第四次太羽島攻略作戦3
「前方にクモ型モンスター!」
少し先行していた斥候部隊がクモモンスターの接近を知らせる。
同時に周りにも変化が見え始めた。
木々に白い蜘蛛の巣が張ってある。
茂っている葉が白く見えるほどに大きな蜘蛛の巣は引っかかれば動きの邪魔になりそうだった。
「魔法使いたちは糸を焼き払え!」
木々に蜘蛛の巣がかかっているぐらいから地面や木々の間にも蜘蛛の糸が広がり始めた。
太いものでは子供の腕ぐらいはありそうな蜘蛛の糸は、どうしても戦いの邪魔になる。
剣で切るにしてもくっついてしまって上手くいかない。
やはり焼き払ってしまうのが安全で早い。
魔法を使える覚醒者たちが蜘蛛の糸を焼き払っていく。
単純に燃やしていくと森全体が大火事になりかねないので、燃やすといっても楽なことではない。
「見えたぞ!」
実際にクモモンスターの姿が見えた。
一体一体が人ほどの大きさもあって、よく見ると気持ち悪い。
八本の足を使った移動は速く、森という環境はクモにとって非常に有利なものとなる。
「"我が同胞よ! 我らの力を王にお見せするのだ!"」
ガルーたちが咆哮する。
一斉に咆哮すると、その声は一つとなって森中に響き渡る。
ガルーたちが飛び出していき、クモに襲いかかる。
「"白いのに引っかからないように気をつけろ!"」
ガルーもB級の力をあるものだけを連れてきている。
元々アラクネゲートはB級相当のゲートであり、クモはC級程度の力しかない。
ガルーの方が強く、吐き出される糸をかわして素早くクモに近づき魔力を込めた爪で無惨に斬り裂く。
「"邪魔をするなぁ!"」
エーランドが魔力を込めて吼える。
ビリビリとするような振動が広がり、クモの動きが止まる。
「"私たちも負けていられませんよ! 一宿一飯の恩……この世界で受け入れようとしてくださっている恩をお返しするのです!"」
カルキアンたちも動く。
ガルーに比べて実力の上下の差が激しかったカルキアンたちも二十人の精鋭メンバーである。
ガルーは全員接近戦闘を行うのに対して、カルキアンたちの半分は魔法使いだ。
魔法だけを見るとあまり変わらないようにも見えるのだけど、どうやら発動原理や魔力の使い方というものが違うらしくて最近注目されている。
クモは火の魔法に対して弱い。
糸は燃えてしまうし回避以外の防御手段がない。
カルキアンたちが接近戦でクモの動きを誘導して魔法使いが魔法で仕留める。
エーランドたちにしてもカルキアンたちにしても元より一つの集団であった。
連携が取れていて隙がない。
「……凄まじいな」
強いと聞いていた。
だがそれでも所詮はモンスターであると侮っていた人はガルーの戦いに圧倒されていた。
流石に二十人ものガルーがちゃんと戦っていれば絵面としても強い。
こちらの世界に来てからも戦うことを念頭においた鍛錬を怠っていなかった成果だと言ってもいい。
「‘我々も負けられないぞ!’」
インドの覚醒者たちもやる気を出す。
中には超大型ゲートの時に助け出したA級覚醒者のアイシャもいる。
超大型ゲートに関わっていた覚醒者も何人かいて、日本への恩返しだと燃えているのだ。
「人型クモだ! 気をつけろ!」
圭たちもクモと戦い、ゲートに向かって進んでいた。
すると斥候部隊が慌てて戻ってきた。
いま警戒すべきはボスのアラクネだけでなく、ボスの周りを固める人型のクモモンスターもである。
「"ガハハっ! ようやくまともそうなものが出てきたな!"」
迫り来る人型クモを見てエーランドは笑う。
「"むっ!"」
人型クモは手から糸を噴出した。
パッと広がって網のようになった糸は正面から突っ込んできたエーランドを包み込む。
「"こんなもの!"」
エーランドが蜘蛛の巣に拘束される。
糸を掴んで引きちぎろうとする。
「"ぐっ!"」
「エーランド!」
両手を広げて糸をちぎろうとしたのだが、想像していたよりも糸が頑丈だった。
一瞬ピンと張られ、それでも耐えきれずにブチリとちぎれた。
だがその一瞬の間に人型クモはエーランドの目の前に迫っていた。
殴り飛ばされてエーランドがぶっ飛ぶ。
人型クモはカカカッと笑うような音を立てながら追撃に迫る。
「"痛いだろうが!"」
地面を転がったせいで全身に糸が巻き付くエーランドはカッと人型クモを睨みつけると、ブリッジでもするように地面に手をついてグッと体を丸める。
勢いをつけてブチブチと糸を引きちぎりながら人型クモのことを蹴り上げた。
「エーランドがやや押してるけど、ほぼ互角……」
物理攻撃主体のエーランドは糸という特殊な攻撃を用いる人型クモとやや相性が悪い。
そのことを加味しても人型クモの能力は高く、エーランドが攻めきれずにいる。
A級相当の力があると見てもよかった。
「"こざかしい!"」
エーランドは爪に込めた魔力を斬撃にして飛ばし、糸を切り裂く。
その間に人型クモは木から木へと糸を使いながら移動する。
実質的な速度はエーランドの方が速いのに、糸を使った変則的な動きをエーランドは捉えきれずにいた。
「"ぐうっ!"」
木の上から人型クモが飛びかかってきた。
タイミングを合わせて殴り飛ばそうとしたエーランドの拳は空を切る。
人型クモが空中で止まったのだ。
糸を使って空中で停止したのである。
逆に攻撃を外されて隙ができたエーランドが人型クモの蹴りを喰らった。




