リッチを浄化せよ1
「ほむ……リッチの周りにいるリッチは彼のお仲間で……ほむ……」
「食べるか話すかのどっちかにしなよ」
「申し訳ありません……」
信用するにはまだちょっと怪しいエルサントたちが仲間となった。
いきなり現れて手助けするといっても、味方に見せかけて近づいてきた可能性も排除はできない。
エルサントたちとしては手伝う気満々のようだ。
しかし怪しいからいらないと断って目の届かないところにいられるのも不安であるし、遮蔽物もないこの世界でついてくることも別に難しくない。
どうするべきかと悩んでいたらエルサントのお腹が盛大に音を立てた。
真っ白な肌が真っ赤になったエルサントはただ無言を貫いて誤魔化そうとしていたのだけど、明らかにお腹が空いての音だった。
エルサントたちがこれまでどうしていたとかの経緯や仕組みはともかく、お腹が空いているようだ。
そして食糧は持っていないらしくて、エルサント周りの騎士たちが仕方ないと口で音を鳴らして誤魔化そうとしていた。
ただ何回も鳴るものだから、エルサントは泣き出しそうになってしまった。
味方であるにしても、ないにしても女の子がお腹を空かせている光景を放置するわけにはいかない。
元より数日塔の中で活動するつもりだった圭たちは、念のためにと体力の食料も持ち込んでいる。
亜空間の収納袋があると、こうした時にも便利なのだ。
エルサントとエルサントを守る騎士のみんなにも食事を配った。
小さな口で食べ物を必死に食べるエルサントは小動物みたいに見える。
「こちらは勇者様の世界の食べ物なのですね。とても美味しいです! こちらの世界は、大地がリッチの魔力に汚染され、農作物も取れないようになってしまったので……」
食べる姿だけ見ていると、エルサントは悪い子に見えない。
「リッチは……私の幼馴染の男の子だったんです」
口に入っていたものを飲み込み、エルサントは話を続ける。
リッチは自然発生のモンスターでもなければ、他の世界から送り込まれたモンスターでもない。
リッチはこの世界を救おうと自らリッチになった人なのである。
それはエルサントの幼馴染の魔法使いであった。
聖女たるエルサントを守る聖騎士の一人で、優れた魔法使いだった。
教会に伝わる禁断の術を使い、リッチになったのだ。
リッチガードやリッチマジシャンたちも同じく聖騎士たちである。
まだ理性がある頃のリッチによってリッチもどきにされて、リッチと共に戦ったのだった。
「すでにアルダーとケルセティアンは倒されたのですね」
アルダーとケルセティアンとは、リッチガードとリッチマジシャンとなった聖騎士のことである。
倒した圭たちのことは恨んでおらず、むしろリッチになった二人を解放してくれてありがたいという雰囲気すらあった。
「どうか……彼を止める手伝いをさせてください……」
エルサントの目を覆う布にシミが広がる。
そして一筋の涙が流れた。
どうにも圭たちは情に弱い。
ここまで言われては断ることもできない。
「私たちにリッチと戦う力はありません。ですのでリッチが呼び出すスケルトンはお任せください」
エルサントたちは自ら望んで前に立った。
地面から出てくるスケルトンたちと積極的に戦って圭たちの負担を減らしてくれたのである。
「……向こうです」
そしてエルサントはリッチのいる方向が大体わかるらしい。
「あっ、いたよ!」
空を飛んでいた波瑠が前の方を睨みつけるように警戒していた。
明らかに雰囲気のおかしな場所が一カ所、見えている。
移動を続けても地面にはびっちりと花や植物が生えていたのに、そこだけぽっかりとこれまでの黒い地面が見えているところがあるのだ。
黒い地面のど真ん中に二体のリッチがいる。
リッチとリッチナイトだ。
ボロボロになった黒いローブを身につけているのがリッチで、リッチにふさわしくないような白い鎧を身につけているのがリッチナイトである。
「私たちが露払いいたします!」
リッチが手を上げると、地面からスケルトンが出てくる。
ただのスケルトンではなくスケルトンウォリアーなど一つ上のスケルトンで、ただのスケルトンはいない。
エルサントの仲間の騎士たちが悲痛な顔をしてスケルトンに向かっていく。
スケルトンもただのモンスターではない。
実は元々エルサントたちの世界の住人なのである。
スケルトンウォリアーには知らないような人もいるが、全くの無辜の民もいるし、仲間の騎士だった者もいる。
かつての仲間や守ろうとしていた人たちと戦わされる気持ちは、圭たちに推しはかることはできない。
「勇者様……お行きください!」
騎士たちだけでスケルトンを倒すことも大変だろう。
物量で押し切ってくるようなスケルトンは次々と増えていっている。
早めにリッチを倒さねば、戦いは厳しくなっていく。
「いくぞ!」
圭たちもリッチに向かっていく。
「ピピー!」
「やれー!」
騎士たちが頑張って道を作ろうとしているが、増えるスケルトンの前ではそれすらも難しい。
フィーネが騎士たちの間から飛び込んで大鎌を振り回す。
「なんと……」
大鎌一振りで多くのスケルトンがバラバラに吹き飛んで、騎士たちが驚く。




