寄り道その2
川岸を降りると、少女はサンダルを脱いで手頃な石の上に座っている。
サンダルの横にはスマホの入ったミニバッグも置いてある。水遊びするつもりなのだろう。
少女は足の親指先を川の水に少しつけると「冷たい」と言って、すぐ足をあげる。
そして今度は両足ごと思い切って川に入れる。浅瀬で流れも緩やかなので、流されるということはないだろう。
僕は少しほっとした。
少女はスカートのすそを持ちあげて、ばしゃばしゃと川を歩いている。
「お兄さん、冷たくて気持ちいいよ!」
一緒に入らない? と少女から誘いがくる。
いま濡れるのはあまりよろしくないと思った僕は遠慮することにした。
「わかった!」
少女は気分を害した様子はなく、楽しそうに川を散歩している。
「お兄さん、水着とか持ってきてるの?」
「持ってきてないなぁ」
水遊びをするという想定がなかったためだ。
「そっか」
少女は考えこむように、あさっての方向へと視線を向ける。
そんなときだった。
少女は足を滑らせて、お尻のほうからこけてしまう。それとともに水しぶきがあがった。
「大丈夫?」
僕は自分が濡れるのも忘れて、少女に駆けよる。
「大丈夫、大丈夫」
少女はそう言いながら左手でお尻をさすっている。
僕が右手を差しだすと、少女は「ありがとう」と言いながら、僕の手をつかむ。
僕が少女を右手を引っぱりあげて、なんとか立ちあがらせる。
けど、僕が左足を引こうとしたときに滑ってしまい、僕はお尻からこけてしまう。
少女の手を握ったままだったので、少女もつられてこけてしまった。
「大丈夫?」
「うん……」
消え入りそうな声が返ってくる。
少女は結果的に僕の胸の中に飛びこんで、抱きつくような格好になっていた。
密着度でいえば、自転車の比ではなかった。お互いに対面なものだから、気恥ずかしさも大きい。
「ごめん」と僕は謝る。
少女 はただひと言「いいよ」とだけ答えた。
それから二人で何とか立ちあがると、川からあがる。
僕らは当然ながら水びたしになっていた。
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