勇者を救え2
「やはりこのゲートで間違いないようだな」
疑いが確証に変わる。
このゲートが試練で指定されたものなのか不安があった。
しかしここまで塔の十八階に近い環境が舞台となると、ここが塔の試練に関わっているだろうことはうっすらと察しがつく。
同時に一筋縄ではいかなそうな気配も感じてしまう。
「メンバーをもう少し絞って精鋭でいきましょう」
強い相手の前では、数がいようと無駄なこともある。
それなら最初から動けるような人だけを連れて行った方がいい。
「そうですね。こちらもより高難度を想定した編成にしたいと思います」
少なくとも、活動が困難な環境ではないことは確実である。
青龍ギルドは足手まといにならないレベルの強い人を中心に同行する人を再編していた。
「どうして!」
「なんだ?」
圭たちは入るメンバーに変わりがない。
ただ青龍ギルドの方で一悶着あった。
ウェイロンとリーインの言い争いが起きていた。
「どうして私を外すの!」
「多重ゲートは危険すぎる。ギルドマスターと副マスターが同時に入って何かがあったらどうする?」
「なら私の方が行けばいいじゃない!」
どうやらリーインはメンバーから外されたようで、それを不満に思っているらしい。
話を聞いた感じではどちらの言い分も理解できる。
リーインとしては自分の実力のあるメンバーであり、危険ならば連れていくべきだと主張している。
対してウェイロンは危険だからリーインを連れていかないつもりだった。
確かに二人ともA級覚醒者であり、実力者だ。
ただウェイロンは青龍ギルドのギルドマスターで、リーインは副マスターだ。
仮に二人ともゲートに入って戻ってこないということになれば、青龍ギルドそのものが存続の危機に陥ってしまう。
リスクを考えてリーインを外すことにしたのだ。
大きなギルドとして後のことも考えておく必要がある。
たとえウェイロンに大事があって、戻らないことがあってもA級覚醒者たるリーインが残っていれば何とかやり直していくことはできる。
「何かあったらギルドを頼むぞ」
ウェイロンはリーインの肩に手を乗せる。
ギルドマスターとしての判断であり、あるいは兄としての判断でもあるのかもしれない。
「…………ちゃんと帰ってきてね」
リーインは悔しそうな顔をしながらも小さく頷いた。
結局青龍ギルドは最初に入った時と比べて、三分の一ほどに攻略隊を圧縮した。
「しっかし……塔の世界もやっぱりゲートと変わらないんだな」
十八階の世界がこうしてゲートとして外に出現している。
塔とゲートは似たようなものでありながらも、違うものだろうという認識があった。
だがゲームに参加する神の世界だったり、ゲームに敗北した世界のカケラである元々は変わらず、どう出現するかの違いであるようだ。
「こうして見ると全然変わりないもんな」
ゲートの外から入って、レッドスキンオーガが出た森の中を進む。
一応警戒はしているが、流石に一日そこらでモンスターも復活はしない。
村に着いて、中央にある広場には相変わらずゲートが青く輝いている。
「それじゃあ俺たちが」
今回は圭たちがリスクを負って、先にゲートの中に入る。
「うん……見たことある景色だな」
独特の感覚を残し、ゲートを通り抜けた。
その先は広い平原となっていて、少し遠くを見ると中心に城をたたえた街が見える。
「あっちの道から見れば、確実に見たことある景色なんだろな」
出てきたのは草原のど真ん中だけど、離れたところには道が見える。
圭たちは十八階で道沿いに進んで王城のある町を見つけたので、道の方に行けば何回か見たことがある景色になる。
『あなたは勇者です! 邪悪なブラックドラゴンを倒してください!
◽︎◽︎◽︎ヲ◽︎タ◽︎◽︎エエエ ク◽︎◽︎
アウェ◽︎◽︎◽︎◽︎ あああ
ーーー
伝説の聖剣を手に入れろ!
しぃくれっト
塔のソト、チュウゴ、、クはしせんし。ょう。ゲート攻略セヨ
勇者を助けよう』
「うわっ!?」
「どうした?」
「目の前に表示が……」
圭の目の前に表示が現れた。
長々とした大きな表示に圭は驚いてしまう。
何だか色々増えている。
伝説の聖剣を手に入れろの前の文章がかなりの量になっていていた。
これまでの経験上、文章に少し間を空けて短い単語っぽいものがあるのはクリアなのかな、と圭は考えた。
ただ新しく増えたものもほとんど文字化けしていて読めない。
しかし一つしっかり読めるものがある。
シークレットクエストの欄、表示の一番下に追加されたものは文字化けしていない。
「勇者を助けよう、だってさ」
文字化けして読めないものはどうせ分からないのでスルーして、読めるシークレットクエストだけをみんなに伝える。
「勇者?」
「そういえば町に人がいるって言ってたね」
勇者と聞いて、みんな顔をしかめる。
またしてもちょっとヒントが少ない。
ただドローンの映像には人っぽいものが映っていたことを圭たちは思い出す。
「結局城に行ってみなきゃ分からないですね」
「城はまだ無事だな」
カレンは目を細めて町の方を見ている。
塔の中では急に町が崩壊して、そのままの状態となっていたが、今の町は破壊された様子はなかった。




