金と暴力5
「なっ……」
「銃声一発しか聞こえなかったぞ!」
撃たれたのは拘束されているスコットたちであった。
「‘捕まるようなグズはいらねえ。ただちっとばかし外しちまったか’」
六人拘束していた。
そのうち四人が頭を撃ち抜かれた。
残りの二人も肩や腹を撃たれていて、圭たちは驚いた。
聞こえた銃声は一発分だった。
なのに撃たれたのは六人なのである。
一発で六人撃ったのか、それとも六発撃ったが速すぎて一発に聞こえたのかも分からない。
「‘これから新しい世界を迎えるのにマヌケに与える席はねぇ’」
「カレン、そいつらを守れ!」
オルボットの銃がうっすらと光り、圭はなんだか嫌な予感を覚えた。
仕留め損なった男たちをみているような気がして、咄嗟に圭は男たちの前に出た。
オルボットが銃を一度ホルスターに収め、上半身を後ろに倒すようにして銃を抜いた。
またしても一発の銃声が響く。
「くっ!」
「うっ!」
銃弾なんか見抜けない。
圭は剣を縦に構えていたけれど、脇腹に強い衝撃を受けて後ろに吹き飛ばされた。
カレンも男たちの前に盾を構えて飛び出していた。
盾に何かが当たって、その衝撃に耐えきれなくて盾が飛んでいく。
「‘チッ!’」
「圭、カレン!」
「‘まあいい。流石にこの人数を相手にするのは骨が折れる’」
「ふううん!」
「‘おっと!’」
やはり狙いは拘束された男たちだった。
圭とカレンに邪魔されてオルボットは盛大に舌打ちする。
即死はさせられなかったが、弾もかすめたわけじゃない。
そのままにしておいても死ぬだろうと考えた。
できるなら顔を見た全員殺してしまいたいが、オルボットの能力は多人数を相手にするのに向いていない。
逃げよう。
そう思ったオルボットにシャリンが殴りかかった。
「‘ガキだが……油断できなさそうだな’」
シャリンの攻撃を飛び退いてかわしたオルボットが地面に向けて銃を撃った。
地面が大きく爆発して、細かい土埃が舞う。
「むぅ?」
攻撃が来るかもしれない。
そう思って待ち構えていたのだけど何も来ない。
「逃げられた!」
土埃が収まってきて、周りを探してみるもオルボットの姿はない。
まさか仲間を殺して逃げるだなんて予想外であった。
シャリンも警戒していたのだけど、起こされた土埃もただの土埃じゃなかった。
土埃に魔力が含まれていて、気配が察知しにくかった。
だから攻撃されるかもと身構えていたのだけど、逃げるための作戦だったのである。
「二人とも大丈夫かい?」
夜滝は吹き飛ばされた圭とカレンの状態を確認する。
特に圭はまともに一撃喰らってしまった。
「くっ……痛いけど……大丈夫だ」
「私の方もちょっくら肩痛めただけ。これぐらいならすぐに治る」
カレンの方は盾に当たったので大きなダメージがない。
盾が吹き飛ばされる時に肩を軽く脱臼したけれど、カレンの自然治癒能力ならすぐに治せてしまう。
問題は圭の方だったが、圭も無事だった。
「チョッキに穴が空いてるねぇ……」
圭は防具として薄い防弾チョッキのようなものを着ていた。
和輝が作ってくれたもので、動きの邪魔になりにくい薄さとしなやかさがありながらもモンスターの攻撃に耐えうる頑丈さを持っている。
なのに、そんなチョッキに丸く穴が空いていた。
それでも圭の体には穴は空いていない。
「ピピ! 意外と危なかった」
それはフィーネが圭を守っていたからである。
服の内側、装備として擬態しているフィーネはちゃんと防具としての役割も果たしている。
フィーネがオルボットの攻撃を受け止めてくれていたのである。
「ただ……骨ぐらいはいったかもな」
鈍い痛みに圭は顔をしかめる。
見てみるとフィーネが受け止めてくれたにも関わらず、衝撃が突き抜けて圭の脇腹は内出血で紫色になっていた。
骨が折れたか、ヒビでも入っているかもしれない。
すごい衝撃だった。
「圭さん!」
「薫君、そっちは?」
「伊丹さんはなんとか大丈夫です」
薫は伊丹の治療をしていた。
肩を撃ち抜かれたが、死んではいなかったので治すことはできた。
「あっちの生きてるやつを先に治してくれ」
「分かりました!」
圭の方は重体ではない。
だが拘束している奴でまだ生きている者もいる。
今治療すれば助けられる可能性がある。
薫は拘束されている六人の方に向かう。
「……やっぱりA級は何か違うな」
相手が逃げてくれて助かったのかもしれない。
そんなことを思いながら圭はため息をついた。
そんなことをしている間に伊丹が連絡していた覚醒者協会の人たちが到着して、状況に驚いていた。
状況の説明は夜滝に任せて、ゲートに入るとキューちゃんがボロボロになったボスウルフを咥えて待っていた。
一通りキューちゃんを撫でて、ボスを倒し、キューちゃんを十一階に送り返す。
他のゲートも回る予定だったのだけど、とんだ事件が起きたために取りやめとなった。
頭を撃ち抜かれた四人はもちろん助からなかったが、それ以外の二人は一命を取り留め、伊丹も含めて病院に搬送されることになったのである。
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