多重ゲート2
「魔力の測定値からするとB級程度……高等級ではありますが、失敗するほどのものではなさそうですがね……」
B級ゲートは世の中一般でいったら難しい。
ただ上にはA級ゲートもあるわけで、唐門ギルドならばB級ゲートも攻略できる力を持っているはずだった。
攻略に失敗したのならA級かもしれないと予想していたのだけど、B級だったのは少し予想外である。
圭たちにとってはA級よりも攻略しやすいので、望むところではあるものの、何かあるのかもしれないと警戒はより高まる。
「私はゲートに入れません。実力が足りないので。こちら翻訳機ですので使ってください」
一応フィーネという翻訳マスターもいるけれど、戦っている時なんかは難しい。
圭はイヤホンタイプの翻訳機を受け取って耳につける。
「聞こえますか?」
「ええ、大丈夫です」
ウェイロンの発言がやや硬い女性の声で翻訳される。
素早い意思疎通は難しいかもしれないが、話す分には良さそうだ。
「それでは行きましょう」
言葉としても翻訳なのでやや固い。
圭たちは青龍ギルドと共にゲートの中に入っていった。
「……まあ、普通の森だな」
事前に聞いていた通りの森。
うっそうとしていて見上げても空が見にくいぐらいで、取り立てて特徴もない。
今のところ不穏な気配というものもなかった。
ただちょっとだけ空気は悪い。
ウェイロンやリーインといった青龍ギルドのトップは圭たちに好意的である。
だからといってギルド員みんなが友好的で、良い人かというとそれもまた違う。
違う国の、しかも名前も聞いたことがないようなギルドの圭たちがいることに不満を抱いている人もいた。
まさか後ろから刺されることはないだろうが、連携も取りにくい相手である。
気づいたら孤立していたという可能性もないわけじゃない。
あまり出しゃばらないようにしようと圭たちは顔を見合わせた。
「ただ何もしなくても文句言われそうだけどな……」
「まあ、ほどほどにってところだねぇ」
赤青二振りの剣を腰に差したウェイロンを先頭に森の中を進んでいく。
「モンスターを発見しました。戦闘準備をしてください」
中国語が飛び交い、翻訳機が反応する。
便利なものだと感心してしまう。
「モンスターがいたようだ。みんな準備を」
翻訳機が翻訳したものを圭がみんなに伝える。
「あれは……」
「レッドスキンオーガだ」
誰の発言かは分からないが、翻訳機から現れたモンスターの種類が聞こえてきた。
オーガというモンスターがいる。
オークやゴブリンと同じく緑っぽい肌をしているもので、グリーンスキルなどと呼ばれてひとくくりにされることもある。
ただオーガはオークやゴブリンよりもはるかに強いモンスターで、DやCに相当するぐらいの強さがある。
今回現れたのは肌が赤っぽい。
ざっくり言ってしまえば赤鬼のようなものである。
オークやゴブリンにも言えることだが、こうした色の違うタイプのモンスターは通常の肌のモンスターよりも強いことが多い。
レッドスキンオーガも例に漏れず、通常のオーガよりも強い個体であるのだ。
下の犬歯が発達していて突き出していて、額には一本の立派なツノが生えている。
「来るぞ!」
背も高く、人の倍はありそうなレッドスキンオーガが圭たちに気づいて雄叫びを上げる。
「はやっ!?」
レッドスキンオーガが一気に走り、青龍ギルドのタンクに迫る。
単純にデカくて一歩もデカいということもあるのだろうが、素速さも想像以上に高くてあっという間に迫ってきた。
「ぐふっ!?」
ギュッと握った拳を盾に振り下ろす。
タンクは盾で拳を防いだが、隕石でも落ちてきたような衝撃を受けて膝をつく。
ボコっとへこんだ地面がレッドスキンオーガの力の強さを表しているようだ。
「ハァッ!」
二本の剣を抜いてウェイロンがレッドスキンオーガの腕を斬りつける。
さすがはA級覚醒者に、特殊な剣の組み合わせは強い。
そこらへんに生えている木のように太い腕がスパッと両断されてしまう。
「大丈夫か!」
レッドスキンオーガの一撃を防いだタンクは鼻から血を流していた。
衝撃を受け止めた時に踏ん張りすぎてそうなったようだ。
「一体ぐらいなら俺たちが出る幕もなさそうだな」
リーインが柄に装飾のついた細い片刃の剣を振るってレッドスキンオーガの首を後ろから刎ね飛ばす。
タンクの治療が終わる前に片付けられてしまった。
「そういえばモンスターを配分を決めていませんでしたね」
戦いが終わってウェイロンが圭に声をかけてきた。
いきなり呼び出されたので、細かい話は詰め切られていない。
共同でゲートを攻略するならモンスターや攻略後の報酬の配分まで先に決めておくことも珍しくない。
「モンスターの死体や魔石などは全てそちらで持っていってください。特殊なアイテムが出た時だけ、後で交渉させてください」
基本的にあまりお金に興味はない。
高等級のモンスターを引き取ってもらった換金額は大きいので、多少惜しいような気持ちもあるが、それは協力してもらったお礼ということにする。




