ひとときの休息
『ワールド◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎が譲渡されました』
『ワールド◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎が譲渡されました』
『ワールド◽︎◽︎◽︎◽︎が譲渡されました』
『ワールド◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎が譲渡されました』
目を覚ました圭の視界に真っ先に飛び込んできたのは、最近特に見慣れた表示のウィンドウであった。
ぼんやりとした頭では最初何のことだか分からなかったけれど、しばらく見つめていると頭がはっきりしてきてどういうことか理解した。
「あの野郎……」
頭がくらくらとする。
何となく何があったのか思い出してきた。
特に最後の瞬間のことを思い出すと少しムカムカする。
「床抜けるって何だよ……」
座っていたソファーの下の床が開いて落下した。
何であんな終わり方にしたのか、それは是非とも問い詰めたいところだ。
他にも何だか表示がいっぱいある。
軽く目を通した圭は表示を消して体を起こす。
知らない部屋にいる。
どこかのお城の一室のようだと圭は部屋の中を見回す。
「ん……思いの外、体の調子は悪くないな」
だいぶ簡素な服装に着替えさせられている。
体の調子がいいと圭は立ち上がってみて思った。
体を伸ばすとポキポキと音がする。
「誰もいないのか?」
部屋の中には圭以外に誰もいない。
サッと服の中を確認してみるけれど、フィーネすらいなかった。
「誰か……」
「あっ、圭さん!」
「ん、圭君おはよう!」
今の状態から見るに少なくとも死んではいなさそう。
誰かに監視されているという感じでもない。
近くに誰かいるだろう。
部屋を出て誰かを呼んでみようとドアを見たら誰かが入ってきた。
「薫と……波瑠」
部屋に入ってきたのは水の入ったタライを持った薫と白いタオルを持っている波瑠だった。
「立って大丈夫なの?」
「起きた直後はくらくらとしてたが、今は大丈夫だよ」
頭もかなりはっきりしてきた。
体の調子は悪くないので頭さえはっきりすれば問題はない。
「大変だったんですよ? 圭さん倒れて動かなくなっちゃうし」
「悪いな。ここは……」
「十一階だよ」
「圭さんをあまり動かすのも良くないと思って、ここに運んだんです」
「……つまり本当に城ってことか」
城っぽいなと思っていたが、本当に城だった。
「圭さんもう一週間も寝ていたんですよ」
「一週間も?」
圭は驚いてしまう。
せいぜい数時間、長くても一日ぐらいだろうと思っていたのだが、圭は一週間も気を失っていたのである。
「みんなに心配かけちゃったな」
「そーだよ。心配したんだからね!」
「他のみんなは?」
「カレンとか夜滝とかはここにいるよ。大海ギルドとかヴァルキリーギルドは仕事があるから塔からは降りてるよ」
「ダンテは?」
圭はロンダルシアとの戦いを思い出す。
圭も力を使い果たして気を失ったが、ダンテもルシファーが憑依して気を失っていたはずだ。
「ダンテさんもここにいるよ」
「圭さんよりも早くに目を覚ましたんですが……ひどい状態で」
「ひどい? 怪我でもしたのか?」
「体が動かせないような状態で……本人によるとルシファーさんが体に乗り移った影響だろうって」
圭よりも二日ほど早く目を覚ましたダンテだったが、調子のいい圭に比べてダンテはかなり状態が悪かった。
全身激しい筋肉痛のような状態で、ほとんど目しか動かせないような感じだった。
口が動かせるようになったダンテ曰く、ルシファーが体を使った影響なのだそうだ。
確かにルシファーの強い力を受ければ、体には何かしらの反動があるだろうなと圭も思う。
「今ようやく少し動けるぐらいです。塔を降りるのは危険が大きいかもしれませんね」
モンスターに襲われる危険がある中で、動けない人を運んでいくのはリスクが大きい。
圭もダンテも快方待ちで十一階に留まっていた。
「圭君が女神倒したって聞いたけど……」
「ああ、それは本当だ。確かにあの女神は死んだよ」
「……じゃあ本当に神様を倒しちゃったんだ」
「すごいだろ?」
「ふふ! さっすが圭君!」
本当に喜んでいいものかは謎であるが、波瑠が嬉しそうに笑うので圭も何だか嬉しくなってきた。
何はともあれ神を倒せたことで圭の命が助かったことも間違いない。
「ダンテの回復を待って塔を降りよう。十三階はまた今度だな」
色々と考えを整理することもある。
ひとまず女神ロンダルシアとの戦いを乗り越えた。
「あっ……」
「お腹空いてるんですね。今は用意してもらうように言ってきます」
圭のお腹が盛大に鳴った。
一週間も寝ていたのだ。
お腹が空いていてもおかしくはない。
薫がタライを置いて部屋を出ていく。
「圭君はベッドで休んでて! 私はみんなに圭君が起きたって言ってくるから」
「分かった。頼むよ」
圭はベッドに腰掛ける。
『灰色の君主があなたの支持を表明しました! 世界を受け取った見返りを用意しています』
「何だろうな……あんまり見られるのも気分は良くないな。ただ何かもらえるなら良さそうだ」
新しく出てきた表示を見て圭は目を細めた。
まだ少し忙しくなりそうな気配がする。
塔を登るのも、楽ではない。




