自転車
「お兄さん、一緒にでかけよっか」
唐突な提案だった。
それから気がつけば炎天下の中。少女が家の横にある倉庫から自転車を出してくる。
少女は麦わら帽子にサンダルを履いている。
「伯父さんから夕飯の食材はウチまで直接取りにきてほしいって連絡がありました。というワケで自転車でこれから行きます」
お昼の時、冷蔵庫を見たときに材料が不足していることに気がついたそうだ。伯父さんは忙しく手が離せないそうで、彼の家まで直接行く必要があるということだった。
ひょっとしてこれは僕に自転車を運転しろということだろうか。
「当然だよ。お兄さん、晩ごはんいらないの?」
そんなことはない。とても楽しみにしている。
「じゃあ、私が後ろに乗るから。お兄さん、よろしくね」
少女はぱっちり蠱惑的なウインクを僕投げてくる。ついでに少女のまつげが長いことにも気がつく。
「電動アシスト自転車だから大丈夫。ちなみに二人乗り経験は?」
「実は初めてなんだ」
不安がるかと思えば少女は逆にウキウキしたような笑顔を浮かべる。
「何事も挑戦だよ。頼りにしてるからね、お兄さん」
「君にそう言われたら、やるしかないって思うよ」
「じゃあ頑張って。後ろで応援するから」
僕は少女から自転車を預かり、サドルにまたがる。
それから間髪入れずに少女は荷台にお尻を乗せて、僕の背中をぎゅっとつかむ。
「お尻、痛くない?」と僕がたずねると、少女は首を横にふってこう言った。
「へいきだよ」
「それじゃあ行こうか」
僕たちは自転車で田園風景が広がるあぜ道を走りだした。
背中に少女がたしかにいるという熱を感じながら。
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