ゴーレム製作者の望み5
「こいつ!」
波瑠がナイフを抜きながら地面を蹴る。
最速でフィーネに近づいてナイフを振り下ろす。
しかし波瑠のナイフは空を切った。
「なっ!」
「シンニュウシャヲハイジョシマス」
「波瑠!」
フィーネは波瑠を上回る速度で後ろに回り込んでいた。
左手を振り上げて波瑠を狙う。
カレンですら吹き飛ばされたのに中でも防御の弱い波瑠がまともに攻撃を受けたらひとたまりもない。
「させないよ!」
波瑠が動き出したのと同時に夜滝も行動を始めていた。
隙を狙って魔法を発動させようと準備をしていたのである。
フィーネが波瑠の後ろに回り込んだ瞬間に夜滝は水の玉を打ち出した。
ギリギリのタイミングで水の玉がフィーネに当たってわずかに狙いが逸れた。
「きゃっ!」
風を切る轟音が波瑠の横を通り過ぎてフィーネの拳が床を叩きつけた。
フィーネの左腕が砕け、床も大きく陥没する。
恐ろしいパワーなのはいいがストーンゴーレムの体が耐えられていない。
「こんなやつをどうするかって……どうしたらいいんだよ!」
両腕を失ったけれどフィーネが化け物のように強いことには変わりがない。
それにシークレットクエストのどうするか決めろというのもあまりにも抽象的な表現である。
倒せということなのだろうか。
圭が集中してフィーネを見ると頭がぼんやりと光って見えている。
おそらくそこに核があるのだ。
ただもう一つ気になっていることもある。
『名前を呼んであげると良いことがあるかもしれない』
そう真実の目でフィーネを見た時には表示されていた。
「ワタシハ……ココヲマモル」
「圭!」
「……フィーネ!」
目にも止まらない速さで距離を詰めたフィーネに対抗する手段はもう名前を呼んでみるしかなかった。
その結果が何をもたらすのか知らないがフィーネの力も速度も圭たちを遥かに上回っているので倒す手段もなかったのである。
手を突き出してフィーネの名前を叫んだ。
フィーネが圭の前でピタリと動きを止めた。
「……ネーム、カクニン。フィーネ……」
ただそれもどういった反応なのか分からず圭の額から冷や汗が流れる。
「マスターノオシリアイデスカ?」
「……」
どう答えるべきなのか圭は必死に考える。
知り合いではない。
けれど馬鹿正直にそう答えることは正解ではないということは分かる。
「マスターノ、オシリアイデスカ?」
少しフィーネの言葉の圧が強くなる。
あまり与えられた時間は多くない。
「マスターノ、オシリアイ、デスカ?」
「そ、そうだ!」
否定は危険。
ならば肯定するしかない。
「ゴライホウノモクテキヲオシエテクダサイ」
「……俺はケルテン博士の望みを叶えるためにここに来た!」
少ないヒントから最適解を導き出そうとする。
「マスターノ、ノゾミ?」
「俺はフィーネ、君と友達になるためにここに来た!」
一か八かの賭け。
この返しが正しいのか分からないけれど、少なくともケルテンの音声データによるとケルテンの望みはこれである。
フィーネをここから連れ出してくれる友達となること。
こんな状況でストーンゴーレムに対して友達になろうなんてイカれている。
けれどこれ以外に正しい答えも思いつかない。
「トモ……ダチ?」
「そうだ! ケルテン博士は最後に君に自由に生きて、幸せになってほしいと願っていた。それを叶えるために俺が君の友達になる!」
本当にこれでいいのか不安で汗が噴き出してくる。
ポロリとフィーネの目の下の土が崩れた。
まるでそれは涙が落ちるようにも見えた。
「マスター……ハ?」
「君のマスター、ケルテン博士はもういない」
ぼろぼろとフィーネの体が崩れていく。
“いつか君が自由となり、友を作り、この世界を見て回る。そうなればいいのだがな。いや、フィーネ、君はそう生きてほしい。
私の娘よ……”
「マスター…………オトウサン……」
「……これがフィーネの本体なのか?」
土の体が崩れ去った後に残されたのは丸い金属に四つ足が付いた不思議なものだった。
「トモダチ!」
『シークレットクエスト!
ゴーレム製作者の研究所を探して彼の望みを知ろう!
ゴーレム製作者の研究所を探す クリア
ゴーレム製作者の残した資料を探せ クリア
ゴーレム製作者の望みを知ろう クリア
フィーネをどうするのか決めろ 選択:共存 クリア
シークレットクエスト達成!』
圭たちの前に表示が現れた。
どうやら圭のした選択はフィーネとの共存という形で成功したようだ。
「これでクリア……なのか?」
「そ、そうだ! カレン!」
波瑠が思い出したようにカレンに駆け寄る。
壁に叩きつけられたカレンはグッタリとしたまま動かない。
「グッ……」
「大丈夫か?」
「全身痛い……うっ、ゲホッ」
「お、おいっ!」
カレンが口から血を吐き出してみんなが慌てる。
「大丈夫……けど……なんだったんだよ」
カレンの体は能力によってジワジワと治っていっている。
傷ついた体の中も治ってきて、溜まった血を吐き出しただけだった。
「キュキュ、トモダチ、コレツカウ!」
「うわっ、なんだそれ?」
フィーネが小瓶を持って圭の横にいた。
壁に叩きつけられて気を失っていたカレンには一切起きたことがわかっていない。
それどころか圭たちだって未だに把握しきれていないのである。




