なんか漏れてるかもしれない1
「他の国の覚醒者が帰ってこない……」
「ああ。まあうちに何か言われてもって話だけどな」
悪魔教の争いなんて問題はあるものの、それにばかり時間も割いてはいられない。
塔の攻略も大事である。
前回シークレットクエストの場となる古代遺跡を見つけた。
無視するということに決めて十四階の攻略をしていたのだけど、うまくモンスターを見つけられずにあと二体というところで一度解散となっていた。
今回はそこから再開である。
ただ無視するといってもシークレットクエストの存在を知ってしまった以上、気になってしまうのが人というものだ。
攻略中に何かの影響を及ぼす可能性だって否定できたものではない。
ならば他の人に攻略してもらえばいい。
そこで圭たちは十四階のシークレットクエスト情報を売ることにした。
塔の攻略をメインで行っていて、ここまできているようなギルドならシークレットクエストの存在は知っている。
特殊な条件でクリアとなるクエストで、クリアすると普通じゃ手に入らない報酬をもらえるものだと聞いているはずである。
本気でシークレットクエストを探しているところはないだろうが、あるなら攻略してみたいと思っているところは多い。
自分たちで攻略しないなら他の人に攻略してもらう。
赤城たちのヴァルキリーギルドを通じて興味があるところはないかと持ちかけて、いくつかのギルドにシークレットクエストの情報を売ったのだった。
といっても今のところ分かっているのは古代遺跡の場所だけだが、すぐに食いついたところもあった。
「十六階まで攻略進めてるようなところなんだけど……それでも難しいんかな」
売った先のギルドは欧州連盟のギルドで、もう十六階の攻略をしているようなところだった。
ヴァルキリーギルドからの情報を元にして、古代遺跡に辿り着き、攻略を進めていたらしい。
攻略に入っていた先発隊と連絡が取れなくなった、と赤城のところに連絡があったのだ。
苦情だったのかもしれないし、単なる報告だったのかもしれない。
しかし古代遺跡の中がどうなっているかは知らないし、苦情だろうが報告だろうがされたところで知らないとしか答えようがない。
「まあ騙したわけでもなんでもないしな」
どう攻略を進めるかまでヴァルキリーギルドが関わることではない。
連絡が取れなくなったということは気になるものの、どうしようもないのである。
「代わりに十五階の情報も手に入ったし、十四階はサクッと終わらせたいところだな」
実力のある人が複数いれば十四階の通常試練はさほど難易度が高くもない。
残り二体も赤城によると急激に強いわけではないみたいなので、このままなら倒せてしまえるだろうと思った。
「……あれなんだろ?」
「あれが次のモンスターか?」
変わり映えのしない赤茶けた大地を、次のモンスターを探してぷらぷらと歩いていると遠くにそれっぽいものを見つけた。
メタリックカラーの人型ゴーレムのような形をしている。
「……なんだありゃ?」
「あれが次の……なんだっけ? フルエストだかじゃないのか?」
「いや、違う。次のはデカいイノシシみたいなモンスターのはずだ」
「うん、そう」
赤城が振り返って黒羽を見ると、黒羽も同意するように頷く。
いちいち次に出るモンスターの説明はしていなかったが、見えているモンスターは本来出てくるはずのモンスターではなかった。
「……まぁた、なんか出たか?」
「かもしれないな」
嫌な予感がするカレンだが、圭も同じく嫌な予感がしていた。
「だいぶ……SFチックな……ゴーレム?」
「ぴぴぴ?」
ゴーレムという言葉に反応してフィーネが圭の服の中から外を覗き込む。
現れたモンスターは一言で例えるならロボットのような見た目をしている。
男の子なら目を輝かせそうな感じだ。
『マルコスキュネスの複製守護ゴーレム
古代都市マルコスキュネスを守るために作り出されたゴーレム。
本来の守護ゴーレムであるタナトラを参考に作られたが、素材などの軽減のために表面しか金属が使われていない。
すでに命令する主人を失い、遺跡となった古代都市をただ守るだけの存在になってしまった。
魔石は上質なものを使っているので味は悪くない』
離れた位置から圭が真実の目で鑑定する。
「一応ゴーレムみたいだな。フルエストっていうモンスターじゃないし……」
「もしかして古代遺跡関係ですか?」
「正解だ、薫君……」
モンスターの説明によると古代遺跡と直接は書いていないが、遺跡となった古代都市なら古代遺跡のことで間違いないだろう。
「あっ、こっち見た」
「友好的……に振る舞うのは無理そうか」
複製守護ゴーレムのウデが変形し始めて、一本の刃になった。
どう見ても攻撃してくる予兆である。
「フィーネにお任せ!」
同じゴーレムならば負けられないとフィーネが圭の服の中から飛び出す。
「フィーネこそ最強ゴーレム」
一瞬でメイド服の美少女になり、手には大きな鎌を持つ。
なぜそのスタイルが気に入っているのか圭は知らない。
ただフィーネが気に入っているのなら別に文句をつけることもない。




