花火を楽しむ
家に帰ってきたあと、何をはじめたかというと花火の準備だった。
映画は終わった後でもできるということでだが、ノリと勢いで半ば決めてしまったようなもの。
場所は中庭。
とりあえずバケツに水を汲んで、ローソクを立てる。
夜が深まるところ、あえて家の明かりも消したので、よけいに暗く感じる。
「いい感じだね」
暗がりで少女の表情はわからないが、声の調子は弾んでいる。
買ってきたのは市販の花火。ファミリー向けなので二人でやるには少し多いかもしれない。
ローソクに火をつける。もちろん光源としては心許ない。あくまで花火に火をつけるためのものだ。
「線香花火は最後にやろうよ」
「そうだね。他のからはじめようか」
スマホのライトで明かりをつけて、手元を確認する。
少女に花火を一本渡すと、ローソクの火で点火をはじめる。
「こういう花火久しぶりなんだ」
「それは意外だ」
「そうかな?」
「友達とよくやってるイメージだったから」
「地元に帰ったら、あるかもしれない」
「このあたりでお祭りとかするのかな?」
「去年で最後だったらしいよ。昔は打ち上げ花火もやってたって伯父さんは言ってたけど」
それは少し寂しいな。でも、理由は何となくわかる気がする。
「だったらなおさら楽しまないとね」
「もちろん」
そこで少女は思い出したように。
「花火、ちょっと待って」
すぐ戻るからと少女は家の中へバタバタと入っていく。僕は一旦、ローソクの火を消すのだった。
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