そば屋にて
夏の日差しが照りつける中、それでも三〇分かけて走り続けるのはきつかった。
そば屋の看板がかかっている古民家に到着する頃には僕はへとへとになっていた。
自転車は古民家の日陰に置いて、店の中へ入ることにした。
「エアコンが効いてるね」
これは素直に助かった。
土間の部分は僕が寝泊まりしている民家の倍くらいの広さがある。
少女は麦わら帽子を脱いで、内輪代わりにあおいでいる。
ちょうど中心には木製の四角形の台が置かれており、そこには小物類が並んでいる。値札がついているので販売しているということだろう。
「ちょっと見てもいいかな?」
小物を指さして訊ねてくる。
「いいよ」
僕はタオルで汗を拭きつつ答えた。
並んでいる小物は自作のものであることは一目でわかる。作りこみも丁寧で少女は目を輝かせて眺めている。
「これ可愛いなぁ」
ひまわりのレリーフが入った髪飾りだった。大きくもなく値段も手頃なものだ。
「気に入ったの?」
「うん。私は好き」
「せっかくだし買っちゃえば?」
そう言われるとなぜか少女は言いよどむ。
「えっと、どうしようかな……」
「じゃあ僕が買おうかな」
「え?」
僕は少女が見ている髪飾りを手に取ってレジへと向かい購入する。
「お兄さんがつけるの?」
「まさか。迷惑でなければ君に」
あげるよ。
「わ、悪いよ」
「僕には似合わないと思うしね」
少女ははあと諦めたようなため息をつく。
「だったら一つ条件」
少女はすっと一息呼吸を入れたあとに続ける。
「お兄さんにつけてほしいな」
少女は恥ずかしがりながらも、ひまわりのような笑顔を僕に向けるのだった。
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