次世代のアラクネ5
「なんだ!」
大地が震えるような咆哮が響き、北条たちは思わず足を止めた。
音としてはさほどでもないのに込められた魔力で頭が割れそうだった。
「あれは……!」
音が止んだと思ったら人が飛んできた。
北条が飛び上がって飛んできた人を受け止める。
「ハン・ジェヒョン……」
「‘うっ……’」
飛んできたのは韓国のA級覚醒者ジェヒョンであった。
顔をやられたのか鼻から酷く血を流している。
「‘あんたは日本のキタジョー……’」
「‘何があった?’」
北条はジェヒョンを地面に下ろし、ヒーラーを指で呼び寄せる。
「‘アラクネ……いや、あれはアラクネがドレイクを取り込んだもの……’」
「‘なんだと?’」
「‘アラクネは倒したのだが……それにそいつが怒った。早く行かねば……他の者が危険だ……うっ!’」
立ちあがろうとしてジェヒョンがふらつく。
「‘せめて治療を受けてからにしろ。今行ってもただの足手まといだ’」
「‘くっ……俺のことはいい。早く行ってくれ! あの化け物はここで倒さねばならない!’」
北条が抱くジェヒョンの印象は日本を見下したような尊大な人というものだ。
確かにジェヒョンは強く、韓国の覚醒者も質が高い。
ジェヒョンの苦言をていして、手合わせと称してボコボコにされた日本の覚醒者もいる。
そんなジェヒョンが北条の腕を掴んで必死な顔をしている。
よほどの事態なことは言葉にせずとも伝わった。
「いくぞ!」
ジェヒョンは治療を終えてから来てもらうことにして、北条たちはジェヒョンが飛んできた方に向かった。
「いたぞ!」
「……なんだあれは」
戦う覚醒者とモンスターの姿が見えた。
周りの状況を見て北条たちは思わず息をのんだ。
頭がねじ切られている死体や胴体に穴が空いている死体、頭の先から縦に裂かれたような死体まで、顔に見覚えのあるA級覚醒者たちが死体で転がっている。
まだ生きていて戦っている覚醒者たちの顔にも悲壮感がある。
戦ってはいるが、もはや死を少し遅らせる程度の抵抗をしているかのようだ。
「‘ドレイク? 人型のドレイク……’」
「‘だがクモの足のような見えるし、顔もクモのようだ’」
戦っているモンスターの姿はなんと形容したらいいのか分からない。
二足歩行で行動していて人型に近いフォルムをしている。
皮膚の感じはドレイクのようにウロコに覆われているだけど、背中からはクモの足のようなものが生えていた。
顔はアラクネのように人にも近いが、口元がカパッと開くとクモのようである。
ドレイクとアラクネを混ぜたような姿という表現がようやく理解できた。
「やめろ!」
一人の覚醒者が首を掴まれた。
抵抗するも指が首に深く食い込んで、全く逃れることができない。
北条が剣を手にアラクネドレイクに斬りかかる。
「硬い!」
一撃で倒すつもりで剣を振り下ろした。
なのにアラクネドレイクを斬ることはできずに、鈍い音が響いた。
アラクネドレイクは覚醒者の首から手を離してぶっ飛んでいく。
「大丈夫か!」
「‘ゲホッ! ……なんとか…………’」
あと少し遅かったら首をへし折られていた。
死をすぐ後ろに感じた覚醒者の顔は真っ青になっている。
「‘下がっていろ。我々があいつの相手をする’」
「‘気をつけてください。あいつの強さは異常です’」
北条はアラクネドレイクの方を見る。
動かないなと思っていたら、アラクネドレイクが転がっていた先にアラクネの死体があった。
アラクネドレイクはそっとアラクネの死体を抱きかかえてうつむいている。
まるでアラクネの死にショックを受けているように見えた。
動かないのならチャンスである。
北条たちはアラクネドレイクのことを取り囲む。
「‘母……’」
アラクネドレイクの呟きはあまりにも小さく、誰にも聞こえなかった。
「‘モンスターが動いたぞ!’」
「‘警戒しろ!’」
アラクネを地面にそっと寝かせたアラクネドレイクはゆっくりと立ち上がった。
「消え……」
「‘後ろだ!’」
アラクネドレイクはA級覚醒者が消えたと思うほどの速度で移動した。
後ろに回り込まれた覚醒者はアラクネドレイクが振るった拳に全く反応することもできなかった。
まるでボールかのように覚醒者の頭が飛んでいく。
「‘攻撃しろ!’」
相手の速度と攻撃力が高い。
動きを待ってからでは被害が拡大してしまう。
覚醒者たちはアラクネドレイクを狙った。
「後衛が狙われているぞ!」
「守るんだ!」
「うわあああああっ!」
アラクネドレイクは攻撃を掻い潜り、魔法を使う覚醒者を攻撃した。
魔法系の覚醒者は体力値も低く、アラクネドレイクの攻撃に耐えきれず体がひしゃげて飛んでいく。
アラクネドレイクは糸を飛ばして覚醒者を捕まえる。
覚醒者は糸を切ろうとするが全く刃も立たず、アラクネドレイクによってブンブンと振り回される。
生きた覚醒者を糸によって武器のように振り回す。
仲間の覚醒者を攻撃もできなくて、攻撃をためらった他の覚醒者が糸に拘束された覚醒者と衝突して血しぶきが噴き上がる。
圧倒的な暴力。
アラクネドレイクの戦いに覚醒者たちは恐怖を抱いた。




