再び三つ巴の戦い1
「にしても、貸金庫に何保管してるんだろうな」
圭たちも拝金教とエルボザールファミリーの摘発には参加する。
ギルドとして夜滝たちだけでなく、エーランドたちも参加することになっている。
あまりガルーたちの数が多くても混乱してしまうかもしれないので、ガルーたち十人、異世界人十人と選抜メンバーである。
貸金庫がある銀行もすでに突き止めていて、周辺に覚醒者たちが待機していた。
しかしガルーたちはどうしたって目立ってしまう。
そこらを歩いているだけでも目につくし、外にいて隠すことなどまずできない。
なのでガルーを含めて圭たちは離れて待機していた。
観光バスを貸し切り、カーテンを閉め切ってその中にいるのだ。
動きがあったら無線で連絡があるのだけど、ガルーたちがバレないように外を覗くこともできなくて暇である。
圭はふと拝金教が何を貸金庫に預けているのか気になった。
「金の延べ棒とか?」
拝金教というのだからお金に関するものの可能性は十分にありうる。
欧州連盟の方の拝金教の母体となる企業が摘発されて、捜査の手を逃れるために物を運び込んできて貸金庫に預けているらしいので、金銭的な物品が預けてあることも普通にあるだろう。
「悪魔教だしな……なんかやばいもんでもあんのかもな」
「その可能性もあるねぇ」
お金あるいはそうしたお金に換算できないような品物の可能性だったもちろんある。
悪魔に関わる魔道具ということも考えられた。
「あそこの貸金庫、かなり厳重らしいですもんね」
「普通のもんじゃあなさそうだな」
「まあでも、捕まえて調べちゃえばいいんだよね」
「そう簡単に行くかなー?」
「前は急にエルボザールが現れたせいでわちゃわちゃーってしちゃったけど、今回は私たちが介入するし準備万端だからね!」
以前の戦いでは、覚醒者協会が拝金教を捕らえようとしているところにエルボザールファミリーが入ってきた。
予想外の乱入だったので、状況は混乱を極めていた。
用意していた戦力としても拝金教とエルボザールファミリー両方を制圧するのに足りなかった。
今回は両方を制圧するのに十分な戦力を揃えている。
「なっ! 王! どう、だ?」
そろそろ始まるかもしれない。
準備をしているとエーランドが嬉しそうに圭に背中を見せた。
今回エーランドたちは他からも分かりやすくするために、背中に覚醒者協会と書かれたベストを着ている。
防刃ベストのような防具にもなる物で、わざわざガルーたちように大きめなサイズのものを作ってくれたのだ。
なんとなく仲間としても見られるようになってきたとエーランドは喜んでいた。
圭たちも同じ物を着ている。
「ああ、似合ってるよ」
他の人には割と冷たい態度のエーランドも圭の前では素直な感じになる。
ちょっとだけでキューちゃんとも姿が重なるな、と波瑠は振られる尻尾を見ながら思った。
まだキューちゃんとエーランドたちは会ったことないので、会ったらどうなるのか知りたいところである。
「……始まったのかもしれないな」
遠くで爆発音がした。
無線に反応はないものの、拝金教とエルボザールファミリーの戦いが始まったのかもしれない。
「こちら作戦本部、伊丹です」
「こちらリーダビリティギルドです」
無線に連絡が入った。
圭が応答する。
「戦いが始まりました。両者とも車で駆けつけてきているために交通状態がありません。バスを降りて徒歩で移動願います」
「了解です。よしっ、みんな行くぞ!」
「"仕事だな! 王といると退屈しなくていい!"」
バスを降りると周りの人がギョッとした顔をする。
覚醒者協会というベストを着たガルーが現れたら、普通の人は驚きもするだろう。
「覚醒者協会です!」
圭たちに同行していた覚醒者協会の職員が、混乱を生まないように周りに声をかける。
ついでに銀行方向に行かないようにも呼びかけている。
その間に圭たちは銀行に向かう。
待ち伏せしていることがバレないようにと一般人の規制を行えなかった。
銀行方向から人が逃げていき、騒動が起きていることを感じさせた。
「村雨さんですね!」
現場近くで覚醒者協会の覚醒者が合流してきた。
「状況はどうなっていますか?」
「およそ三十分前、拝金教と思われる集団が銀行に入っていきました。そして十分ほど前に出てきたタイミングで数台の車が銀行前に止まり、中からエルボザールファミリーが出てきて戦いになりました」
近くて争う声が聞こえてくる。
負けないように声を出して状況を簡潔に説明してくれる。
「拝金教はかなり準備をしていたようで……周りにいたサラリーマン風の人たちも半分ほど拝金教だったようです。エルボザールファミリーの方もさらに増援を呼んで……事前の情報にあったオルボットとエルーガも現れました」
時折銃声のようなものが聞こえる。
おそらくオルボットがいるのだろうと圭は思った。
「つい先ほど我々も作戦を開始しました!」
本来なら両者が完全に潰し合うのを待ちたいところである。
しかしそうしていると周りへの被害が大きくなってしまう。
状況は三つ巴の戦いとなっているのだった。




