鑑賞会のあと
「お兄さん、いる?」
洗面台の横がお手洗いになっている。僕は歯磨きをしている最中。
少女はお手洗い中だ。本来であればしたいことではないが、少女からどうしてもと懇願されていまに至る。
「いるよ」
だから落ち着いてと僕は言う。ちなみに僕が歯磨きをしているのはお手洗いから気を紛らわすためだ。
ドア一枚向こうで少女が用を足しているというのだから、落ち着かないのは僕も同じだ。
「行きたくないなって思ったら、行きたくなるんだよね……」
おそらく視聴中にむぎ茶をよく飲んでいたせいだろうなと僕は思う。
「よくよく考えたら、ここも田舎にポツンと建っている古民家なんだよね……」
その通りだ。舞台がリンクしていることに少女は視聴中にようやく気がついたのだ。
少女はため息をつきながら、トイレからでてくる。
映画のチョイスに少し後悔してるのかもしれない。
「私も歯磨きするね」
だから終わるまで待っててと言われた。
「お兄さんは平気なの?」
「十分怖かったよ」
その割にいま平静そのものなことに少女は疑いの眼差しを向けてくる。
「あ、君って結構力強いんだね」
抱きつかれたとき、どちらかというと痛いくらいだったことを思い出す。
「もう……」
少し暗がりでよく見えなかったが、少女は照れたのかもしれない。
気づけば僕から顔を逸らしていた。
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