挑めるまでになりました3
「あいつはそんなに強いこともない。私たちなら余裕だろうな」
「サクサクっと倒しちゃいましょ」
今いるメンバーはA級、B級を集めた精鋭部隊である。
よほど強くなきゃ問題になる相手の方が少ないぐらいである。
「あっと……そういえば忘れてたな」
圭はさらに助っ人を呼び出す。
『遅いよぉ〜』
腕輪が広がってゲートとなり、キューちゃんが飛び出してくる。
十一階に立ち寄った時に一度顔を見せたのだけど、久々に会ったかのように圭に飛びついて顔を舐める。
一舐めごとに顔の皮膚が持っていかれそうになる。
忘れてならない塔の味方であるキューちゃんは十一階でのんびりと過ごしている。
メルシリアが上手いこと圭の名前を出しつつコントロールしているようで、モンスターを討伐して貢献しつつ兵士の訓練なんかも手伝ったりといい子にしていた。
城の中では一種の守護者的な扱いを受けつつもあるようだ。
本当なら十四階にきた時点で呼び寄せるつもりだったのだけど、死にかけた記憶を思い出して感傷に浸るうちに忘れてしまっていたのだ。
『私の出番なんだね?』
圭のことを一通り舐め回したキューちゃんは鼻息荒くガルドンのことを見る。
「大丈夫ですか?」
「ああ……なんとかね」
顔面ビチョビチョの圭に薫がタオルを差し出す。
よだれを拭きながらキューちゃんの口が臭くないのがせめてもの救いだなと思った。
「よし、それじゃあガルドンに挑むか」
キューちゃんも呼んで戦力は揃った。
時間も惜しいし、サッサとモンスター討伐と行くことにした。
「行こう! ……えっ? ちょっ?」
『ふっふっふーん』
剣を抜いた圭の服を咥えて、キューちゃんが持ち上げる。
何をするのかと思ったら、そのまま圭を背中に乗せた。
『突撃ー!』
「あっ、まっ……」
羨ましい。
そんな言葉を波瑠が口にするよりも早く、そして速くキューちゃんはガルドンに向かって走っていった。
「あー……あれは羨ましくないかも」
圭が必死にキューちゃんの背中にしがみつくのが見えた。
「おい、私たちも行くぞ!」
結果的に圭とキューちゃんが先走る形になっている。
簡単にはやられないだろうが、慌ててみんなもガルドンに向かう。
「は、はやっ……!」
いつだか波瑠がキューちゃんの背中に乗って走ったら気持ちいいだろうな、と言っていた。
まるで黒い稲妻のように赤茶けた大地を駆け抜けるキューちゃんは、車なんかよりも速い。
すごい風を受けてなかなか余裕がなく、キューちゃんの背中に体をうずめるようにして落ちないように耐える。
気持ちいいとか楽しいとか今のところは言っていられなかった。
『どおおおりゃああああっ!』
「おわあああああっ!」
勢いのついたキューちゃんは地面を蹴って高く飛び上がる。
ふと後ろを見た圭は、みんながだいぶ引き離されていることにようやく気づいた。
『くらえ!』
キューちゃんが魔力を込めた爪を振り下ろす。
ガルドンは背中を斬り裂かれて、悲鳴のような鳴き声を上げた。
『むっ、危ない!』
ガルドンの周りに水の玉が浮かび上がる。
人の高さよりも大きい水の玉からビームのように水が噴射されて、キューちゃんはクネクネと水の間を駆け抜けてかわす。
「ピピ、楽しい!」
「そ、そうか……」
圭はもう落とされないように全力だが、圭の服の中にいたフィーネはキューちゃんライドがお気に召したらしい。
『どりゃりゃー!』
再び飛び上がったキューちゃんは魔力の刃を飛ばす。
もはや圭にはキューちゃんが何をしているのかも分かっていないが、ともかく張り切っていることだけは分かった。
「一斉攻撃だ!」
うっすらと赤城の声が聞こえる。
続いてガルドンの悲鳴。
みんなも戦っているのだなと圭は思った。
『モンスターを倒せ!
ガルドン クリア
メユナゴオド
シークレット
古代遺跡の遺物を取り戻せ』
どれぐらい耐えたのだろうか。
それは分からないが、気づくと目の前に表示が現れていた。
「け、圭さん!?」
ようやく速度が落ちて耐えなくてもよくなった。
圭は力なくキューちゃんの背中から滑り落ちた。
『圭!? どうしたの!?』
「薫君……治療を……」
「わ、分かりました!」
圭は弱々しく薫を呼んだ。
「何があったんだい?」
圭はずっとキューちゃんの背中にいた。
戦っていないと言ってしまえば人聞きは悪いが、一番安全なポジションにいたはずである。
「なかなか……キューちゃんの背中はハードでな」
どうして馬に鞍が必要なのか分かった気がした。
高速で動くキューちゃんから放り出されればかなり危険である。
だが縦横無尽に動き回るキューちゃんのおかげで色々な方向にGがかかった。
落ちなかっただけ圭も頑張った。
むしろ一番激しい戦いをしていたのは圭だったのかもしれない。
「キューちゃん、お座り」
グッタリする圭の命令をキューちゃんは素直に聞く。
「背中に乗せるのはいい。でも……背中に乗せたまま戦うのは俺ももうちょっと準備とか……慣れが必要だな」
『……はい』
張り切りすぎてしまった。
調子に乗るのが悪い癖というのは母親のメルリンにもよく言われていた。
圭に良いところを見せるのだと圭のことをすっかり忘れていた。




