ブラックマーケットの依頼2
「ジェイ様は現在塔を攻略なさっておりますね」
「ええ」
「十五階を攻略中、あるいは攻略済みでございますね?」
「……はい」
階数までズバリ言うのならばどうやってか情報を得ているのだろう。
攻略階がバレていても問題はないので圭は警戒しながら頷いた。
「十四階のシークレットと呼ばれるものもご存知ですね?」
「知っています」
「先日攻略に向かったギルドがあります。アメリカのとあるギルドです」
「それは……」
「最初に入ったのとはまた別のギルドでございます」
シークレットクエストの古代遺跡の存在がバレた以上攻略は早いもの順であり、わざわざ攻略すると他に言う必要もない。
すでに攻略しようとしていたところがあってもおかしくない話である。
「そのギルドがどうにかしたのですか?」
「まだ帰還をしておりません」
「……そうですか」
古代遺跡はなかなかの難易度があるらしい。
十五階まで行くなら相当強いはずなのに、それでも帰ってきていないとしたら古代遺跡はかなり危険なことになる。
「ブラックマーケットのトップに関わりがある方がそのギルドにいました」
「シークレットの攻略に向かって帰っていない……ということですか?」
「その通りです」
「まさか依頼って……」
「シークレットの攻略に向かったそのお方を助けてほしいのです」
なかなかの依頼だなと圭は思った。
「なぜ私たちなんだい?」
夜滝が当然の疑問を口にする。
十四回まで行っているギルドならまだいくつかある。
圭たちのような小規模のギルドじゃなく、もっと大きなところばかりだ。
圭たちのところにお願いするような理由がない。
「……それは私にはわかりません。上からの命令でこうしてお願いさせていただいております」
黒服が急に奥に引っ込んだのはこのためだった。
「何をしてほしいのかは理解しました。でも……」
正直な話、条件が釣り合わない。
情報を求める対価として、命の危険を冒してシークレットクエストに挑むのはかなり重たいと言わざるを得ない。
「こちらからも人を派遣します。シークレットがクリアとなった場合こちらは報酬を放棄しますし、むしろこちらからも報酬を支払います。今後ブラックマーケットを利用なさるときも……」
またしても黒服の動きが止まる。
「……ブラックマーケットの主がジェイ様にお会いしたいそうです」
特にイヤホンなどをつけているわけでもないが、どこからか指示を受けているようだ。
「俺ですか?」
「そうでございます。直接お話しなさるそうです」
「……分かりました」
「申し訳ございませんがジェイ様のみ、ついてきてくださいませんか?」
「なんでだよ?」
「申し訳ございません。そのように仰せつかりましたもので」
「……みんな、行ってくるよ」
お願いをしようというのに危ない目に遭わせることはないだろう。
ブラックマーケットの主というのも気になる。
ブラックマーケットはいつの間にかできていて、いつの間にか根付いていた。
覚醒者協会も手を出せず、他の何者の干渉も受けないまさしくブラックな場所となっている。
誰がどうやってブラックマーケットを作ったのか、という話は誰も知らない。
ネット上ではまことしやかに噂の域を出ない話が飛び交うだけであり、実は古くからブラックマーケットはあって覚醒者やモンスター騒動の陰に潜んで表に出てきたのだなんて話もある。
そしてブラックマーケットを支配しているボスの存在も噂となっている。
大企業の金持ち、裏社会のボス、情報収集の力を持った覚醒者、あるいは覚醒者協会が手を出さないから覚醒者協会がボスなんじゃないかと疑う人もいたりするのだ。
何もかもが神秘のベールに隠されたブラックマーケットの主に呼ばれた。
ちょっとした興味もある。
「こちらです。そのまま下に降りていってください」
一人店の奥に案内された圭は、どこまで続くのかわからない階段を降りていくように言われた。
黒服はついてこないようで、圭が降り始めたら階段に続くドアは閉じられてしまった。
「フィーネ、いるよな?」
「いるよ」
圭は胸に手を当てながら軽く声をかける。
一人というもののフィーネは基本的に装備にふんして圭のそばにいる。
いるのは確かだろうけど、ちょっと不安なので念のための確認である。
何かがあってもフィーネがいれば心強い。
「長いな……」
ただただ階段を降りていくが、どこが終わりなのか分からない。
「おっ、ようやくか」
どれだけ降りてきたのか分からないけれど、かなり下まで降りた。
ようやく階段が終わって小部屋に着いた。
正面には鉄の扉がある。
「開いた……」
閉じていた扉が一人でに開いていく。
まるで入ってこいと言っているかのようだ。
多少の緊張を感じながらも圭は扉の奥に入っていく。
「ようこそ、ジェイ。いや……村雨圭さん」
やや暗めの廊下を進んでいくとそれなりの広さの部屋になっていた。
部屋の真ん中に大きな机が置いてあって、その向こうに大きなソファーがある。
そこに一人の男性が座っていた。
薄暗い部屋の中でもサングラスをかけた中年ぐらいの男性は軽く微笑を浮かべている。




