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【第十四章開始】人の才能が見えるようになりました。~幸運な俺はいい才能を持つみんなと一緒に世界を救う~  作者: 犬型大
第十三章

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夢を乗り越えて

「圭!」


「圭君!」


「あれ……夜滝ねぇ、波瑠?」


 変な夢でも見たように体が大きくびくんと跳ねて圭は目を覚ました。

 目の前には夜滝と波瑠がいた。


「二人とも……どうしたの?」


 二人は心配そうな顔をして圭のことを見ている。


「そりゃ心配するよー!」


「二日も経ってるんだから当然の話だねぇ」


「二日!?」


 圭は二つの意味で驚いた。

 夢の中で何日経ったのか覚えていないが、二日では済まなかった。


 それだけの時間を過ごしても二日だったのかと思った。

 だが一方で、長い時間を過ごしても早ければ数時間で目を覚ますと聞いていたのに、二日も夢に囚われてしまったということもまた驚きだったのである。


「もう外に出して無理矢理目を覚まさせようって話してたところだったんだよ」


「……そうだったのか」


 周りを見ると圭の他に夢を見るように立っているのは何人かしかいない。

 夢から覚めたメンバーは十一階に退いて休んで、交代で起きるのを待っていた。


 二日待ってダメなら無理矢理起こすつもりであった。

 そろそろ他の人たちも来て、目覚めない人を部屋から運び出すところだったのである。


「お兄さん!」


「圭さん!」


 ドアが開いてカレンたちが入ってきた。

 目覚めた圭を見てみんなも安心した表情を浮かべる。


「みんな! ……結構早かったのか?」


 様子を見るに割と早く目覚めていたように見えた。


「目覚めた人はだいたい初日だねぇ」


「一日越えて目覚めたのは……お兄さんだけだよ」


 そりゃ心配もするかと圭は思った。


「なんにしても目覚めてよかったな。みんなで誰がキスするかなんて話してたんだぜ」


「ミキ! それは言わない約束でしょ!」


「あっ……」


「キス?」


「なんでもない」


 言っちゃいけない何かを言ってしまった。

 かなみに怒られた赤城はそっと視線を逸らす。


「眠るお姫様は、キスをしたら目覚めるの」


 黒羽が唇に指を当てて微笑む。


「あー、なるほどな。でも俺は姫様じゃないぞ」


 童話でよくある、眠ってしまった姫様が王子様のキスで目覚めるなんて話のことだと圭は理解した。

 十一階で休んでいる時に誰かがふと口にしたのだ。


 ‘キスしたら目が覚めたりしないかな?’

 そんな事例はない。


 しかし試したなんて話も聞かない。

 真実の愛があるなら目覚めるはずとか、可能性がゼロではない以上試してみればいいなんて声もあった。


 ただ問題は誰がやるか。

 王子様っぽいのは自分だとか、圭が男で王子様ならお姫様っぽい方がいいとか多少の議論のような小競り合いが発生した。


 答えは出ないまま、結局丸一日が経ってしまっていたのである。

 もし圭が目覚めなかったら、知らない間に誰かにキスされていたかもしれない。


 タイミング的には、もう少し起きるのが遅かったらキスされて目覚めるということにもなっていた可能性がある。


「ちょっと残念」


 冗談なのか、本気なのか分からない顔で黒羽がつぶやく。


『夢を見て、夢から目覚めよ

 夢から目覚める クリア』


 圭の目の前には短い試練の表示が浮かんでいる。

 どうやらシークレットはないらしい。


「……なんだか疲れたな」


 体が重たく感じる。

 二日間も夢に囚われていたせいか、お腹が空いていたり喉が渇いていたりもしている。


「十一階に戻って休めよ。他の人たちの運び出し私たちに任せておけ」


 大海ギルドから三人、ヴァルキリーギルドからは二人がいまだに目覚めていなかった。

 目覚めなかった人たちを運ぶのは赤城たちに任せて、圭は十一階まで降りることにした。


「圭はどんな夢を見たんだぃ?」


「俺? 両親の夢を見たよ」


「……ああ、そうなのかい」


「夜滝ねぇやみんなは?」


 移動しながら夢の話となる。


「私は研究者として成功した夢だったねぇ。なんの研究かは分からないけど、賞もらって、一流の研究者として脚光を浴びているんだ。それと……いや、なんでもない」


 夜滝は顔を赤くして咳払いする。

 元々夜滝は研究者であった。


 今となってはこうして覚醒者として活動するのも悪くないが、本来は研究をしていて、そちらでの成功を望んでいた。

 仮に研究で成功した姿が夜滝の見た夢だったのである。


 のんびり生きられればそれでいいなんて思っていたが、どこかに研究で成功したいという思いがあったのかと夜滝自身も少し驚いた。


「私はお父さんが出てきたよ」


「私も……それに久々にお母さんの顔を見たよ」


 波瑠とカレンも圭と同じく親の夢であった。


「僕は……もっと男らしくなる夢でした。でも……うぅ、これは秘密ですね」


 何かを思い出したように薫が顔を赤くした。

 夢の中で薫は背も高くて筋肉質なイケてる男性だった。


 しかしその一方で夜になると姿が変わって、なんて夢であった。

 夜の姿がどんなのだったのかは周りには言えない。


「ルシファー様はあんなことを言わないからな」


 ダンテはルシファーに直接仕える夢を見ていたらしい。

 ただルシファーの言動がおかしいと思って倒して目覚めたのである。


「二日も夢の中にいたなんて、よっぽど出たくなかったんだね」


「……ああ、両親とは小さい頃に死別してるしな。最近忙しくて思い出す機会も減ってたから」


「まあ気持ちは分かるよ。お母さんとお父さんに優しくされると……夢から目覚めたくなくなるよな」


「そうだな……でも、夢を見たおかげでまた頑張れそうな気がする」


 酷い試練だったと思う。

 死んだ人や心の奥にある望みを刺激して心地よい夢に捕らえようとするなんて。


 だが懐かしい人は心の弱ったところを埋めてくれた気もする。

 胸の奥の望みは改めて自分の進むべき道を示してくれたような気がする。


「ともかく……十五階はクリアできたな……」

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