご存じありませんか? 魔法少女カフェ『まりりんず・るーむ』です」


 その娘さんは手品のように名刺を取り出して、それを差し出してきた。


「まりりんさんは、こちらのお店のオーナーさんなんです。みなさん可愛らしいから、きっとスカウトされると思いますよ」


 めぐるは言葉も出なかったが、町田アンナは「あはは!」と愉快げに笑っていた。


「格闘技のトップファイターで、インディーズバンドのヴォーカルで、おまけにカフェのオーナーさんなのかー! で、どのジャンルでもやっぱり魔法少女なわけだねー!」


「はい。あれほど色々な方面に才能をお持ちの御方は、なかなか他にいないかと思います」


 そんな風に語りながら、娘さんはさらなる荷物をテーブルの上に積み上げた。

 数種類のCDに、Tシャツに、スポーツタオルに、キーホルダーに、ステッカーなどなど――それらはみんな、『ヴァルプルギスの夜』のグッズであったのだ。Tシャツの一枚には、鞠山花子の特徴的な顔が的確にデフォルメされたイラストがでかでかとプリントされていた。


 いっぽうもうひとりの女性は、『リトル・ミス・プリッシー』のグッズを並べている。そちらは、CDとTシャツとステッカーのみだ。インディーズレーベルというものに所属していると、こういったグッズまで販売されるようであった。


「……『V8チェンソー』も過去に一枚だけ、自主製作でCDをリリースしたらしいけどね。ギタボがいた時代の音源だから、販売を停止したらしいよ」


 と、和緒がそんな言葉を囁きかけてきた。


「まだ五十枚ぐらい売れ残ってたのに、ゴミの山になっちゃったわけさ。つくづく不憫な話だよね」


「……かずちゃんは、どこでそんな話を聞いたの?」


「夏合宿で、ハルさんにドラムのレクチャーをされたときだね。そんなネガティブな情報をあんたに伝える必要はないかと思ってたけど……今日だったら、気合の燃料になるかと思ってさ」


「……うん。たぶん、なったと思うよ」


 めぐるがそのように答えると、和緒は優しい力加減で頭を小突いてきた。

 すると、店の受付カウンターに陣取っていた女性スタッフがこちらに声を投げかけてくる。


「それじゃあ、開場しまーす! 外で買ったフードやドリンクなんかは、楽屋に引っ込めてくださいねー!」


 そうして、店の扉が開かれると――いきなり、見知った顔が踏み込んできた、軽音学部の二年生コンビ、小伊田と森藤である。


「みんな、お疲れ様! 興奮しちゃって、オープン前に到着しちゃったよ!」


 小伊田は本日も、子供のようにはしゃいでいた。

 それよりはいくぶん落ち着いている森藤も、瞳は明るくきらめいている。


「何せ今日は、すごいバンドと対バンだもんね! 部長たちもこんな受験の直前じゃなかったら、絶対に駆けつけてたのにね!」


「うん! ウチらも負けないように、頑張るよー!」


「『KAMERIA』だったら、きっと大丈夫だよ! 応援してるから、頑張ってね!」


 小伊田や森藤も、もともとは『リトル・ミス・プリッシー』や『ヴァルプルギスの夜★DS3』を知らなかったらしい。しかし、インターネットで情報を収集し、両バンドの華やかな経歴に度肝を抜かれたのだそうだ。


「十一月のライブも年越しイベントも観られなかったから、僕たちにとっては文化祭以来のライブだからね! 興奮しすぎて、今日は無駄に早起きしちゃったよ!」


「あはは! どうもありがとー! 今日は最後まで楽しんでいってね!」


 そうしてこちらの一行が騒いでいる間も、ぽつぽつと新たな客がやってくる。

 そこで、ひとりの女性が姿を現したとき――町田アンナが、「わーっ!」と雄叫びをあげた。


「ホヅちゃんだホヅちゃんだ! ホヅちゃん、こっちだよー!」


「おー、アンナ先生、ひさびさだねー」


 にこりと微笑むそちらの女性に、町田アンナは猛然とつかみかかった。

 格闘技で鍛えた両腕が、そちらの女性の胴体をぎゅうぎゅうとしめあげる。「痛い痛い」と声をあげながら、そちらの女性も楽しそうな笑顔であった。


「みんな、紹介するねー! この人がウチのココロの師匠、ホヅちゃんだよー!」


「あはは。こーんな放置プレイする師匠はいないっしょ」


 そう言って、ホヅちゃんこと田口穂実はにこりと微笑んだ。

 その姿は、以前にも町田アンナのスマホで画像を拝見している。セミロングの髪の毛先だけを鮮やかなグリーンに染めた、とても柔和な面立ちの女性だ。かつてはダイエットのために町田道場に通い始めたという話であったが、どちらかというと細身の体形であり、本日はオーバーサイズのボアジャケットとだぶだぶのフィッシャーマンパンツいう身なりで、頭にはエスニックな柄のニット帽をかぶっていた。


「どうも、初めてまして。そっちがめぐるちゃんで、そっちが和緒ちゃんだねー。画像で見るより、百倍かわいいや。アンナ先生って、面食いだったんだねー」


「うん! ホヅちゃんもこんなに美人さんだしね!」


「あらら。かわいい呼ばわりしてくれないのは、やっぱり二十を過ぎたババアだからかしらん?」


「もー! そうじゃないってばー!」


 町田アンナは田口穂実の腕を握ったまま、ずっとにこにこと笑っている。

 しかし何故だか、めぐるは胸が詰まってしまった。町田アンナが彼女との別れでどれだけ悲しみ、今日の再会でどれだけ喜んでいるか――そんな風に思いを巡らせると、なんだか涙がこぼれてしまいそうなぐらいだった。


「今日のライブは、めっちゃ楽しみにしてたよー。ていうか、けっきょく去年はことごとく観にこられなくて、ごめんねー」


「そんなの、いーんだよ! ウチだって、ぜんぜんホヅちゃんのライブに行けてないし!」


「我がバンドは、絶賛低迷中だからねー。わざわざ遠出してもらう甲斐はないさー」


 田口穂実のバンドは一念発起して上京したというのに、ドラムが脱退してしまったという話であったのだ。現在は助っ人のメンバーを迎えてライブ活動を行っているそうだが、結果はあまり芳しくないようであった。


「今日はすごいバンドばっかだから、ホヅちゃんも最後まで楽しんでいってよ!」


「うんうん。『V8チェンソー』ってのは都内でもよく聞く名前だし、リトプリやヴァルプルと対バンってのはすごい話だよねー」


 そんな風に言ってから、田口穂実はまたやわらかく微笑んだ。


「でも、今日の目的はあくまで『KAMERIA』だからねー。今日までライブ映像を我慢してたんだから、あたしの期待もマックスだよー?」


「うん! ぜーったい、期待に応えてみせるから!」


「うんうん。楽しみな限りだねー」


 町田アンナを見つめる田口穂実の眼差しは、とても優しい。

 和緒がかつて評していた通り、彼女の朗らかさはハルを、やわらかい笑顔は浅川亜季を連想させなくもなかったが――しかしやっぱり実物を前にすると、まるきり別物だ。そして、彼女の眼差しの優しさが、まためぐるの胸を詰まらせてやまなかった。


 すると今度は、見たことがあるようなないような一団が大挙してバーフロアに踏み込んでくる。それは、町田アンナの個人的な友人たちだった。


「わっ、みんなも来ちゃった! もー! ホヅちゃんとしゃべり足りないよー!」


「夜はまだまだ長いんだから、焦ることはないさー。あたしはめぐるちゃんたちと親睦を深めさせていただくから、どうぞごゆっくりー」


「うん! また後でおしゃべりしよーね!」


 町田アンナは名残惜しそうに田口穂実の腕をぎゅっとつかんでから、新たな一団のもとに駆け寄っていった。

 そして田口穂実は、めぐるたちににこりと微笑みかけてくる。小伊田と森藤は気をきかせたのか、いつの間にか姿を消していた。


「めぐるちゃんと和緒ちゃんも、頑張ってねー。……あと、僭越ながら、お礼を言わせてもらってもいいかなー?」


「お礼? 何に関してでしょうか?」


「うーん、なんだろ? アンナ先生と出会ってくれたことに関してかなー。でもそんなの、お礼を言われる筋合いじゃないよねー」


 そう言って、田口穂実はふにゃんと微笑んだ。

 笑顔の多彩さは、やはり浅川亜季に匹敵するようだ。


「とにかくあたしは、アンナ先生が楽しそうにバンドを続けてるのが、嬉しくってさ。電話でもメールでも、とにかくメンバーのみんなが大好きだーって気持ちが伝わってきて、あたしも落涙ものなんだよー。だから、ありがとねー」


「……やっぱり、あたしらがお礼を言われる筋合いではないようですね」


「うんうん。きっとあなたたちも、アンナ先生に負けないぐらい楽しいんだろうしねー」


 田口穂実がそんな風に言ったとき、「きゃー!」という悲鳴まじりの声が響きわたった。

 めぐるがびっくりしていると、小さな人影が田口穂実にぴょんっと飛びつく。それは、町田エレンに他ならなかった。


「ホヅちゃんだホヅちゃんだ! ホヅちゃん、ひさしぶりー!」


「おー、エレンちゃんも、すっかり大きくなったねー」


 田口穂実は怯んだ気配もなく、町田エレンの栗色をした頭を撫でくり回した。

 すると、他のご家族も笑顔で接近してくる。


「穂実さん! ひさしぶりだな! 元気そうで何よりだ!」

「お会いするのは、一年ぶりぐらいかしら? 本当に元気そうでよかったわ」

「穂実さん、おひさしぶりです。みんな穂実さんに会いたがってましたよ」


 やはり町田家の面々も、彼女との再会を心待ちにしていたようである。

 そこに『ケモナーズ』の面々までやってきたので、めぐると和緒もひとまずそちらのお相手をすることにした。


『ケモナーズ』から参じてくれたのは、ギター&ヴォーカル、ベース、キーボードの三名だ。残り二名は所用で来られなかったとのことであるが、こちらとしては感謝するばかりである。そしてこちらの三名も、小井田たちと同じようなテンションであった。

 そうしてめぐるも覚束ない調子で挨拶をしていると、ドリンクのグラスを掲げた小伊田と森藤も舞い戻ってくる。そちらで新たな輪が形成されたので、めぐるはほっと息をつくことになった。


 気づけばバーフロアは、人でいっぱいになっている。『マンイーター』や『V8チェンソー』の面々も、それぞれお客の相手に勤しんでいるようだ。

『KAMERIA』が呼んだ十六名はすでに全員来店しているはずだが、それ以外にもそれなりの人数が集まっているようである。これらの人々がみんな客席に下りてくれたら、トップバッターの『KAMERIA』もそんなに寂しい思いはせずに済みそうなところであった。


「あ、いたいたぁ。めぐるっちたちも、いちおうご挨拶しておきなよぉ」


 と、浅川亜季が数名の男性を引き連れてこちらにやってくる。

 明らかに見覚えのある面々であったが、しかし素性までは思い出せない。すると、和緒が「ああ」と小さく頭を下げた。


「『ザ・コーア』のみなさんですね。こんな早い時間から、お疲れ様です」


「そりゃあ『KAMERIA』がトップバッターなら、最初から来るしかないさ! 今日はすげえメンツだけど、ビビって調子を崩さねえようにな!」


 男性のひとりが、豪快な笑顔でそのように言い放った。それは十一月のライブでご一緒した、『ザ・コーア』のメンバーたちであったのだ。

 さらに別の方向から、ハルが笑顔で近づいてくる。そちらが引き連れていたのは、年越しイベントで『KAMERIA』の二つ前に出演していたバンドの面々であった。


「やっぱり今日は、同業者の方々が多数来場しておられるようだね」


 ひと通りの挨拶を終えたのち、和緒がそのように囁きかけてきた。

 挨拶をした二つのバンドの他にも、ちらほらと見覚えのある顔がうろついていたのだ。それらもきっと、かつて何らかの場でご一緒した面々なのだろうと思われた。

 そんな彼らがこんな早くから来場してくれたのは――『KAMERIA』のステージを見届けたいという思いもあってのことなのだろうか。

 そんな風に考えると、めぐるの胸は知らず内に高鳴ってしまった。


 そこで、入り口の辺りからどよめきがあげられる。

 そちらを振り返っためぐるも、思わず息を呑むことになった。実に奇矯なる一団が、店内に踏み込んできたのだ。


 それは、『ヴァルプルギスの夜★DS3』のメンバーたちに他ならなかった。

 ただし全員が、死神のように真っ黒のフードつきマントを羽織っており――鞠山花子を除く面々は、黒いガスマスクを装着していた。

 ガスマスクは顔の前面を覆う形状であるし、ゴーグルにもグレーがかった色が入れられているため、人相は完全に隠されている。誰が誰であるのかは、背格好で判断するしかなかった。


 黒いフードを深くかぶった鞠山花子は、カエルの女王様の風格でのしのしと進軍してくる。それにガスマスクを着けた三名が追従するさまは、異様と称するしかなかった。


「……みなさんは、表で着替えてきたんですか?」


 恐れを知らない和緒が通りすぎざまに声をかけると、鞠山花子は「ふふん」と鼻を鳴らした。


「着替えではなく、変身なんだわよ。今日は途中で抜け出す隙がないから、あらかじめ移動基地で準備を整えてきたんだわよ」


「それはそれは、お疲れ様です」


 和緒が恭しげに一礼すると、進軍を再開させた一行はそのまま客席ホールに下りていった。


「あの下が魔法少女のコスチュームだとすると、さぞかし寒かったことだろうね。ま、あたしらや『マンイーター』のライブも観賞に値するって思ってもらえたんなら、光栄に思うべきかな」


「う、うん。そうだね」


 本日はライブを行う前から、大層な騒ぎである。

 そしてそのライブも、開演がすでに間近に迫っていたのだった。

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