勇者を救え3
「さて……何が出るかな?」
ウェイロンたちもゲート中に入ってきて、圭たちは城のある町に向かった。
草原を突っ切って直線的に移動する。
視界は開けているのでモンスターが近づいてくれば分かる。
今の所周囲にモンスターの姿はない。
またしても何もいないのではないか。
そんな不安も圭たちにはチラついてしまう。
「何か来るな」
そのまま町に進んでいくと、町の方から何かが走ってくる。
「人だな」
「人……ぽいね」
それは人に見えた。
鎧で武装した人が槍を手に走ってきているのだ。
何かの兵士のようにも見える。
一気に緊張感が高まる。
相手が敵なのか、味方なのか分からない。
シークレットクエストでは勇者を助けようとなっていた。
そのことから分かるのは、勇者なる存在がどこかにいるのだろうということである。
しかし勇者がどんな存在なのかは分からない。
男か女か。
年齢も見た目も圭たちは知らない。
一人であるとも限らない。
そして、味方であるとも言い切れないのだ。
圭たちの方に向かってくる兵士たちが勇者である可能性も否めない。
「どうなるかな……」
人であるからと油断はできない。
戦う可能性も十分にあり得る。
「暗黒竜様のために勇者を解放しにきた世界の敵を滅ぼすのだ!」
「うーん……味方じゃなさそう」
兵士たちは槍の先を圭たちに向けて突撃してくる。
明らかに敵意を持っている。
「暗黒竜ってあれだよね?」
「ああ、多分アレだな」
暗黒竜と聞いて、圭たちはパッと十八階で戦ったドラゴンのことを思い出す。
黒くて巨大な竜は、暗黒竜と呼ばれるのにもふさわしい見た目をしていた。
「戦いましょう! ただしできるだけ殺さないように!」
圭がウェイロンに指示を出す。
かなり難しい判断だ。
武器を向けてくる以上、敵である。
しかし相手も圭たちと同じ人間であり、簡単に殺してしまうことはためらわれる。
それに十一階の例もある。
攻略に失敗して町の反感を得てしまうと、町の住人たちが一気に敵になるということが起こった。
つまり、今後の展開次第で相手が味方になるということも、あり得ないわけじゃない。
今が敵だからと殺してしまうのは早計な判断なのだ。
「了解した」
「難しそうなら命を奪っても構いません」
ただし殺さないという制約もこちらに余裕があればこそである。
相手の実力が高くて、難しいようなら殺してしまうしかない。
「はっ!」
カレンが盾で槍の突撃を受ける。
正面から受け止める必要もないのだけど、受け止めてみれば相手の力をなんとなく測ることもできる。
「そんなに強くなさそうだぞ!」
カレンはそのままメイスで反撃する。
手加減しての一撃だったが、相手の兵士は防ぐこともできずに脇腹を殴られた。
鎧が歪み、軽くぶっ飛んでいく様をみれば実力は高くなさそうだった。
下手すると今の一発で死んでしまったかもしれないと思うぐらいの弱さである。
「ほっ!」
圭は槍をかわして、ヘルムを被った兵士の頭を掴むと地面に叩きつける。
なんだか少し勘違いしてしまいそう。
ここまで強くなるにつれて、出てくる敵も強くなってきたのであまり強くなったという実感が薄かった。
けれども兵士たちは明らかに圭たちよりも弱い。
簡単に倒せてしまうので、なんだかすごく強くなってしまかのように感じてしまう。
「くっ……こんなに強いなんて……」
「逃さないよ!」
兵士たちはあっという間に系たちに倒されていく。
その光景を見ていた兵士たちのリーダー風の男が、逃げ出してしまった。
けれども足はそんなに速くない。
波瑠が追いかけてナイフの柄を使って殴り倒す。
「これでA級だったとしたら拍子抜けだな」
兵士たちは圭たちに傷一つつけることできずに倒されてしまった。
敵のレベルとしては非常に低い。
多重ゲートとして、A級レベルの敵を警戒していたのだけどこれではB級にも及ばない。
「クソっ……この異端者どもめ!」
「今町はどんな状況だ?」
ひとまず相手の言葉は理解できる。
塔の中と同じく、圭たちにもウェイロンたちにも同じく言葉は理解できているような状態だった。
言葉が通じないならともかく、言葉が通じるなら情報は欲しい。
リーダー風の兵士から話を聞き出そうとする。
「はっ! 俺がそう簡単に口を割ると思うのかよ!」
どうやら相手は圭たちのことをかなり敵対視しているようだ。
すごく態度が悪い。
今のところ分かっているのは、暗黒竜なるもののために圭たちを襲ったこと。
他にも勇者が拘束されているかもしれない可能性があると最初に聞こえた言葉から推測していた。
「ムラサメさん」
「なんですか?」
「口を割らせるの任せてくれませんか?」
男の頑なな態度を見て、ウェイロンは柔らかな笑顔を浮かべている。
「……じゃあお願いします」
どうしようかと迷っていたところだ。
任せてくれというのならウェイロンに任せてみることにした。
「ええ、口を割らせてみますよ。少し待っていてください」
その後、青龍ギルドの魔法使いが目隠しでシールドを張り、中で何が行われているのか圭たちには分からなかった。
ただなんとなく、普通のことじゃないんだろうなとは思った。




