何かの研究所4
「一つ……二つ……三つ……ここか」
三つだとそれほど間違えようもないが、一応間違えないようにちゃんと数える。
三つめの部屋は金属の扉があって、部屋の名前のようなプレートがドアの上にもついている。
フィーネによると、人の名前っぽいけれども掠れていてちゃんと読めないらしい。
「ここは開くのか?」
鉄の扉は閉まっている。
表示の導きなしでは普通にスルーしていただろう。
「そもそも押すのか引くのかさえ分からないな」
「本当に開くのかこれ?」
カレンが軽く押し引きしてみるも、扉はびくともしない。
「さあな……ただイタズラで行ってみろなんて表示も出ないだろ」
今度は圭が扉に体を押し付けるようにして開けようと試みる。
「ガコッ?」
ガコッ、と音がした。
「うわああああっ!」
扉は開いた。
ただし外れたのか上から倒れてしまい、体重をかけて開けようとしていた圭も一緒に倒れていく。
「グエッ!」
そのまま倒れた圭は地面に体を打ちつけて変な声を出してしまう。
「圭さん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……」
多少痛いが体をぶつけただけである。
覚醒者の体は丈夫なので、これぐらいでは怪我もしない。
ひとまず薫に治してもらって痛みもすぐに消えた。
「ここは……研究室か何かかねぇ?」
それなりの広さがある部屋の壁一面には何かの設計図のようなものが貼ってある。
人型の形をしていて、数字や文字のようなものが書き込んである。
「モンスターと戦うための人型のロボットを開発している同僚の研究室がこんな感じだったねぇ」
夜滝はRSI時代のことを思い出す。
ドローンやロボットによってモンスターと戦えないか、という開発も行われていて、モンスターの素材や魔石を使って動くロボット研究を行っている人が壁に思いついたメモ書きを貼る人だった。
そんな感じの部屋に似ていると感じたのだ。
「キーってなんのことだろうな……」
部屋の中を見回してみても鍵っぽいものはない。
「んー……あれかな?」
圭から見ても同じく鍵のようなものはない。
だから真実の目を使ってみた。
『上級研究員ブリガードの識別装置
研究所で働いていたブリガードを識別するための装置。
これを持っていると研究所のほとんどの場所に出入りでき、警備のゴーレムに敵対されない。
世界をありがとう。感謝の印だ』
机の上にある石の札みたいなものがキーとなりそうなものだった。
青くて丸い水晶のようなものが嵌め込まれていて、鍵といわれても想像するような形じゃなかった。
ついでに鑑定結果には、何か圭に向けたメッセージのようなものまで確認できる。
「なるほどな……」
どんな存在がそんなヒントをくれたのか謎だったが、圭が得た世界を渡した神様の一人が協力してくれたようだ。
ただ一つだけ言うならば、真実の目による鑑定結果を掲示板代わりにするのは止めてほしいなとちょっと思った。
「とりあえずこれがキーらしい」
圭に対して好意的な神様からの贈り物なら、少なくとも悪いものじゃないだろう。
キーを持っていくことにして部屋を出る。
「ただどっちにいくか……」
「このまま左でいいんじゃない?」
キーは見つけたが、相変わらず次にどうすべきなのかのヒントはない。
三つめの部屋があるところからまだ廊下は続いているし、逆側の方にも勧める。
どっちに行くかヒントはないので、波瑠が軽く言った通りにそのまま三つめの部屋よりも先に進んでみることにした。
「こんな風に攻略のヒントを見つけるのは簡単なことなのか?」
圭がキーを見つけたことに対してアルファが疑問を挟んだ。
あまりにもスイスイと物事が進んでいるような感じがあった。
「他はどうか知らないけど、私たちはこんな感じのことも多いな。どれもこれもお兄さん……圭のおかげだよ」
「村雨さんの」
「そっ、不思議なもんを見抜き、不思議なもんを引き寄せる」
「神様が圭君の味方してくれてるんだよ」
「神が……ですか」
波瑠は軽く言うけれど、実際は本当のことで、本気で言っている。
ただ神の存在なんて他の人が聞いたらただの冗談にしか聞こえない。
「それにしても……目的の人はどこにいるんだろな」
「あまりこんな状況で言うのは相応しくないかもしれないが、そもそも生きているのかい?」
「……それは分からない……けど」
うっすらとその可能性はあると思いつつ口に出してはこなかった。
そもそも生きているなら帰ってこられたりしないのか、とかそんな疑問もある。
先に入っていて、長い時間帰ってこないのならもうすでに希望がないという可能性の方が高いのではないかとみんなどこかでは思っていたのだ。
「まあでも、お願いされたわけだし?」
圭が救出をお願いされた時点で覚醒者たちが古代遺跡に入ってから時間は経っている。
希望が薄いことは黒岩も承知だったろう。
それでもお願いしてきたということは、すでに助からない可能性込みで捜索してくれということだったのではないかと圭は思っていた。
まさか父親相手にもう死んでるかもしれないですよねとは口が裂けても聞くことはできない。




