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【第十四章開始】人の才能が見えるようになりました。~幸運な俺はいい才能を持つみんなと一緒に世界を救う~  作者: 犬型大
第十三章

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夢を見る2

「何というか……怖いところだな」


「心地良い夢だということを忘れなきゃ大丈夫……なんていうけど、ちょっと攻略する気が起きなくて止まってたんだ」


 十五階そのものの通過率は決して悪くない。

 しかし異質な試練に赤城たちヴァルキリーギルドも二の足を踏んでいた。


「どんな夢……見るんだろうな」


 十二階、十三階は戦わずに通過できる。

 圭たちは十四階のゴーレムを避けて十五階まで上がってきていた。

 

 雰囲気としては十二階にも似ている。

 十四階からのエントランスゲートがあるのは真っ白な部屋の中で、正面に黒い扉がある。


「入っていく夢に突入する。夢から覚めると同じよう白い部屋にいるみたいだ」


 戦って解決できるわけではない試練にみんなも自然と緊張が高まる。


「起きた人がいたらその場で待機。……二日経っても目覚めなければ部屋の外に引きずり出すんだ」


 初めて攻略をした覚醒者たちは仲間が目覚めることを期待して泣く泣く仲間を放置して先に進み、次の回で全滅しておいていかれた仲間もそのまま死んでしまったなんてことがあった。

 部屋から出していいのかも分からなかったために放置するしかなく、現実の問題として放置されて体が衰弱して死んだのだ。


 今は無理に仲間を部屋から出しても大丈夫なことも分かったので、異質な試練の割に危険度は低いとみなされている。

 仮に目が覚めなくとも塔の外に運び出せれば点滴などで命を繋ぐことができる。


 こうしてしばらくした後に目を覚ました人もいるので、希望は捨てずに助けるのだ。


「……いこうか」


 戦うわけでもないので休憩する必要もない。

 圭は黒い扉を開いて中に入っていった。


 ーーーーー


「ん……ここは……」


 目を覚ますと布団の上に寝ていた。

 薄くなった古い布団で、床に敷いてある。


 ただなんか見覚えがあると圭は思った。

 体を起こして周りのことを確認する。


 古くて狭い部屋。


「あれ…………あれ?」


 部屋にも見覚えがある。

 そう思って声を出したらやたらと声が若い。


「どうして! どうしてあの子が死ななきゃいけないの!」


 圭がいるのは古いアパートの一室。

 それは夜滝にRSIに誘われる前に住んでいたボロアパートである。


 何が起きているのか、あるいは自分はどうなっているのかと確認したくて周りをキョロキョロとしていると怒声が聞こえてきた。


「母さん……?」


 すぐに分かった。

 それは圭の母親の声だった。


 グッと胸が苦しくなる。

 圭の両親は遥か昔に死んでしまった。


 写真はあるが動画なんかも残っていなくて、再び声を聞くことができて嬉しさや懐かしさで心が締め付けられるような思いだった。


「しょうがないだろう? これは俺たちが望んだことじゃない」


「父さん……」


 続いて聞こえてきたのは父親の声だ。


「これは一体なんなんだ……いや、これが……夢……」


 訳がわからないと思ったけど思い出した。

 十五階の扉をくぐった。


 つまりこれは夢なのだとようやく理解した。


「……どうやったら抜け出せるんだ?」


 自力で夢から覚めることが試練の攻略条件である。

 しかし夢から覚めるための条件は各々の夢によるらしく、明確にこうだという方法はない。


「あの子が全てを背負うことないじゃない! どうしてあの子なの……」


「俺だってどうにかしたいさ。でも……不幸を背負って死んでいく運命にあるんだ……」


 圭が考える間にも両親の言い争いは続いている。

 どうやら内容は圭に関することらしい。


 圭は世界の不幸を背負って死んでいく予定だった。

 そのことに関して言い争っているのだ。


 こんな言い争い圭の記憶にはないが、子供の頃のことなら覚えていないだけかもしれない。

 あるいは夢だから、無かった言い争いなのかもしれない。


「どうにかできないのか……俺も方法は探している」


「もう知らない!」


 両親も自分のことを考えてくれていたのだなと圭は思った。

 色々あったせいもあって、遠い昔の二人のことは記憶に残っていないが、不幸を背負わされた圭のことを考えてくれていたのは嬉しくもある。


「ごめんね、起こしちゃったかな?」


 部屋に母親が入ってきた。

 思ったより大きい。


 それは母親が背の高い人だったからではなく、圭が想像よりも小さかったからだった。


「良い子ね」


 母親が圭のことを抱き上げる。

 ちょっと照れ臭いと思ったけれど、母親に抱っこされると暖かくて、落ち着いた。


 ずっとこのままでいたいなんて気持ちが思考を塗りつぶしていくような感覚だった。


「あなたのことは私が守るわ」


 母親は慈しみを浮かべた表情で圭の頬を撫でる。


「お母さん……」


「なあに?」


「大好き……」


「私もよ」


 母親が圭を強く抱きしめる。

 愛を感じる。


 なぜ人が夢から覚めたがらなくなるのか、理解したような気がする。


「圭」


「お父さん」


「大きな声を出して悪かったな」


 圭の父親も圭の頭を撫でる。

 写真で残っていない両親の、自然な柔らかい表情が目の前にある


「子守歌を歌いましょうか。あなたがよく眠れるように」


 圭は布団の上に寝かされる。

 母親が優しい声で歌い出し、聞き入っている間に圭は眠くなってきてしまった。


 今すぐ夢から目覚めなくてもいい。

 もう少しだけこのままでもいいかもしれないと圭は思ったのだった。


 ーーーーー

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