光明1
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「どうしたらいいんだ……」
打つ手無し。
圭はため息をついた。
二回ほど塔に入って十八階の世界をぐるぐると探索したものの、聖剣どころか人やモンスターにすら遭遇することはなかった。
隅から隅まで捜索し尽くしたとは言えないが、だからといって大きなランドマークもない広い世界をくまなく捜索するのは不可能だ。
何のヒントもない。
ただ時間のみが過ぎていく。
連日ニュースではゲートの出現が増えていることが報道され、危機感を訴える人も多くいる。
リッチの進行は止まったものの、多くの土地をアンデッドに奪われたままの現状は変わらない。
攻略に手が回らないゲートも増え、緊急事態を宣言する国まで出てきた。
日本はまだどうにかなっている方だが、世界的なパニックも予見されていて油断ができない状況は続いている。
「ただ探し回るだけじゃダメなのか?」
圭たちも早く塔を攻略したいのにという焦りばかりが募っていく。
だがまたドラゴンに挑むのは自殺行為に他ならない。
どうにもならない閉塞感。
「グッ!?」
長いこと十八階をグルグルと移動していたので今日はみんなに休んでもらっていた。
圭も久々のベッドで休んだのだけど、気持ちがモヤモヤとしていて心が休まらない。
圭がぼんやりとしていたら突然痛みが走って頭を抱える。
だが痛かったのは頭ではなく、目のようであった。
「うぅ……何なんだ……」
『あなたは勇者です! 邪悪なブラックドラゴンを倒してください!
◽︎◽︎◽︎ヲ◽︎タ◽︎◽︎エエエ
アウェ◽︎◽︎◽︎◽︎
伝説の聖剣を手に入れろ!
しぃくれっト
塔のソト、チュウゴ、、クはしせんし。ょう。ゲート攻略セヨ』
対処しようもない激しい痛みに耐えて、目を開けると目の前に表示が現れていた。
「何だこれ……」
塔十八階の試練の表示だとすぐに分かった。
何か進展はないかと何回も確認したから。
だが色々とおかしいところがある。
そもそも塔の試練は塔の中でしか確認できない。
塔の外で見れたことなど一度もない。
そして一番下に歪んだ文字で何かが追加されている。
「シークレット……なのか?」
まるでホラーのようだが、解読してみるとシークレットクエストのようであると圭は思った。
「塔の外、中国は四川省? 何のことだ?」
ひらがな、カタカナ、漢字混じりで変なところに句読点も入っている。
多少悩んだけれど、読めばするのでこういうことではないかと圭は内容を推測した。
「みんなに連絡だな」
きっと何かのヒントだ。
ようやく見えた光明。
圭は忘れないように見える表示をそのままメモして、みんなに連絡を取ったのだった。
ーーーーー
「どうも、お久しぶりです」
「お久しぶりです。お元気そうですね」
圭が見た表示は圭にしか現れていなかった。
みんなで内容を考えてみた結果、圭の推測が正しいのではないかとひとまず結論は落ち着いた。
そこで中国のゲートについて調べた。
しかし、中国はあまり多くの情報を国外に公開しておらず、調べようにもなかなか難航していた。
そこで圭は一つ協力をお願いすることにしたのである。
その相手とは青龍ギルドだ。
カイや青紅剣を介して何回か接点がある。
相手がどう思ったのかは知らないが、カイを倒して止めたという恩もある。
聞きたいことがあると連絡を取ると、オンラインで直接話し合いの場を設けてくれることになったのだ。
画面に映し出されたのは青龍ギルドのギルドマスターであるウェイロンと副マスターでウェイロンの妹のリーイン、そして通訳のヤンだった。
圭の後ろにはみんなもいる。
「カイのことはありがとうございました」
ウェイロンとリーインが頭を下げて、ヤンが言葉を通訳して伝えてくれる。
「ムラサメ様のためならば、協力は惜しみません」
「では……中国にあるゲートについて教えて欲しいんです」
「ゲートですか?」
「はい。特に四川省にあるゲートを」
「四川省……ですか」
急に何でそんなことを聞くのか不思議そうではあるが、なぜとは聞かない。
「少々お待ちください」
通信そのものにラグはないが、ヤンを挟むので多少会話にラグが生じてしまう。
ヤンが二人に圭が話した内容を伝える。
するとウェイロンの方がすぐに動いてくれた。
「ゲートの何が知りたいのですか?」
「……うーん、現在攻略されていない、難易度の高いものはありますか?」
攻略せよ、ということは攻略できる状態であるはずだ。
ならば四川省のどこかにまだ攻略されていないような難しいゲートがあるのかもしれない。
あるいは、まだ未発見という可能性もある。
「少し時間がかかってますね」
青龍ギルドは中国でもかなり大きなギルドである。
ゲートの情報ぐらいすぐに出せると思っていたのだけど、そうでもないようだ。
「……実は四川省は我々の管轄ではないのです。四川省を管轄しているのは唐門ギルドというところで、正直青龍ギルドとは関係が良くありません」
圭の疑問にヤンが苦笑いを浮かべながら答えてくれる。
日本にもある程度ギルドの縄張りのようなものはあるけれど、中国はよりギルドの力が強く、地域を支配しているような強いギルドも存在している。
四川省は唐門ギルドというところが現在強い勢力を誇っていたのだった。




