勇者を救え4
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「何してるんでしょうね?」
「さあ……ただあんまり知らない方がいいことかもな」
「あっ、終わったのかな?」
時間にしておよそ十分ほど経った。
シールドが消えて、ウェイロンたちが出てきた。
「話聞けますよ」
ウェイロンは変わらずにこやかに笑顔を浮かべている。
しかしリーダー風の男は怯えていて、ウェイロンのことをチラチラと確認している。
何かしたのは確実だ。
ただ怖いので何をしたのかは聞かないでおく。
そこはかとなく地面が血で濡れているような気もするけれど、見なかったことにする。
「きっと……何かの話し合いで解決したんだよな」
平和的な話し合いではなかったのだろうが、細かく聞いたっていいことはない。
圭は怯えるリーダー風の男に近づく。
「それで、状況を教えて欲しいんだけど」
「は、はい、分かりました……」
圭が声をかけると、リーダー風の男はウェイロンのことを見る。
ウェイロンが笑顔を浮かべたまま剣に手をかけるとビクリと震えて、先ほどまでの態度が嘘のように口を割る。
「勇者を拘束してるのか?」
「……はい」
「なんで?」
勇者と言っているのだ。
言葉の意味に大きな違いがないなら、世界を救うような人のことを勇者と呼ぶはずである。
どうして勇者を捕まえることなんかするのか。
「……我々は暗黒竜様に従うことにしたのだ」
「暗黒竜って……」
「勇者なんかでは到底敵わない相手だ! この荒れ果てた世界は暗黒竜様のような存在がいなければならない!」
「なかなか強めの思想だな……」
世界には世界の事情がある。
この世界は元よりかなりファンタジーな世界で、何十年に一度勇者と魔王が現れて戦うようなことが繰り返されている。
世界がゲームに巻き込まれた時も、ちょうど勇者と魔王が存在しているタイミングだった。
その魔王たる存在が暗黒竜なのだ。
支配的な魔王ではなく破壊的な魔王らしいが、もうすでに世界のいくつかの国はゲームによって滅びている。
そのためにゲームに対抗する力として勇者ではなく暗黒竜が必要なのだと考える一派が出始めた。
勇者が城には滞在していて、いわゆるクーデターのようなものを起こして暗黒竜派が王様や勇者を拘束してしまったのが今の状況だった。
「なんで俺たちが勇者を助けにきたと分かった?」
見知らぬ格好をした集団なので、警戒するのは理解できる。
ただ勇者を助けにきたと決めつけて、襲いかかってきたことには納得がいかない。
現時点では勇者も暗黒竜も圭たちは知らない。
いきなり襲い掛かられるようなことはないはずだ。
「なんで……なんで、だ?」
「何?」
「そう……なんだか……お前たちが俺たちの敵だと……そう、聞こえた気がするんだ。敵が来る。勇者を助ける変な集団が来るから戦えと……あれ?」
リーダー風の男も困惑したような顔をしている。
圭も眉をひそめる。
急に答えの歯切れが悪くなった。
誤魔化そうとしている感じではなく、本当に分かっていないという雰囲気がある。
「う、嘘じゃない! なんでも言われても分かんないだ! ともかく、お前たちが勇者を助けにきた敵だと……」
ウェイロンが軽く剣に手をかけると、リーダー風の男は慌てる。
態度を見れば嘘ではなさそう。
そもそも襲いかかってきた理由だけを誤魔化す必要なんかない。
「……ゲームの装置として利用されてるんだろうねぇ」
多分本当なんだろうと圭たちは思った。
ゲームの一部として、男たちが襲いかかってくるように何かされたのだろう。
どの道戦闘にはなっていたのだろうけど、確実に戦わせようとしたのだ。
圭たちからすれば、相手は人間だけどモンスターみたいに攻撃してくる感じになるということなのだろう。
「とりあえず勇者っていうの助けなきゃいけないみたいだな」
勇者を捕らえて、町がこの先どうなったのだろうという疑問はある。
塔の中で見た光景がこの先たどっていく未来なのだとしたら、町は破壊され尽くされてしまう。
何があったのか、それはまだ分からない。
しかし勇者というのが町にいることは分かった。
「勇者はどこにいる?」
「それは……地下牢だ! 地下の牢屋にいる!」
一瞬言い淀んだリーダー風の男をウェイロンが睨みつける。
もう誤魔化しようもないのだから、素直に言えばいいのにと圭は苦笑いしてしまう。
「他の奴らも俺たちのことを知ってるのか?」
「多分……気づいたら俺たちはもうあんたらに攻撃を仕掛けていたから……」
「一筋縄じゃ行かなそうだな」
町全体が敵だとは思わないが、誰が暗黒竜派の敵なのか分からない。
城は町のど真ん中にあるし、簡単にそこまで行けるのか難しそうだと圭は思った。
「ひとまず方針は決まったな」
「城まで行って、勇者ってのを助け出すってことだな」
「そう。ウェイロンさんにそのことを説明しようか」
勇者を救い出すことが目的なのを知っているのは圭たちのみである。
他の人は知る由もない。
男たちの発言に違和感を覚えたとしても、殺さずに制圧して勇者を救い出すことを聞き出すなんて多くの人には思い付かない。
きっと唐門ギルドは、やるべきことも分からぬままに攻略を始めて襲いかかってくる相手を全て倒したのだろう。
結果的にその行動は間違いで、何かが起きて全滅した。
少なくとも圭たちは同じ道を辿ることはない。
ただどう行動していくかはかなり不安である。
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ちょっとダークめな異世界ファンタジー二作品投稿です!
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