金と暴力1
「日本では拝金教などと呼ばれていますが、その本体となる組織は日本にあるものではありません」
「そういえばそんな話も聞いたような気がしますね」
「日本にあるものは支部……のようなもののようで、いわゆるヤクザなどの組織を吸収して日本で勢力を広げていたようです」
ゲートの前で昼食を食べる。
「本体は欧州連盟にある巨大な金融会社だと言われています。ただ表立った証拠もなく、ほぼ黒に近いグレーという状態です」
圭たちは伊丹と共に朝から二つのゲートを回ってきた。
「ですが少し前に脱税容疑で金融会社に調査が入りました。役員が逮捕されたりと大きな動きがあったようですね」
「そんな話、ニュースで見たことありますね」
「薫君、ちゃんとニュースとか見るんだ?」
「朝ちょっとだけですけどね」
薫は照れくさそうに笑う。
「そんなことがあって拝金教の一部資金などを日本の方に移してきた……ということがあるようなのです」
「それが今の騒ぎと繋がってくるのか?」
「以前我々が拝金教を摘発した時に乱入してきた悪魔教も欧州連盟に拠点を置くもので、むこうのマフィアがその母体です。エルボザールファミリー、などと呼ばれる組織ですが、あの一件以来かなり仲が悪いようですね」
「つまり今回のことは拝金教とエルボザールファミリーの争いが原因ということかねぇ?」
「我々はそうみております」
ゲートを攻略して回っているのには理由がある。
急にゲートを放置したり連絡が途絶えたりする覚醒者が増えたのだ。
本来ならばこうした場合別の覚醒者を割り当てるのが普通なのだが、放置ゲートの数が多く、この間の不審なゲートの件もある。
覚醒者協会は事情を知っていて信頼できて、もし仮に事件があっても対応できる実力の覚醒者に攻略をお願いすることにした。
それが圭たちなのだった。
ついでに普通に攻略する人が見つからないゲートも回ることになっているのだけど、どのゲートも圭たちの実力からすると簡単なのでサクサクと攻略して回っている。
「エルボザールファミリーが日本に来ている……ということですか?」
「その可能性が大きいです」
「でもさ、どうしてゲートを攻略する覚醒者が狙われるんだ?」
拝金教とエルボザールファミリーで争いが起きていることは理解した。
しかしその争いが一般覚醒者に影響を及ぼす理由が分からない。
一般覚醒者に手を出せば周りの注目を浴びてしまう。
争いが表沙汰になれば、余計な介入が増えることは間違いない。
襲う理由なんてないだろうに、とカレンは首を傾げた。
「ゲートを攻略しようとしていた覚醒者が悪魔教なんじゃない?」
悪魔教の覚醒者だとしたら狙われる理由になる。
連絡が取れなくなった覚醒者たちは悪魔教だったのだろうと波瑠は考えた。
「その可能性もあると思います」
「可能性もってことは何か別の可能性が?」
「あくまで私の推測になりますが、ゲートの横取りがメインの目的ではないかと思っています」
「ゲートの横取り?」
「たまにある話ですが、本来攻略する予定ではない覚醒者がゲートを攻略してしまうことがあります」
現在ゲートは覚醒者協会が管理していて、覚醒者は攻略の権利を覚醒者協会から与えられているという形になっている。
しかし四六時中ゲートを監視するような管理をしているわけじゃない。
時には許可を与えられていない覚醒者がゲートをクリアしてしまうこともある。
厳密に言えば犯罪なのだが、覚醒者協会としてはゲートさえ消してくれればいいという側面もあって、厳しく管理強化をすることはない。
「日本に活動拠点がある拝金教はともかく、エルボザールファミリーは日本で活動するのに資金も必要でしょう」
「勝手にゲートを攻略してお金を稼いでいるのか」
「そんなことできるの?」
「できますよ。モンスターの買取は覚醒者協会ばかりが行なっているものではありませんからね」
最たる例はブラックマーケットだろう。
表に出せないようなものでもブラックマーケットなら売り捌くことができる。
ただ、他にもろくに身分証も確認せずにモンスターの素材を買い取るところだってある。
他の覚醒者を脅して換金させることだってできる。
仮に覚醒者協会に売りにきたとしても売主の身分証は確認するが、どこのゲートでどうやって取ってきた素材かなんて確かめはしないのだ。
「以前のように犯罪の証拠を隠すためにゲートを利用している可能性もあります」
ゲートは死体処理にも適している。
拝金教とエルボザールファミリーで争いが起きているとしたら、もう裏で殺し合いが起きていてもおかしくない。
相手の構成員を殺して、その処理にゲートを使うこともある話だ。
自分たちでゲートを用意できるなら、もちろんそうしてしまうだろう。
しかし用意できないのなら近くにあるゲートを利用するしかない。
「うーん、じゃあなんで攻略しちゃわないでほっとくんだ?」
横取りするならボスまで倒しちゃえばいい。
そうすればこんなふうに攻略して回らなくてもよかったのにとカレンは腕を組んだ。




