鑑賞会
「せっかくだし、映画でも観ない?」
少女の提案だった。何でも伯父さんのスマートテレビの機器を借りてきたそうだ。
いま寝室のテレビに接続をしている最中だ。そもそも家の中はネットが繋がっているので、さして難しいことはない。
「どんなのを観るの?」
「せっかくだしホラー系とかがいいかな」
何がせっかくというのだろうか。僕は胡乱げな視線を少女に向ける。
「友達に観ようって言っても嫌がられるんだよ」
だからということらしい。
「これなんかどうかな?」
少女の選んだタイトルのあらすじを斜め読みする。
田舎の古びた一軒家が舞台という時点でなぜ選んだと思う。
六人の若者はその家で恐怖の体験をするという話だ。
「ホントに観るの?」
「面白そうだよ?」
なるほど。画面とかの雰囲気だけで決めたようだな。果たして少女のホラーものへの耐性はいかほどか。
「僕はいいよ」
即答する。
「じゃあ再生ね!」
少女は雰囲気がでるからとわざわざ部屋の明かりを消す。
おかげで座卓にに置かれたポップコーンの位置が把握しづらくなった。
大丈夫だろうか?
開始の五分でなかなかの雰囲気だ。これは期待が持てそうである。
一方で舞台になるのが田舎にぽつんと建っている古民家だった。主人公たちは古民家で泊まることになるという話である。
僕は少女をチラリと見る。
黙ってはいるが、ちょっと失敗したかもという表情だ。それはそうだろう。いま僕らが泊まっているのも田舎にポツンと建っている古民家なのだ。
「観れそう?」
「だ、大丈夫」のあとに消え入りそうな声で「たぶん」とつけ加える。
少女は汗ばんだ手で僕の右手を強めに握る。
それから間もなくだった。
このあと少女から聞いたのだが、ホラーものを観たのはこれがはじめてらしかった。
少女は画面に白い影が現れ、登場人物を襲う場面で何度も絶叫した。
抱きつかれるのもこの際、役得ということにしておこう。
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