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ハルシュタット家の日常  作者: 伊簑木サイ


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兄弟の絆2(いくつになっても)

 王太子の国旗をはためかせた大軍の一団から、一騎の騎士が抜けだした。馬を駆けさせ、ルドワイヤ辺境伯以下、出迎えの者たちへと向かっていく。

「兄上!」

 喜色に満ちた声で呼びかけ、まだ勢いの弱まりきっていない馬から半ば飛び降りる。その長身の男は兜を投げ捨てて、ルドワイヤ辺境伯とその騎士たちの許へと走り寄った。中でも最も人相が凶悪で胸板の厚い辺境伯の前に迷わずに立ち、一瞬の躊躇もなくその首に腕をまわして抱きつく。

「クラウド兄上!」

「エディアルド、なのか」

 五年ほど前に辺境伯位を継いだ長兄のクラウドは、抱き返しながら驚きと感嘆の響きを漂わせ、末弟の名を呼んだ。

「はい」

 返事とともに、己の不作法に気付き、少し恥ずかしそうに腕を離して二歩引く。そうして、きっちりと立つと、騎士の礼で流麗に頭を下げた。

「どうか長の無沙汰をお許しください。兄上方がご壮健でいらっしゃったこと、また、こうしてあい(まみ)えることが叶いましたこと、何よりも嬉しく……」

 そこでエディアルドは言葉につまった。くしゃりと顔を歪め、嬉しいのか泣きたいのかわからないという表情をする。

「……申し訳ありません。うまく言葉になりません」

「ばっかだなあ」

 罵倒というには優しい声が、クラウドの右隣の人物から、ぽんと飛んだ。三男のベンジャミンが踏み出して、今度は彼がエディアルドを抱きしめた。

「なんだよ、立派になりやがって、にーちゃん、びっくりしちまっただろう。……ああっ、くそっ、おまえ、俺よりデカくなったなっ!?」

 ガシッとした抱擁の後、すぐにエディアルドの顔を覗きこんだベンジャミンは、眉をしかめながら自分の頭のてっぺんに付けた掌を水平に滑らせ、エディアルドの額に叩きこんだ。

「生意気な!! しかも、どんだけ男前なんだ!!」

 痛くはなかったが、その衝撃に思わず額をさするエディアルドを、クラウドの左隣にいた次兄キリアンが進み出て、寂しそうに目元を光らせながら抱擁した。

「ああ、あんなに可愛かったアルが……、こんなに大きくなって、大人になってしまって……」

 なでなでとエディアルドの頭を撫でさする。

「キリアン兄さん、自分だってもう四十二なんだから、十二歳年下のアルが何歳になっているか、わかってたはずでしょう。でも、まあ、気持ちはわかるけどね。小さなアルを見送った日のことは、いまだに忘れられないもんね。やっと騎士になったって連絡をもらったと思ったら、次の連絡は、上司を殴ったとかで、死刑になるってことだったしね。どうやら助かったって聞いた後も、何年もなしのつぶてで、どれだけ俺たちが心配していたか。それが、この色男っぷりだもん。ムカつくったらないよね」

 ニコニコと毒舌をぶちまけながら、四男のウィルフレッドが、キリアンと代わって、しっかりとエディアルドを抱きしめた。

「……申し訳ありませんでした」

「うん。もういいんだ。ちゃんと生きて帰ってきてくれたから」

「ああ、そうだとも。よく帰った、エディアルド」

 クラウドが手を伸ばし、エディアルドの肩を叩く。

「おかえり」

「おかえり」

「おかえり」

 他の三人の兄たちも口々に言い、笑顔でエディアルドの腕や背中や頭を叩いた。二十年以上も前、彼らがまだ若く幼かった頃そのままに。

「ただいま戻りました」

 エディアルドは万感の思いで、ありふれた言葉を口にした。

本編終了後、7、8年後。ボワール国王王妃となったマルガレーテ王女横死に端を発する全面戦争に、王太子軍の参謀として参戦した時の出来事。

生まれた子供をルドワイヤに置いてくることにより、エディアルドは帰郷が叶いました。

サリーナも影の軍師として連れてきています。(←という建前で、本当は一日たりと離れていたくなかったため)

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