多重ゲート3
「分かりました」
お金なんて、世界があってこそのものだ。
優先すべきは何よりゲートの攻略である。
何もしていないという批判をされないように、次の戦いからは圭たちも参加しつつ進んでいく。
出てくるモンスターはひとまずレッドスキンオーガだけであるが、数が増えるとなかなか厄介だ。
なんの躊躇いもなくハイパワーで腕を振り回してくるから、森の木も薙ぎ倒されて環境があっという間に荒れる。
ややダメージにも鈍いところがあって、ちょっとぐらいの攻撃なら普通に反撃してきたりもした。
「それでも……ちゃんと戦えば攻略できないことはないよな」
面倒というだけで、モンスターそのものは倒せる。
モンスターの叫び声で近くにいるものが集まってきて、戦いが連鎖してしまうということもあるのだけど、今回はそんなこともない。
一回の戦いごとにちゃんと状況を整えるような余裕がある。
やはり唐門ギルドが失敗する要因がない。
そもそも唐門ギルドの実力が低かったのか、とすら思い始めていた。
「村のようなものが見えてきました!」
「村?」
「ねね、圭君、あれって……」
「ああ、なんだか似てるような気がするな」
森を抜けると、目の前に村があった。
その村を見て、圭たちは既視感を感じていた。
「十八階の村も……あんな感じじゃなかった?」
「私もそう思う」
目の前の村は十八階で最初に見つけた無人の村に似ていたのだ。
相変わらず人の姿は見えないが、家の形や配置が恐ろしいほどに似ていて圭たちは顔を見合わせる。
「モンスターがいるぞ!」
「どうやらあそこにいるのがボスのようです」
明らかに怪しい村なので、森から出ないようにして様子を確かめる。
すると村の中にモンスターの姿が確認できた。
レッドスキンオーガが何体か村の中心にいる。
しかも一体は一回りほど体が大きく、手に入るでかい剣のような武器を持っていた。
おそらく体の大きな個体はゲートのボスだろうと思われた。
「……ということで今回ボスは協力者のムラサメに任せて、我々は周りのオーガを倒す」
幸い圭たちはまだレッドスキンオーガに見つかっていない。
一度村を離れて作戦会議を行なった。
ゲートを攻略しろというのがどこまで求められているのかも謎だ。
まさか圭たちだけじゃなきゃダメだとは言わないだろうが、ほとんど他人任せにしていてもいいのかも謎である。
せめてボスの討伐ぐらいは自分たちで、と思った。
最後のいいところだけ持っていくのかという意見もあったが、ボスと戦うリスクだけ背負ってボスの死体や魔石は譲ることにしていたので大きな反対もなかった。
「さて……さっさとあいつ倒して……十八階の攻略だな」
圭たちは村の反対側に回り込んだ。
作戦としては青龍ギルドが騒ぎを起こして普通のレッドスキンオーガを引きつけ、圭たちがボスレッドスキンオーガを相手にすることになっていた。
村の真ん中にある広場のようなところに集まっているレッドスキンオーガの姿が、家の間から見えている。
「始まったな」
圭たちがいるところの反対側から派手な爆発音が響いてくる。
レッドスキンオーガが爆発音の方に向かっていく。
「よし、行こう」
圭たちは村に進入する。
やはり、見れば見るほどに十八階の村に似ている。
中世風の村の風景と言われてしまえば、そんなものなのかもしれない。
ただ十八階攻略中に現れたシークレットクエストの内容でここを訪れていて、その上で村が似ているというのだから偶然だとも思いにくい。
そう言われてみれば、森もなんだか似ているような気がしてきた。
「もっと探してみれば王城のある町もあるかもしれませんね」
「可能性はゼロじゃないな」
可能性としてはあり得る。
もしかしたらボスレッドスキンオーガはゲートのボスじゃなく、ドラゴンが控えているのかもしれない。
そんなことも頭の隅では考えていた。
「二人とも、戦いに集中だよ!」
村の広い道に出て、唯一残っているボスレッドスキンオーガの姿が見えてきた。
「まあ、あいつのこと倒せば分かるか」
これで終わりかどうかはボスレッドスキンオーガを倒してみれば分かるだろう。
どの道倒してみなきゃ分からないなら、倒してから考えればいい。
「フィーネ、一番槍ぃぃぃぃ!」
レッドスキンオーガが圭たちに気づいた。
太めの道ではあるが、レッドスキンオーガと戦うには狭い。
広場で戦いたいと考えていた。
フィーネが圭の服の中から飛び出した。
そのままメイド服姿の可憐な少女になると、地面が陥没するほどの脚力で加速していく。
フィーネの手に大きな鎌が現れて、ボスレッドスキンオーガが振る剣と大鎌がぶつかって甲高い音が響き渡る。
フィーネもボスレッドスキンオーガも互いに弾かれる。
ボスレッドスキンオーガは少しバランスを崩して背中を家にぶつけ、家は容易く崩れてしまう。
一方でフィーネは上手くバランスを取って、家の壁に着地して勢いを殺す。
「いいぞフィーネ!」
「ピッピピー!」
圭に褒められてフィーネは嬉しそうに笑う。
フィーネの一撃のおかげで、圭たちも広場に突入することができた。




