金と暴力4
「シャリーン……手加減パーンチ!」
「なかなか爽快な光景ですね」
「そう……ですか?」
殺さないようにと手加減したシャリンのパンチで、人がマンガのように飛んでいく。
伊丹は爽快だというが、圭は結構とんでもない光景だと思う。
スコットたちはあっという間に制圧された。
いかにボロボロにされようとも、死ななきゃ薫が治してしまえる。
「よしっ! これでいいな!」
スコットたちの手足をしっかりと拘束する。
いかに覚醒者として力が強くとも、体の構造上後ろでガッチリ手を縛られるとなかなか拘束を解くことはできない。
ただ魔法などは使えちゃうので警戒はしておかねばならない。
あれだけボコボコにされて、抵抗して逃げたいのなら止めはしないと半分脅しのように伝えてはおいた。
「移送のために外へ出て協会に連絡しましょう」
おそらくスコットたちはエルボザールファミリーだろう。
悪魔教で、外国人、見えるところに同じ刺青を入れている奴もいた。
ほぼほぼクロであるが、調べずに決めつけるのはよくはない。
覚醒者協会の方で逮捕して、詳細を取り調べる必要がある。
スコットたちが持ってきた死体もゲートの中には残しておけない。
一度外に出て覚醒者協会に連絡することになった。
『ボス探してくるねー』
キューちゃんは外に出られないのでゲートの中でお留守番である。
暇だからゲートのボスを探してくると走っていってしまった。
「思わぬ問題……あるいは収穫だったといってもいいでしょうか。電波は……ギリギリありますね」
スコットたちと死体を外に運び出した。
伊丹がスマホを取り出してみると圏外だったのだが、少し周りをフラフラとすると電波が入ってきた。
「もしもし、こちら伊丹です。識別番号MC112951で悪魔教と思われれ覚醒者を捕らえました。至急人を送ってください。それと……」
「‘何してるのかと思えば……チッ、ヘマしやがって’」
「えっ?」
「なんだ!?」
一発の破裂音が響き渡った。
「伊丹さん!」
ゲート前でスコットたちを並べて、抵抗しないように見張っていた。
伊丹は電波の届くところを見つけて覚醒者協会に連絡を取っていた。
破裂音が聞こえて圭たちが伊丹の方を向く。
何が起きたのかは分からないけれど、伊丹は肩から血を流して倒れるところだった。
「‘死体捨てて来いって言っただけで何やってるんだ?’」
伊丹の奥に見えるのはやや小太りの外国人の男だった。
「カレン!」
「大地の力!」
男の正体はともかく伊丹が攻撃されたことは間違いない。
カレンがスキルを発動させて、男と伊丹の間に岩の壁を立てる。
「波瑠、伊丹さんを! 薫君、治療だ!」
「分かった!」
「はい!」
波瑠が一瞬で伊丹のところまで行く。
「ごめんね!」
「うっ!」
痛いかもしれないが、優しくしている余裕もない。
波瑠は伊丹の体を抱えると引きずるようにして下がっていく。
「‘チッ……簡単な相手じゃなさそうだな’」
直後、岩壁に大穴が空く。
「銃……?」
「今時珍しいな」
穴から見える男は腰に手を添えるようにしてリボルバー銃を構えていた。
今時銃火器を利用する覚醒者はほとんどいない。
なぜならあまり強くないからだ。
モンスターが出始めた当初はまだ銃火器はよく使われていた。
けれども覚醒者が現れて、モンスターへの対抗策が本格的に研究され始めると銃火器の存在は一気に日陰のものとなった。
元々の破壊力があるので強く思われがちだが、モンスターが強くなると銃火器はほとんど役に立たなくなったのである。
ただ普通の弾丸には魔力を込めても多くを込められない上に、発射時の破裂や到着までの高速回転で魔力が拡散してしまうことが分かったのだ。
加えて直線的な軌道を描く銃弾は、銃口の向きから回避されてしまやすいなどという弱点があった。
弱いモンスターには通じる。
しかし一定以上の相手で、ほぼ弾丸の威力のみでの勝負になると威力が不足するのだ。
大型のモンスターにも通じにくいとか、人に対しても同じような理由から銃火器の使用場所はかなり限定的になった。
一般人しかいないようなところだと今でも銃を持っていたりするが、覚醒者で銃を使っている人は多くない。
もちろん魔力を込めやすい銃弾が研究されたりしたが、結果的に銃は使われていないのだ。
『オルボット・エルボザール
レベル274[220]
総合ランクB[C]
筋力B[C](一般)
体力B[C](一般)
速度A[B](英雄)
魔力A[B](英雄)
幸運D(一般)
スキル:高速魔弾生成
才能:正確なエイム』
「あいつA級覚醒者だ。しかも悪魔教、みんな気をつけろ!」
オルボットを鑑定した圭は顔をしかめる。
ステータスを見る限りオルボットも悪魔教から力を受け取っている。
おそらくスコットたちの仲間だろうと思った。
「‘今の一瞬で怪我人を回収した……相当な実力者だな’」
男は銃を腰のホルスターに収めると、状況を確認する。
「‘こりゃ……狙うべきは……’」
一瞬だった。
男が腰の銃を抜いた瞬間には銃声が響き、弾丸が撃ち出されていた。
見たこともない早撃ちにほとんど反応もできない。
誰かが撃たれることも覚悟していたが、男の狙いは圭たちではなかった。




