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【第十四章開始】人の才能が見えるようになりました。~幸運な俺はいい才能を持つみんなと一緒に世界を救う~  作者: 犬型大
第十四章

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神々の争い2

「私は聖女のエルサントと申します。……もはや名ばかりで、何の力もない聖女ではありますが」


「そのようなことないでしょう……」


 エルサントという目を布で巻いた少女は独特の雰囲気がある。

 周りにいる武装した人たちは、しょんぼりとしたエルサントを慰める。


「これは……あんたがやったのか」


 圭はチラリと地面を見る。

 花は最初からそこに生えていたかのようにわずかに揺れている。


 枯れてしまう様子もなく、まさしく世界が一変してしまった。


「私がやりました……ですが、私がやったわけではありません」


「……どういうことだ?」


 謎かけみたいな返事である。

 圭は思わず顔をしかめてしまう。


「私は名ばかりの聖女……もはや残された力は多くありません。残された世界はほんのわずかとはいえ、浄化する力もありませんでした」


「ならどうやって……」


「神のお力をお借りしたのです」


「神の……?」


「私たちは隠れていました。リッチが世界を救う時を待って」


「んん? リッチが世界を救う?」


 またよく分からないことを言うとカレンは不思議そうな顔をする。


「彼らは……この世界を救うためにリッチになったのです。他の世界の侵略に対抗するために……その身を魔物に変えて戦い始めたのです」


 圭はふとリッチガードとリッチマジシャンの鑑定での表示のことを思い出した。

 そう言われてみれば、エルサントの言葉と繋がるような記述もあった気がする。


「そして最後にはリッチになった彼のことを私たちが止めるはずでした。けれども、彼はもはや人としての理性を失いました。世界は他の世界からの脅威からは救われました。しかし私たちに彼を止めることはできなかったのです」


「世界の滅びの物語……だねぇ」


 どうやってこの十七階の世界が滅んだのか、という話を今圭たちは聞いているのだ。

 ざっくりまとめるとこの世界も神々のゲームに巻き込まれて、他の世界の侵略に対抗するためにリッチになった人がいた。


 リッチのおかげで他の世界の侵攻を防ぐことができたものの、最後にはリッチ本人が完全に魔物となってしまって止められずに世界は滅んだ。

 そんな終わりを迎えた世界もあるのかと、心臓をギュッと掴まれたような気分になってしまう。


 世界を浄化せよとは、本来ならリッチに敗北した世界が上手くリッチに勝った世界線を再現するということなのだと理解した。


「人が死に……私は力を失い、私たちよく分からないままにここに閉じ込められていました。ですがある時に声が聞こえてきたのです」


 エルサントは言葉を続ける。


「先にルールを犯した者がいる。だから力を貸そう、と」


「それってまさか」


「ヤタクロウかもな」


 流石にこの状況は異常すぎる。

 どうなっているんだと思っていたが、神の方でも対応してくれようとしていたみたいだ。


 リッチの姿が見えないのは何かの神の介入なのだろう。

 それは塔におけるルール違反であり、対抗措置としてエルサントを利用した。


「勇者様にお力を貸し、リッチを倒すお手伝いをさせていただきます」


 エルサントは圭に向かって膝をつく。


「さっきから気になってるんだけど……勇者様って、俺?」


「はい。そのように窺っております」


「……なんで」


 思わず頭を抱えそうになる。

 流石に自分を勇者だなんて思ったことはない。


「もうこれ以上リッチが隠れることはありません。どうか……彼を止めてあげてください」


 エルサントは圭のことを見上げる。

 布で目が覆われているためにどのような感情をしているのか分かりにくい。


 しかし全員に膝をつかれて、熱い目で見られては断ることはできない。

 そもそもリッチは倒すつもりだった。


「……勇者じゃなくて、俺はムラサメケイっていうからムラサメとでも呼んでよ……」


 リッチは倒す。

 ただ勇者と呼ばれるのは勘弁願いたい。


 十一階での英雄軍師なんてのも恥ずかしくてしょうがないのだ。

 ただ水面下での神々の争いが少し見えたような気がした。


 塔を攻略させたい神とさせたくない神。

 静かな戦いも起こっているのだと圭は感じたのだった。

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