なんか漏れてるかもしれない3
「ちょっとだけ……様子見に行ってみようか」
あまり古代遺跡近くをうろつくのはよくない。
だけどモンスターが出てきてしまっているという状況は気になる。
遠くから少し様子を窺うぐらいなら相手に誤解を与えることもない。
モンスターを見つけて倒すのも早くて、時間的にはまだ余裕があるから見に行ってみることにした。
『ぼっくが圭を運ぶんだぁ〜』
古代遺跡がある崖に向かう。
いまだにどこからどう回り込めば崖下に行けるのか分からない。
とりあえず崖上から様子を見ればなんとなく状況も分かるかもしれない。
圭はキューちゃんの背に揺られている。
別に圭が乗せてくれと言ったわけではなく、キューちゃんの方から乗って乗ってとせがまれたのだ。
ふぅと小さくため息をついた。
それは考えることも多いし、これから先にやるべきことも多いなと思って漏れたものだった。
けれども、そのため息がキューちゃんに見つかってしまった。
‘疲れてるんでしょ? じゃあ僕に乗ってよ! ねね! ねぇねぇ!’
と鼻をくっつけるようにして、フンスフンスする鼻息で飛んでしまいそうなぐらいな勢いで言われれば断れなかった。
フカフカとしたキューちゃんの背中は心地が良い。
毛をコントロールして乗っている人を支えるという方法を覚えたので安定性も大きく向上し、またがっているとほんのりと温かい。
のっしのっしとした振動も落ち着いて歩いていると意外と悪くない。
「昔、犬を飼いたいって言ったこともあったな……」
圭はキューちゃんの背中を撫でる。
小さい頃に犬が欲しいとわがままを言ったことがある。
前に住んでいた古いアパートはペット厳禁だし、お金もなかったのでその願いが叶うことはなかった。
今は特にペットが欲しいとか思うことはない。
もしかしたらそばにいてくれる家族が欲しいとかそんな思いだったのかもしれない。
あるいは、今はフィーネがいたりシャリンがいたりと、ペットではないけど賑やかになったからそんなことも思わないのかもしれなかった。
「あれなんだろ?」
進んでいくと崖が見えてきた。
崖のところに何かがある。
「崖から降りてるのか」
崖には杭が打ち込まれていて、ロープが何本か垂らされている。
どうやら攻略することになったギルドも崖から降りるという選択をしたようだ。
見た感じでは回り込んで下まで降りるのはなかなか遠回しになりそうなので、この方が効率いいのかもしれない。
「おい、見てみろよ!」
崖の下を覗き込んだカレンが険しい表情を浮かべている。
何事かと圭たちも下を覗き込む。
「あれは……」
崖下にいたのは覚醒者ではなかった。
古代遺跡から出てきたと思われるゴーレムが数体、崖下をうろついていた。
「あそこ……キャンプみたいなのがあるな」
崖の真下にある洞窟の入り口は崖の上からでは見えない。
しかし洞窟の入り口前に明らかに人が設置したようなキャンプの跡がある。
ゴーレムによって破壊されてしまっているが、おそらく攻略隊のものだろう。
「……何があったんだろうな?」
ただ見える範囲に死体なんかはない。
「おっと!」
ふとゴーレムが崖上を向いて、圭たちはとっさに隠れる。
ゴーレムが崖を登って襲いかかってくるかは知らないが、不要な戦いは避けるべきである。
「……ともかく、古代遺跡から来たのは間違いなさそうだな」
崖下にゴーレムが何体もいるということは偶然ではないだろう。
「撤退!」
「まあ、それがいいよな」
何があったのかは結局謎である。
ただ無闇に戦う理由もない。
リスクを負って戦うより、外に出て攻略しているギルドに聞いた方が早そうだ。
何はともあれ十四階は攻略したのだから圭たちは塔を脱出することにしたのだった。




