表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルシュタット家の日常  作者: 伊簑木サイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

ラスティの義務

 ハルシュタットの血に連なるとすぐにわかる、白金の髪にブルーの瞳をした少年が、領主の執務机の前に立っていた。

 眼光鋭い一睨みだけで、数多の敵に背を向けさせてきたハルシュタットの当主、ロッドバルト・ハルシュタットは、その恐ろしい顔を歪めて、椅子から立ち上がり、少年に近付いた。

「よく来たな、ラスティ」

 少年の頭を大きな手で撫で、親しげに背中を叩く。

 少年も恐れた様子はなく、ロッドバルトに笑顔を向けたところを見ると、唇の引き攣ったこれは、彼としては笑っているつもりなのだろう。少年はそれを、ちゃんとわかっているようだった。

 ……まあ、ルドワイヤの男たちは、多かれ少なかれ、そんな面相の男ばかりである。赤ん坊の頃から見慣れているのだから、今さらどうということもないのだろう。

 ただし、ラスティと呼ばれた少年は、優しい顔立ちをしていた。母親似らしく、少し垂れた目尻がチャーミングで、育てばさぞかし女性に騒がれそうだという片鱗があった。

「それは新しい剣か。どれ、抜いて見せてごらん」

 ロッドバルトが数歩下がると、ラスティはいっぱしの構えで剣を抜いてみせた。子供のものにしては少し大きい。これからの成長を見越して与えられているからだ。

「うん。よし。しまいなさい」

 ラスティは、剣の重さに振り回されることなく、きれいに鞘にしまいこんだ。柄をはなした掌には、たくさんのつぶれたマメの痕があり、子供にもかかわらず皮も硬く厚くなっていた。

 ラスティは自然と背の高いロッドバルトを見上げた。ロッドバルトも笑みを消し、領主然とした重々しさをまとって、少年の前に立っていた。

「ラスティ・カルス。ルドワイヤ辺境伯ロッドバルト・ハルシュタットが命じる。これより後、その身と剣をもって、エディアルド・ハルシュタットに仕えよ。ルドワイヤの外で血を残す役目を担う、エディアルドを守るのだ。離れた地に行くおまえたちを、私たちは守ってやれぬ。すべてはおまえの肩にかかっている。できぬと言うなら、今、申し立てをせよ」

「できます! この身にかえても、必ずアルを……、エディアルドを守ります!」

 ラスティは少年らしい真っ直ぐさで答えた。

「うん。おまえならできると信じている」

 ロッドバルトはラスティに歩み寄って、その両肩に手を置いた。ロッドバルトの顔が険しさを増す。その手に、ぐっと力が込められ、耐えきれず、ラスティは一歩ふらついた。だが、彼は目をそらすことだけはしなかった。

 そうしてロッドバルトは、ラスティを押さえつけ、ごく間近で語りかけた。

「……だが、もしも、エディアルドを失ってしまった時は」

 思いがけない内容に、ラスティが息を呑み、目を見張る。

「おまえは後を追ってはならない。ラスティ・カルスという名を捨て、おまえがエディアルド・ハルシュタットを名乗るのだ」

 ラスティは、まさか、そんなことは、と震える声で呟いた。だが、ハルシュタットの当主は、厳然と命じた。

エディアルド(・・・・・・)ハルシュタット(・・・・・・・)を守るのだ。わかるな?」

 ラスティの中にもエディアルドと同じ、いや、ルドワイヤ生まれの母を持つ彼は、エディアルド以上に濃い、ハルシュタットの血が流れている。その血を残せと言っているのだった。

「できるな?」

 畳み掛けたロッドバルトに、ラスティは、うろたえた目の色から一転、挑むまなざしで言い返した。

「エディアルドを守ります」

 ロッドバルトはしばらくラスティを見つめ、おもむろに唇を歪めて、頷いた。

「おまえたちを、信じている」

 力強くラスティの肩を揺すってから、彼は手を離した。

「その血の誇りを忘れるな。よいな?」

「はい」

「では、行ってよろしい」

「失礼いたします」

 ラスティは深く頭を下げ、執務室を退出した。


 国境を接するボワール王国との緊張が高まり、とうとう開戦となる半月前のこと。

 エディアルドとラスティは、二人きりで王都の王国騎士団へと送り出されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ