囚われた王女5
「待て、攻撃しないでくれ」
先制攻撃をしようとした夜滝を圭は止めた。
「エリーナさん、ですよね?」
「……そうよ」
真実の目を使うまでもない。
偽物のエリーナはモンスターとしての変貌をした姿をしていて比べ物にならないほど人としての形を残している。
モンスターとなった人々は目が赤く染まっているけれどエリーナの目は赤く染まらず理性的なままである。
その姿には優雅さまであった王女と呼ぶにふさわしかった。
「まさか……ここまで来ることができる人がいるとは思いもしませんでした。これでようやく終われるのですね」
「終われる? どういうことですか?」
「私は……私たちはこの世界が終わることを望んでいます。いいようにゲームのコマにされて、何度も復活させられて、もうウンザリなんです。この世界の中心は私です。私を倒せばこの世界は完全に終わりを迎えます」
エリーナはどこまでも悲しい目をしていた。
「解放しろってまさか……」
「そうです。私を倒してくださればよいのです」
「そんな…………」
完全にモンスターになっているならともかく、こうして会話までできる相手を倒すのはかなり心苦しいものがある。
「何か、方法は?」
倒さずに済む方法はないのか。
苦しみから解放されるために倒す以外の方法はないのかと問う圭にエリーナは首を横に振った。
「これから先、またこうして私のところまで辿り着ける人はいないでしょう。どうか悠久に続く苦しみを終わらせてください。文字通り、私たちを解放してください」
エリーナは穏やかな笑みを浮かべて、抵抗しないことを示すように手を広げた。
むしろそんな様子がエリーナを倒すことをためらわせる。
「もしかしたらカルヴァンに気づかれるかもしれません。早く……」
「山之内さん!」
圭だけではなく夜滝たちもかなりの人間らしさを見せるエリーナに攻撃をためらっていた。
エリーナの言い分も分かる。
世界が崩壊して世界のカケラとなって神々のゲームに利用される。
そんな中でモンスターにもならずに人の心を持っていることは苦痛であるのかもしれない。
そしてエリーナが言うように倒せば少なくともこれからのエリーナの苦痛が無くなるのだとしたらそうしてあげるのが良いのだろう。
ただそれでも善人を手にかけるような罪悪感がある。
エリーナはきっと善人だったのだろうから間違った感情ではない。
ためらう圭たちの中で山之内が動いた。
「は……ははっ」
エリーナの腹部にはナイフが深々と刺さっていた。
「やりました……! 私知ってるんです! こうした特別なモンスターを倒すと、良いものが貰えるって」
圭たちはゲートが世界のカケラであり、エリーナが王女であって元々は人だったと知っている。
だからためらっていた。
けれども山之内からしてみると人の言葉を話すモンスターに過ぎなかった。
逆に特別なモンスターだと思った。
こうしたモンスターを倒すと特別なドロップ品が出たりゲートからアイテムを与えられたりするということを山之内は知っている。
だから倒せというなら隙を見せているうちに倒してしまおうと持っていたナイフで一突きにした。
「良いものを手に入れればこんな危ないことともおさらばできる……私がこのモンスターをたおし……」
良いものが手に入ればそれを売って良い暮らしができる。
低等級覚醒者だと馬鹿にされるような人生からおさらばできるのだと高笑いする山之内。
その瞬間、天井が壊れて何かが部屋の中に降ってきた。




