34:魔法を使う王女様と夢見がちな王子様
「十五歳!?」
フリーデルの驚愕の声が離れに響いたのは、それから十分後の事。
クレアとユーリは散歩を終えて離れに戻り、そこで待機していたヴィンスとフリーデルと共に散歩後のお茶を楽しむことにした。
だが衝撃的な事実の余韻がいまだ抜けきれないユーリの様子にフリーデルが気付き、何があったのかと尋ね、そこでクレアが先程の話をしたのだ。
そうして、フリーデルの驚愕の声が響いて今に至る。
驚愕を通り越して青ざめながら尋ねる彼に対して、ヴィンスは平然と「そうです」と頷いて返した。
「今年で十五歳になりました」
「今年で!? この前まで十四歳だったって事か!?」
「十五歳の前は十四歳なので、その計算で合ってます」
引きつった表情のフリーデルに対してヴィンスは淡々と返している。
そんな二人のやりとりをクレアはユーリと共にティーカップ片手に眺めていた。先程唖然としていたユーリも、自分より驚愕するフリーデルを見たからかだいぶ落ち着いたようだ。
「そうか、だからレイヴンの『大人なら分かるだろう』という脅しに対して自分は子供だと断言したのか」
「リズベール国では結婚出来る十八歳を成人としてるの。ヴィンスは私の近衛騎士として勤めてはいるけど、年齢的にはまだ子供だわ」
「明確な脅しになるまいと言葉を濁したのが裏目に出たとは、これはレイヴンも想定外だったろうな。てっきり俺よりも年上だと思っていた」
ユーリは今年で二十二歳。それより年上というのなら彼にはヴィンスが二十五歳ぐらいに見えていたのだろうか。
そう考え、クレアはヴィンスを呼んだ。
「ヴィンス、ユーリは貴方のことを自分より年上だと思っていたそうよ。大人に見られていたのね」
良かったわね、と話しかけるクレアの声はまるで弟を愛でる姉の声だ。それを聞くヴィンスもどことなく嬉しそうである。
そんなやりとりの中、「あ、」と声をあげたのはフリーデルだ。驚愕を通り越して眩暈でも覚えたのか、額を押さえてくらりと一度頭を揺らし……、
次の瞬間、
「ヴィンス、気絶する瞬間にフリーデルに手刀しろ」
ユーリが命じ、ヴィンスの返事と共にドスッと見事な打撃音が室内に響いた。
その音に続く「うぐっ!」という呻きはもちろんフリーデルのものである。
「人が気絶する瞬間に気絶させようとするのやめてください! 脳が混乱して意識が戻る!」
「意識が戻るなら良いじゃないか。そもそも、人の年齢を聞いて気絶はさすがに失礼だろ。……それに、」
淡々と話していたユーリが一瞬言葉を止めて間を空けた。
もったいぶるような彼の話し方に、静かに聞いていたクレアもいったい何を言うのかとユーリとフリーデルを交互に見る。
「お前だってそのなりで二十五歳なんだから、ヴィンスの事を驚ける立場じゃないだろ」
はっきりとユーリが断言する。
彼の言葉を聞き、クレアはもちろんヴィンスさえも「二十五歳……」と呟いて改めるようにフリーデルへと視線をやった。
彼は不満そうに眉根を寄せているが、元の顔付もあってか迫力はあまりない。
女性のクレアでさえ羨んでしまう長い睫毛とすべらかな肌。あどけなさをだいぶ残す顔付きと、騎士として鍛えてはいるのだろうが細身な体躯が合わさって幼く見える。まだ青年になりきれない少年の魅力というものすら感じさせるのだ。
未成年でありながら騎士として勤めているヴィンスと同様、フリーデルもまた年若くてもユーリの近衛騎士を務めているのだと思っていた。
……だけど、どうやら違っていたようだ。
「フリーデルが二十五歳……?」
「あぁ、こいつは俺よりも年上なんだ。そう考えるとお前達、良いコンビじゃないか」
楽しそうでいてどことなく意地の悪い笑みを浮かべ、ユーリがヴィンスとフリーデルに視線をやった。つられてクレアも彼等を見る。
誰より年上だと思われていた十五歳のヴィンスと、少年だと思われていた二十五歳のフリーデル。
なるほど確かにこれは面白くかつ似合った組み合わせだ。
そんな中、何かに気付いたフリーデルが「あっ!」と声をあげた。
「手紙に書いてあった『同年代の騎士』って、もしかして俺の事を十五歳だと思っていたのか……!」
「はい。てっきり俺と同年代なのかと思ってました」
「俺はお前の見た目の年齢と同年代だ!」
「俺は身も心も十五歳です」
喚くような勢いで話すフリーデルに対して、ヴィンスは相変わらず淡々としている。この態度の温度差もまた二人の年齢を逆転させて見せる。
そんな二人を眺めて、クレアは「あらあら」と落ち着きの中に若干の驚きを交え、そしてユーリはと言えば「なるほどそう言う事だったのか」と合点がいったと一人頷いていた。
「以前にクレアが書いた手紙を読ませて貰ったが、そこにヴィンスについて『同年代の近衛騎士と親しくなった』と書いてあっただろう。だが俺はヴィンスの事を年上だと思っていたし、フリーデルの見た目はあれだろう。だから不思議だったんだ」
「お互い勘違いをしていたのね」
ユーリの説明を聞いてクレアは思わずクスクスと笑った。
互いに相手の近衛兵の年齢を逆に考えていたなんて面白い話ではないか。仮に出会ったばかりだったなら「ユーリ様の近衛騎士になんて失礼なことを」と謝罪していただろうが、今はそんな堅苦しい仲ではない。
少なくとも、この勘違いを笑い合い、そして「お互い様ね」「痛み分けだな」と言い合って終わりにする仲である。――もっとも、フリーデルだけは不満なようで「人の外見に対して『あれ』とは失礼な」と眉根を寄せているが、その表情もやはり少年が拗ねているようにしか見えない――
互いに勘違いをして、今それが判明し、互いに驚いている。
それが面白くてクレアとユーリが笑い合えば、主人達のこのやりとりにヴィンスとフリーデルが顔を見合わせた。次いで彼等は分かりやすく肩を竦め合った。
「『良いコンビ』だと。まさかよりにもよってこの二人に言われるとはな。なぁヴィンス殿」
「えぇ、まったくです」
そう話し、物言いたげにクレア達を見つめてくる。彼等の言わんとしている事を察し、今度はクレアとユーリが顔を合わせた。
じっと見つめ合い、胸の内の暖かにつられて目を細め、どちらともなく小さく笑う。
そうしてテーブルの上に置いていた手をそっと重ね合った。
「そうだな、俺達はひとの事を言えないな。……なぁ、魔法を使う王女様」
「えぇ、そうですね。夢見がちな王子様」
『魔法を使う王女様』と『夢見がちな王子様』
なんてお似合いなんだろうか。
そう二人で微笑みあった。
……end……
『囚われ王女のあずかり知らぬ最強な日々』
これにて完結となります!
最後までお読みいただきありがとうございました!
さくっと気軽に読める楽しく明るいお話を目指して書き上げたこの作品、いかがでしたでしょうか?
クレアやリズベール国の最強ぶりについて、クレア達が事実を知る流れにするかどうか最後まで悩んだのですが、「もう少しユーリ達には振り回されて苦労してほしい」という気持ちがあり、この結末になりました。
本編はこれにて完結となりますが、今後も、驚き慌てるユーリと無自覚に最強なクレアの賑やかなお話をお届けできればと考えております。
その際にはまたお付き合い頂けますと幸いです。
感想、評価、ブクマもありがとうございました!




