力に飲み込まれた男3
「ヤバッ!」
夜滝とダンテのおかげで直撃はしなさそう。
しかし火球の威力があまり減じていないようにも見えた。
「みんなこっちに集まれ!」
ゆっくりと二つに分かれた火球が落ちてくる中、みんなでカレンのそばに集まる。
「大地の力ぁ!」
カレンがスキルを発動させる。
スキルによってカレンを中心とした地面が迫り上がって、ドーム状に圭たちのことを包み込んでいく。
「あやつ、まだ何かやろうとしているぞ」
火球を切り裂いたダンテはまだ空中にいた。
黒い魔力を踏み台として留まり、遠くに見えるリッチマジシャンの姿を睨みつける。
ダンテの胸元から顔を覗かせたルシファーは、リッチマジシャンの姿を観察するように見ている。
地面にまた魔法陣を描いている。
何かの魔法をまた発動させようとしていることは明らかだ。
「あんな魔法を連発されたらたまりませんね」
ダンテの下では火球が落ちて大爆発が起きている。
下から噴き上げる爆風にダンテの髪が乱れる。
ダンテのいる位置までは熱は届いても、ダメージがあるほどではない。
しかし爆発に巻き込まれたスケルトンは次々と消し飛んでいた。
破壊力は一目瞭然である。
「またあんな魔法を使われる前に止めなきゃな」
ダンテは剣を逆手に持って、腕を引く。
左手を伸ばしてリッチマジシャンに狙いを定める。
「くらえ!」
ダンテは黒い魔力がまとわせて、剣をリッチマジシャンに向けて投げ飛ばした。
黒い軌跡を残しながら剣はまっすぐに飛んでいく。
リッチマジシャンは、ダンテの剣が飛んでくることを察知してバリアを展開する。
ダンテの剣とバリアが衝突する。
「くっ……」
ダンテの剣はバリアを突破した。
けれどバリアによって軌道を逸らされた剣は、リッチマジシャンのローブをわずかに掠めたのみだった。
動揺するような様子もないリッチマジシャンはそのまま魔法陣を完成させる。
「あ、あぶねー……」
一方でカレンが作り出してくれたドームの中は、天地がひっくり返ったような激しい揺れに襲われていた。
夜滝がドームの内側を氷でさらに強化してくれなかったら危なかったかもしれない。
ドームを解除すると周りに群がっていたスケルトンが一掃されてしまっている。
まだ離れていたものは残っているけれど、かなり数が減ったことに違いはない。
「げっ! またなんかしようとしてるよ!」
スケルトンがいなくなって見通しが良くなった。
離れたところにいるリッチマジシャンの姿もよく見えるようになっていたのである。
リッチマジシャンの足元では魔法陣が光を放っている。
もうすでに魔法を発動する寸前であり、止めるには遅すぎる。
「何をするつもりだ……!」
もはや止められないのなら備えるしかない。
圭たちはすぐに動けるようにしながらリッチマジシャンの動きを警戒する。
「来るぞ……!」
魔法陣がより強く輝く。
「なんだ?」
「地面から何かが……」
火球のような魔法が来ることを警戒していたが、リッチマジシャンの魔法陣から火球ではない何かが出てきた。
圭は目を細めるようにして出てきたものが何なのか見極めようとする。
「人……?」
「人……っぽいね」
地面から出てくるようにも見える何かは骨ではなく、肉がついた人の形をしている。
「ゾンビか何かか?」
リッチに関わりそうなアンデッド系で、骨ではないモンスターとして思いつくのはゾンビである。
動く死体。
ゴーレムの死体バージョンのようなモンスターだ。
パニック映画のように大量に集まればゾンビも脅威だが、単体ならさほど強い相手でもない。
ゾンビにも似たモンスターでもっと強いものもいるけれど、今の圭たちとってはあまり脅威とは言いがたい。
「何だか……見たことないか?」
一体だけ召喚された何かはカクカクと動いている。
頭を上げた時に髪がフワリと上がって、お札が貼ってある顔が見えた。
チラリと見えた顔に見覚えがあるような気がした。
「ああああああっ!」
「な、なんだ!?」
召喚されたモンスターが咆哮した。
その瞬間モンスターの周りが爆発する。
「片腕がない……」
よく見るとモンスターは右腕がなかった。
「爆発を起こし……右腕がない……」
そんな人物に一人だけ心当たりがあった。
『リウ・カイ
カイは全てを差し出した。
利き腕を失い、武器も失った哀れな男は神が差し出した手を取ったのだ。
だがそれは悪魔の契約だった。
カイは全てを奪われた。
ただの傀儡となり、意思を奪われて、裏切り者になった。
もはや彼は人でなくなった。
力と逃走の代償。
もはや、彼はただのモンスターである。
ただのキョンシーである。』
「…………リウ・カイだ」
「あれが?」
「なんか……すっごい血色悪いけど?」
元は普通の健康的な肌色をしていたのに、今のカイは肌が血の気を失って青く見えるほどだ。
なんだか様子もおかしいと波瑠やカレンは険しい顔をしている。
「あのリウ・カイは……モンスターになってる」
「えっ!?」
「そんなことって……」
「ひ、人ってモンスターになるんですか?」
圭が真実の目による鑑定結果を伝えるとみんなが驚く。
ただ圭だって驚いている。
本来ならステータスが見えるはずなのに、カイに対してはもうステータスも見えない。
鑑定結果によるとカイはキョンシーになってしまったようである。




