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ライク・ア・ローリング・ガール  作者: EDA
-Disc 4-

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120/327

-Track1- 01 今後の課題

「今日の練習を始める前に、あれこれ確認しておきたいことがあるんだけど!」


 その日の放課後――そんな風に宣言したのは、もちろん町田アンナであった。

 朝からさまざまな思いにひたることになっためぐるが、無事に退屈な授業を乗り越えて、部室における練習の時間を迎えてすぐのことである。ドラムのセッティングを進めながら「確認?」と反問したのは、いつでも頼もしい和緒であった。


「確認って、なんの確認さ? 面倒な話は、勘弁願いたいところだね」


「たとえメンドーでも、二の次にはできないの! 『KAMERIA』がさらなる飛躍を目指すためには、数々の課題をクリアーしなければならないのであーる!」


「ああもう、そのテンションについていくだけで面倒だよ。なんでもいいから、話を進めてくれない?」


「うん! ウチらは二月にブイハチの周年イベントっていう大一番を控えてるわけだからさ! その前に、もっともっとステージを磨きぬきたいわけよ!」


 自らもギターのセッティングに勤しみつつ、町田アンナはそのように言い放った。

 めぐるや栗原理乃は、小首を傾げるばかりである。すると、鳶色に輝く町田アンナの目がいきなりめぐるに向けられてきた。


「演奏力に関しては、ウチらもジュンチョーにステップアップしてると思うんだよ! もちろんまだまだカイゼンのヨチはあるだろーけど! それは今後もめいっぱい練習していくしかないよね!」


「は、はい。そうですね」


「でも! ライブのステージってのは、演奏の出来がすべてじゃないからさ! 幕が開いてから閉まるまでの三十分間、『KAMERIA』のかっちょよさをめいっぱいアピールしなきゃいけないわけよ! めぐるも、そう思うでしょ?」


「は、はい……そうかもしれませんね」


「では、ずばり聞きましょう! ライブハウスで撮影してもらった映像を観て、めぐるはどう思った? 演奏以外の部分でね!」


「え、演奏以外の部分ですか……?」


 ベースのチューニングに取り組みながら、めぐるは存分に思い悩むことになった。

 四日前のライブにおいて、『KAMERIA』はライブハウスに映像の撮影をお願いした。そちらの映像はライブの当日と翌日に、町田家で何度も視聴させていただいたのだ。それは事前から聞かされていた通り、決して手放しで喜べるような内容ではなかったのだった。


 まず、そちらで撮影された映像は、固定カメラによるものである。どうやら天井のあたりにカメラが設置されていたらしく、ステージ全体を網羅する正面からのアングルで、ひとりずつの姿はとても小さい。町田アンナはひとりで暴れまくっていたが、やはり固定のアングルではライブらしい迫力など期待できるものではなかった。


 さらに、録音されているのはミキサー卓に集められたラインの音である。めぐるが覚悟していたほど味気ない音ではなかったものの、各楽器の音量バランスはわやくちゃであるし、ヴォーカルの歌声がいくぶん浮いて聞こえてしまうため、めぐるがステージ上で感ずる調和などは望むべくもなかった。


「え、えーと……町田さんのお友達が撮ってくれた映像は、すごく迫力があったように思いましたけれど……ライブハウスで撮影してもらった映像は、ちょっと物足りない感じでしたよね」


「うんうん! スマホの撮影だとアングルも変わるし、アンプやスピーカーの音を拾ってるからね! そりゃー固定カメラでラインの音の映像とは、比較にならないだろーさ! でも、固定カメラだからこそウキボリにされる面もあるっしょ?」


「ご、ごめんなさい。わたしには、ちょっとよくわからないのですけれど……」


「それじゃーさ! めぐるはステージの自分を観て、どう思った? 演奏以外の部分でね!」


 町田アンナのそんな言葉で、めぐるはがっくりと肩を落とすことになった。


「それはもちろん、見ていて情けなかったです。なんだか、素人まるだしで……」


「ふむふむ! 具体的には?」


「ぐ、具体的にですか? ですから、それは……一曲目が終わった後に、紙袋を外すところとか……」


 栗原理乃を除く三名は、一曲目を終えたタイミングで紙袋の覆面を外す段取りになっていた。しかしそれを失念していためぐるは、町田アンナと和緒が紙袋を外していることに気づいてから、ひとりであたふたとそれを追いかけることになったのだ。


「そう! そーゆーことなんだよ! めぐるも同じ気持ちでいてくれて、よかったー!」


 と、町田アンナはいきなりギターのエレキサウンドを響かせた。めぐると会話を続けながら、彼女はぬかりなくセッティングを終えていたのだ。


「なるほど。それでプレーリードッグに狙いをつけたわけね」


「そーなの! めぐるって演奏に関しては気合も集中力もハンパないけど、それ以外のことには関心が薄そうじゃん? だから、キョーカンしてもらえないこともありえるかもーってちょっぴり心配だったんだよねー!」


「で? 共感を得られたら、なんだっての? 今後は段取り通りに、タイミングよく覆面を外すべしってこと?」


「そんなのは、わかりやすいポイントのひとつに過ぎないよ! 全体的に、『KAMERIA』はまだまだ素人まるだしだと思うんだよねー!」


「そりゃあ素人そのものなんだから、当然の話でしょうよ。まあ、リィ様はひとりで玄人みたいなオーラをぷんぷんさせてるけどさ」


「いやいや! ステージング自体は、立派なもんだと思うよー! 和緒やめぐるは黙々とプレイするタイプだけど、それはそれでかっちょいーと思うし! 演奏中は素人くさいなんてぜーんぜん思わないもん!」


 そう言って、町田アンナはまたギターの音を響かせた。


「だから、ウチがモンダイテーキしたいのは、インターバルについてだよ! あと、曲のつなぎに関してね! そこのところを二の次にしちゃったから、ウチらはあんなに素人くさく見えちゃうんだと思うんだよねー!」


 曲のつなぎというものに関しては、めぐるも同じような思いを抱いていた。間にMCをはさまずに楽曲を連続で演奏する際、『V8チェンソー』を筆頭とする他のバンドはとても移行がスムーズであるのに、『KAMERIA』はずいぶんぎこちないように見えたのだ。


「だから、今後はさ! きっちりライブの流れまで練習していこーよ! そしたら、あんな素人くささもカイショーされると思うから!」


「クリアーするべき課題って、そういう話だったんだね。アンナちゃんが何を言い出すのかと思って、私も少し心配になっちゃってたよ」


 と、マイクのセッティングを終えた栗原理乃が、ほっと息をつきながらそう言った。


「でもさ、ライブの流れって言っても……二月のイベントでは、新曲を増やす予定なんだよね?」


『そう! そこもジューヨーなポイントだね!』


 町田アンナはセッティングされたばかりのマイクでもって、そのようにがなりたてた。和緒は顔をしかめながら、スティックを投げつけるふりをする。


「頼むから、あんたの声量は歌だけに活かしてよ。……何か新曲のアイディアでもわいたの?」


「うん! ただその前に、説明が必要かと思ってさ!」


 町田アンナはマイクから身を離しつつ、そう言いたてた。確かにマイクなど必要ないぐらいの声量である。


「これもさっきの話に通じるんだけど、曲順の流れも素人くさいにように思えちゃったんだよねー! ウチらって曲調にイッカンセーが薄いから、持ち曲をテキトーに並べてるように思えちゃうんだよ!」


「色んな曲調を取り入れていきたいって主張してたのは、たしかあんたじゃなかったかね」


「うん! ウチはそーゆースタンスだよー! だからまあ、後半部分はそんなに不満もなかったの! アオツキでヘヴィに重苦しく攻めて、アマヤドでガラッと雰囲気を変えて、センハナでまためいっぱい盛り上げて、そのままコロショーでしめくくる! 曲のつなぎをきっちり練習しとけば、めっちゃいい流れだと思うんだよねー!」


「後半部分と言いながら、五曲中の四曲には満足してるわけかい。それじゃあ一曲目の『小さな窓』だけがご不満ってこと?」


「チイマドも、オープニングとしてはバッチリだと思うんだよ! だから問題は、チイマドからアオツキの流れなんだよねー! アオツキってかなりヘヴィだから、二曲目だとちょっと出番が早いように感じちゃうんだよ! それに、チイマドもけっこーヘヴィ寄りだから、バンドのイメージが偏っちゃうじゃん? そこからバラードのアマヤドにつなげるのも、ちょっとトートツすぎるように思えたしさ!」


 めぐるは懸命に、町田アンナの言葉を理解しようと努めた。

 もしも自分が、お客の立場で『KAMERIA』のステージを観ていたら――いったいどのように思うだろうか?


 まずはヨコノリでダンシブルな『小さな窓』から、ステージが開始される。こちらはそれほど重々しい雰囲気ではなく、むしろ軽快な要素もはらんでいるはずだが――しかし、リフのフレーズは攻撃的で、ベースの音もおもいきり歪ませている。それに基本のコード進行も、『転がる少女のように』よりはマイナーで暗い雰囲気を帯びていた。


 そこで『青い夜と月のしずく』につなげると、暗く重々しい雰囲気に拍車が掛けられる。たとえば四日前に競演した『ザ・コーア』や『StG44《エステーゲーヨンヨン》』のように似たような楽曲で統一していれば問題はないのであろうが、『KAMERIA』の場合はここからバラード調の『あまやどり』やタテノリの『転がる少女のように』などを披露するのだ。それを思うと、前半と後半でずいぶん雰囲気が変わってしまうし――なおかつ、間にヘヴィな『線路の脇の小さな花』をはさむとなると、いっそう取り留めがないように感じられた。


「それなら……『転がる少女のように』みたいに、明るめで元気な曲をはさむとか?」


 栗原理乃が自信なさげに発言したので、めぐるは本能のままに「あ、いえ」と口をはさんでしまった。


「そこであんまり元気な曲をはさむと、いっそう統一感がなくなってしまう気がするので……『小さな窓』と『青い夜と月のしずく』の中間みたいな曲調にしたほうが……」


「なるほど。それじゃあ多少は重々しい雰囲気で……なおかつ、暗くなりすぎないような……? ううん、難しいですね」


「そうですね。わたしも、具体的なイメージはわきません。……町田さんには、何かアイディアがあるんですか?」


「そーなの!」と、町田アンナは胸を張った。彼女の下の妹を思い出させる、子供っぽい挙動だ。


「ただ、基本はセッションで作っていきたいからさ! ウチが思いついたのは、あくまでイメージね! とりあえず持ち曲をひと回ししたら、それにチャレンジさせてもらってもいいかなー?」


「はいはい。うかうかしてると、おしゃべりで終わっちゃいそうだしね」


「そうそう! でも、ウチは他にも話し合いのネタを持ってきてるからさー! 練習が終わったら、どこかでミーティングしていこーね!」


 本日は、練習の後にもメンバーたちと同じ時間を過ごせるようである。

 それを想像しただけで、めぐるはいっそうの熱意でその日の練習に取り組むことがかなったのだった。

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