親子の再会1
「とりあえず生きてはいますね」
薫が黒岩の娘の容態を確認する。
目を覚まさないものの、確かに生きてはいる。
これ以上は薫にも分からない。
外へ出て医者に見せるしかないのである。
「うわっ!? なにコレ!?」
黒岩の娘はアルファが背負い、圭たちは研究所からの脱出を試みる。
タラトスがいた一つ前の部屋に戻ってみると大量のゴーレムがいて、波瑠は思わず驚いてしまった。
「やっぱりあそこのゴーレムも動いていたんだな」
どうやってきたのかは知らないが、おそらく前に通ってきたガラスケースが並ぶ部屋から来たのだろう。
あと少し対処が遅かったら、部屋にゴーレムが大挙して危ないところだった。
動かなくなった人型ゴーレムの間を抜けて進み、元来た道を戻っていく。
広くない通路にもゴーレムがいて、安全だろうとは思いつつも動き出すかもしれない緊張感があった。
「よしっ……」
ひとまず研究所を脱することはできた。
流石に町中にはゴーレムはいない。
一度丸型ゴーレムには遭遇したものの、キーのおかげで襲われることなく町も抜けていくことができた。
大きな門から古代都市を出て、洞窟も抜けていく。
「外だ……うわぁーーーー!?」
「ちょ……デカすぎんだろ!」
「や、ヤバいですよ、あんなの!」
外に出た圭たちの目の前にいたのは巨大な黒いゴーレムであった。
タラトスもデカいが、それよりも二回りほどデカくてアニメなどの戦隊モノのロボのようだ。
しかし急にそんなものを相手にするのは難しい。
「な、なんだ……?」
攻撃してくるようなら古代遺跡にまた戻るしかないと思った。
黒い巨大ゴーレムの大きさならば仲間では入ってこれない。
しかし黒い巨大ゴーレムは攻撃してくることもなく、膝をついて圭に向かって手を伸ばしてきた。
圭のことなんかつまんで潰してしまえそうな大きな手を前にして、なにがしたいのかと困惑する。
「圭、アレじゃないのかい? シークレットクエストの続き」
「……なるほど」
あれだけのことが起きたものの、シークレットクエストはまだ終わっていない。
古代の遺物をあるべき場所に返せ、というのがシークレットクエストの続きだった。
あるべき場所というのが黒い巨大ゴーレムなのかもしれない。
『閲覧制限』
一応黒い巨大ゴーレムのことを鑑定しようとしたが赤字で閲覧制限と出てしまった。
情報は見られないようである。
「これか……?」
圭は人形を取り出した。
その旨にはハートの形の意思が抱き締められている。
圭は黒い巨大ゴーレムの手の上にそっと人形を置く。
『モンスターを倒せ! クリア!
ガルドン クリア
メユナゴオド クリア
…………
フルエスト クリア
ウムヘンクーバ クリア
シークレット
古代遺跡の遺物を取り戻せ クリア!
古代の遺物をあるべき場所に返せ クリア!』
『シークレットクエスト達成!』
『貢献度
1位村雨圭
2位以下同率』
パパッと表示が現れる。
どうやら正解だったらしい。
ハートの形の石が光を放って浮かび上がる。
まるで喜ぶように黒い巨大ゴーレムの周りを飛び回っている。
「えっ? なに?」
「〜〜〜〜」
黒い巨大ゴーレムの手に持っていた人形も光った。
刃に貫かれた胸が直って、多少薄汚かったのも綺麗になった。
そして黒い巨大ゴーレムは圭に人形の乗った手を差し出す。
困惑していると何かを話した。
「ピピ……体は器に過ぎない。これをお前にやろう」
フィーネには言葉が分かっているらしく、翻訳してくれる。
「えと……つまりこれをもらえるってこと?」
圭は人形のことを見る。
人形は人のようなフォルムをしている。
ちょっと女の子っぽい感じはあるものの、ゴーレムはゴーレムだ。
「……もらいます」
ずっと差し出されているので、ひとまず受け取ってみた。
「うわっ!?」
圭に人形を渡したゴーレムはゆっくりと立ち上がると飛び上がった。
そのまま背中が開いて、ブーストのようなものが出てきて空に留まる。
「〜〜〜〜」
「そこを退けろって」
「そこ? ……みんな、場所を移動しよう」
何が起こるのかわからないが、警告してもらっているなら素直に従う。
「メカメカしてるねぇ」
黒い巨大ゴーレムの右手が変形して、キャノン砲のようになった。
キャノン砲の銃口にエネルギーが溜まっていく。
「うおっ……」
黒い巨大ゴーレムが古代遺跡に向けてキャノン砲を発射した。
眩いビームのような一撃に圭たちは目がくらんでしまう。
一瞬遅れて轟音が響き渡る。
地面が揺れ、轟音にやられて耳鳴りがしている。
「…………なんだったんだ?」
変な夢でも見たような気分だとカレンは思った。
気づいたら古代遺跡に繋がる洞窟は消し飛び、黒い巨大ゴーレムはいなくなっていた。
「色々な世界が……あるんだな」
おそらく黒い巨大ゴーレムは意思を持ったゴーレムなのだろう。
十四階の世界と戦い、最後まで残った相手なのだ。
そして十四階の世界はゴーレムに対抗するために自らゴーレムとなって、結果的にゴーレムしかいないような世界になってしまったのだ。
少しホラーのような話でもある。
「しかし、これどうしたら」
圭は手に取ったゴーレム人形に視線を落とす。




